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「……なんで?」
「……あ、うん?なんて?」
穏やかな昼下がり。軽い足取りで隣を歩く少年に、少女は困惑していた。
「……なんで、あなたなの」
少女の名はムニカ。茶髪のポニーテールに、左目に付けた仮面が特徴の、雰囲気がなんだか不思議な少女だ。
「なんで、って。イヌイに呼ばれただけ」
少女の疑問に振り替える少年はヒトネ、ムニカの上司にあたる、猫のような男。
前を歩くヒトネに、ムニカは理解不能と言わんばかりの顔をした。
「なんで、そんなに楽しそうなの。任務なのに」
「え、なにその質問」
ヒトネはウケる、とでも言うように笑う。
「……楽しくないよ。でも、楽しそうにしてれば、楽しくなるよ」
その回答に、ムニカは考えることを諦めた。
(やっぱこの人、合わない……)
前から薄々感じていた。
なんでこんな怖い組織に入って、ヘラヘラ笑ってられるのだろう。
楽しくなる?そんなわけない。
自分は任務が……いや、このキビアイという組織が、すごく嫌なのに……
「ムニカちゃんは、なんでキビアイに入ったの?」
その問いに、ムニカは言葉を詰まらせた。
……何、この人。
それって、聞かないのが暗黙の了解じゃないの?
なんで急にちゃん付けなの?会議の時には、もっと怖い顔で呼び捨てされたのに。
もしかして二重人格なのかな、たまに泣いてるのを見るけど、お兄さんも大変だな……
そこまで考えて、また諦める。
「……知りたいなら、先にそっちから教えて」
慎重に返すムニカに、ヒトネはまたにっこり笑った。
「いいよ、別に」
彼のことだ。どうせ興味本位やそこらへんなのだろう。
しかし返ってきた答えは意外なもので、それと同時に、ムニカを深い困惑へ陥れた。
「セツナちゃん、タヨキミにようこそ~!!」
大きく響く、クラッカーの音。
いつも書類やパソコンが並んでいる木のテーブルには、色とりどりのお菓子が並べられていた。
「わぁ~っ!」
チョコレート、シュークリーム、ケーキにアイス。目を輝かせるセツナの横で、ユズキが微笑んだ。
「好きなだけ食べてください」
さっそく目の前のクッキーに手を出すセツナの後ろから、ガンッ、ガンと人が暴れる音がする。
「なんっ…………でやねん!!」
ユズキが振り替えると、椅子に縛り付けられているツキミが、体を左右に振って暴れていた。
「こうでもしないと、食いしん坊のデブツキミさんが、セツナちゃんのためのお菓子ぜーんっぶ食べちゃうもんね~っ!ぼくってば、やっぱり天才☆」
「縛り付ける事ないやろがい!!」
「…………でも、セツナちゃん、ツキミ先輩を面白がってますよ……」
ヤマが恐る恐る言う。それを聞いてツキミは、
「んまあ……それならええわ」
と大人しくなった。
「チョっっっロ」
カナタが嘲笑うと同時に、カエデに訊く。
「ねえカエデ、セツナは犯罪者だけど、タヨキミに置いといていいの?」
あまりにもデリカシーのない質問に、カエデがカナタをぶった。
「……いいみたいよ。この子は誰も殺してないから、金は国が出すんだってさ。キビアイは特殊で、なぜか罪には問われないらしい。第一にタヨキミはキビアイメンバーを『救う』ためにつくられた組織だから、お前らの好きにしろって」
「へ~、便利なもんだね、幸運じゃん」
またもや失礼な物言いをするカナタの顔を、カエデは正面から蹴った。
「……いい雰囲気のとこ悪いけど、次の敵の情報が来たよ」
その声に、一同は素早く声の主・リオの方を向く。
「今回の敵は[ムニカ]。炎使いの、女の子だって」
それにセツナが反応する。
「ムニカちゃん、知ってるよっ!もの静かで、頭がいい子なの。上司が嫌いっていってたなぁ」
