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篠原愛紀
「開けて下さい! 美麗、私にも話を! 美麗!」
抑えた扉からは、デイビットさんがドンドンと扉を叩いている。
私の身体を気遣ってか、無理やり開けようとはしない。
個室の母や小百合さん達は、何事かと振り返り私の方を見てくる。
何とか身をよじり、デイビットさんから抜け出して先に此処に飛び込んだのは、私の口から言いたかったから。
「私、幹太さんは本当に素敵な人だし、もう怖くない時の方が多いのですが、でも、お付き合いも結婚も出来ません」
「美麗!」
母が立ち上がり、私の方へ凄い形相でやってくる。
本人を前にして、お見合いを断る礼儀の無さから、怒りで震えているのが伺えるが私も引けない。
「小百合さん、お母さん、私、今妊娠しています」
その言葉に、幹太さん以外此処に居る人は皆、言葉を失い目を見開いた。
「そして、産みたいって思ってます。産ませてもらいます」
ワナワナと震える母が、私の目の前に来ると手を振り上げた。
ソレを私は避けずに受けきろうとして真っ直ぐに見ていると、扉が開いて腕を捉えられた。
突然のデイビットさんの登場に、母はすとんと落ちるように目を見開く。
妊娠の相手だと理解したようだ。
「何を考えているの! 貴方は鹿取家に恥をかかせるの!」
「恥なんて思っていない! 勝手に今まで決めてきたのはそっちです!私の意見なんて聞かないんだから、――だから私は黙ってただけ。鳴けないみすぼらしい鳥籠の小鳥だっただけ!」
「止めなさい! みっともない姿を春月堂の皆さまに見せないで」
怒りで震える母を見て、人間らしい感情を吐露できるのだと感心してしまった。
私には冷たい視線や、つんつんした口調でしか接してくれなかったから。
「麗子さん、後日ちゃんと挨拶に伺いますから、落ち着いて下さい。皆さま、騒がせてすみません」
デイビットさんが私を背に庇うと深々とお辞儀した。
そして顔を上げると、皆の顔をゆっくり見渡す。
「ですが、私は美麗さんと正式に結婚して、彼女を心から守っていきたいと思っています。彼女を愛しています」
一か月も会わなかったくせに、そんな真っ直ぐな事を言うなんて。
まだ素直に慣れない気持ちが、デイビットさんの気持ちを疑ってしまう。
未だに、ふわふわした夢の中にいる気分だ。
「まぁ、俺は本当に好きな奴なら妊娠してても問題ないんだがな」
重い雰囲気の中、幹太さんがゆっくりと喋り出す。
「俺は奥手でも恋愛に興味ないわけでもなく、――大切な奴とその子供がいるってこと。あと、早く一人前になって傍に居てやりたいってことだ」
「幹太さん……」
その大切な人が誰なのか思い浮かんでしまった私は、言葉を失う。
いや、春月堂の皆さまならきっと分かるだろう。
「つまり、貴方達は最初からお見合いの席ではなく、己の気持ちを宣言しようと企てていたのね」
小百合さんが嘆息しながら疲れた顔で言う。
今日を楽しみにしていた二人には申し訳ないことをしてしまったけれど、私ももう後には引けない。
「すいません。でも、この子を産みたいって失いたくないって決めたんです」
お腹を押さえながらそう言うと、小百合さんは力なく笑う。
「麗子さんは頑固だから、しっかり話合いしなさいね」
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