「ありがとうセツナちゃん、あとほっぺに生クリームついてるよ~」
ユカリがセツナの口元を手で拭い、それを自分の口に入れた。
「……! ありがとうユカリちゃんっ」
セツナははにかんで「えへへっ」と笑うと、ムニカについて、覚えている事をとことん話した。
「能力はね、床に魔方陣を出して、そのなかをぼぼぼーって燃やすんだ!それでよくルナさんにライターがわりにされてて、そのせいで先輩が嫌いになっちゃったのかな?キビアイってね、上下関係が厳しくて、とくにハルカさんとルナさんが、いっつも後輩を虐めるのっ。
それで抜けちゃう子もいっぱいいたんだけどね、その人たちは口封じのために、みんなボスが、上層部のお兄さんたちにお願いして、殺したの」
「……上層部が後輩に何をしようと、耐えられなかった後輩が殺られるんだな。しかも、自分の手を汚さずに。随分ひどいねえ、潰しがいあるなぁ」
カナタが軽そうに呟く。
「……っていうか、今、セツナちゃん、ボスって言った!?」
カナタの呟きのせいで埋もれた単語に、サユが声をあげた。
それをきいてハッとしたソーユが、セツナに訊く。
「セツナちゃん、ボスの名前ってわかる?」
「うんっ、えーと…………あれっ?」
自信満々に頷いたセツナだが、咄嗟に思い浮かばない。
「思い出せない……」
セツナは混乱し、手を頭に当ててどうにか思い出そうとした。だが、いくら考えても、ボスの名前どころか、顔も声も思い出せない。
「……記憶は抹消済み、ってところか……どんな能力かは知らないけど、部下がいつ裏切ってもいいようにしてんだね。実際、セツナちゃんは、なんか操られてたんでしょ?」
ソーユが人差し指を立てて、思い出したように言う。
「その時って、どんな感覚だったの?」
その疑問に、セツナはハッとしたような顔をした。
「そうだ、あのとき……頭の中で、ボスの声が聞こえたの」
「頭の中で……?」
「うん。頭がすごく痛くなって、そしたら耳がキーンってして……たしか、『できるよね、セツナ。俺の言うこと、聞けるよね』とかって言われた気がするっ……!」
セツナは、自分で言い出して泣きそうになる。それを見かねたユカリが椅子に座り、膝の上にセツナを乗せて頭を撫でた。
「……聞いたところだと、随分ブラックやな」
「逆にホワイトだったら驚きますけどね」
ツキミの呟きをリオは流して、そのままカナタを振り返った。
「ムニカ、っていったっけ。この任務……こっちの場所さえ特定されなければ一方的に押せるので、遠距離派のカナタ先輩が強いと思うんですが」
「ぼくも賛成~」
タヨキミ一番の頭脳派であるソーユが賛成したことにより、カナタは断れないような状況になった。
「……いいよわかった、カナタがやるよ。その代わり、リオも手伝うこと」
「えっ」
「言い出しっぺはリオだからね。リオのせいでカナタ、めんどくさい事しなくちゃなんなくなったじゃん」
不貞腐れるカナタに、一同はため息をつく。
「……いいですよ、わかりました」
リオはさらにため息をついて、情報収集のためカナタと共にアジトから出た。
「……!」
いきなり、助走もつけず垂直跳びをしたヒトネに、ムニカは驚いた。
軽く……100cmは跳んでいる。
いや、自分の身長より少し低いくらいまで跳んでいるから、130cmほどだろうか。
さらに驚いたのは、滞空時間。
明らかに人間ではない。
混乱の最中、遠くの方から、長いものが回る……空気を切るような、ブンブンした音が聞こえた。
長い剣のようなものが、こちらに向かってきている……?
ヒトネはその長い剣を、空中で片足で蹴る。
剣は蹴られたところからボキりと折れ、割れた双方が反対方向に飛んでいった。
え、この人、今、何した……?
蹴りで、とんでもない速さで飛んできた金属の剣を、折った?しかも、空中で?
普通の人間には成し得ない事をしたヒトネに気をとられていたが、ムニカはハッとして、周囲を警戒する。
(……え、いない)
見渡すが、どこにもヒトネの姿はない。
「……なんで?」
困惑していると、視界の隅に、黒髪の少女が見える。
「!?」
剣をいきなり振られ、ムニカは咄嗟に避ける。
「……ちっ」
聞こえた舌打ちに前を見てみると、剣をもった少女が、背後にもう一本剣を浮かせて、立っていた。
『……リオです。案外早く見つかりましたね、先輩』
「……うん。それにしても……カナタが飛ばした剣、どこいったの?消えた?探してよ~」
街路樹のうえ。そこには枝分かれした幹に座り、トランシーバー片手に指を左右にふるカナタがいた。
『……刃のところでポッキリ割れた剣が、道脇に転がっています。多分、誰かに割られたんだと思います』
リオの言葉に、カナタは信じられない、というような顔をした。
「あの剣は、リオの複製品とは言え、めっちゃ硬い金属でできてるのに!?リオ、気をつけてね、そいつ結構強いっぽい」
大真面目な顔で言ったカナタの耳に、高い声が響く。
『バっカじゃないの、カナちゃん。地面に炎を出す能力の若い女の子が、そんな剣を割れるワケないじゃんっ!』
声を張るソーユに、カナタは少しキレて、「じゃあテメエの言い分聞かせてみろソーユ!」と叫んだ。
『そうだね……セツナちゃんの時から考えるに、多分、上層部の付き添いがあったんじゃないかな』
「……付き添い?」
『……うんっ。多分だけど死なれたら困るから、逃げるのが得意で強い上層部を連れて、ピンチになったら逃がす……でもイヌイはセツナちゃんを送ってすぐ帰っちゃったから、戦いには加勢しないんだね。だから多分、上層部が剣だけ折って帰っちゃったんだと思う』
ソーユの意見を聞きカナタは、納得したのか「ふん」と鼻を鳴らす。
「……だってさ。雑魚しかいねえなら、ド派手にやっちゃえ♡」
『……随分と、楽しそうですね……』
リオのため息が聞こえてきた。カナタはそれを気にすることもなく、もたれかかっていた枝から背中を離して木から身を乗り出す。
「カナタもやりたあい!久し振りに暴れたあーい!」
『カナちゃん、めっ、だよ!カナちゃんが本気で暴れたら、多分、国のひとつやふたつくらい征服できるんだからねっ!なんでこんなに好戦的な単純バカが、こんなに強く……』
「おい単純バカってなんだよ!いーじゃん別に、もしかしたら上層部が出てくるかもしれないし!リオが死んじゃってもいいの!?」
「勝手に殺さないでください」
必死なカナタに、リオは呆れた。ソーユもカナタの我儘に困ってしまい、うーん、と考える。
『……じゃあ、上層部が出てきたら行っていいよ。ただし、誰も殺さないこと』
ソーユの提案に、カナタの表情が明るくなった。
「ありがと!ソーユせんぱぁい大好きい♡」
「ごぶっ」
トランシーバーの奥から聞こえる吐血音に、カナタは「ひゃはっ」と面白そうに笑う。
そんなカナタに、リオは再度ため息をついた。
(……自分は、どうすればいいの)
トランシーバー片手に誰かと話してるリオに、ムニカは困惑した。
(敵の後ろに剣が浮いてる……遠隔操作?まったく同じ剣を敵が持ってて、さっきも同じものが飛んできたから、タヨキミの中に、たぶん複製の能力者がいるのかな……わかんない。やめよ)
ムニカはまた、考えることを諦めた。
(自分は、なにしたって、どうせ……)
今のことも、きっと、連れてきたあいつがとっくに報告してる。自分は所詮、タヨキミを誘き出すための捨て駒だ。
それに気づけず、上層部の妙な優しさに呑まれて、セツナはキビアイに捨てられた。
(タヨキミが救ったみたいにされてるけど、ボスはきっと、自分たちを、いつでも殺せる。でも力がいるから大変で、セツナには、力を消費してまで殺す価値もなかった……きっと、そんなところ)
自分は、どうなるのだろうか──タヨキミには行きたくない。
(……きっと、上層部に粛清されるんだろうな。もしかしたら、そんな価値もないかもしれない……)
二度程、目の前で、仲間が粛清されたことがある。
1回目に殺したのは、いつも煙草を差し出してくる目が細いあいつ、ルナ。
拳銃を喉の奥まで突き刺して、すごく楽しそうに、バン、って。
撃たれた人は、喉から血を出して死んでた。
2回目は、黒メッシュのあいつ。そうだ。イヌイって人。
イヌイはすごく怖くて、よく覚えていない。
たしか人が変わったように怖く笑って、釘バットで頭を何回も殴って、大爆笑してた。
返り血なんて気にもせず。なぜか目から涙が出てたのと、口からは涎も出てたと思う。
とにかく、No.4とNo.5は、異常。これはキビアイでの共通認識だ。
ルナの日はともかく、イヌイの日は、殺された現場を一緒に目撃した相部屋のルカと、震えながら寝た。
もし自分が殺されるとしても、あんな殺され方は嫌だ。
できるだけ、平和に……
空気を切る音に、ムニカはハッとした。
リオがムニカと距離を詰めて、剣を振る。ムニカは避けて、リオの足元に、魔方陣を展開した。
魔方陣に気づいたリオが咄嗟に避け、誰もいない地面から火がたちのぼる。
「……あまり避けたら、ここ一帯が火の海になる」
リオはあたりをばっと見渡す。
確かに、この道の脇には街路樹が植えられている。しかも、この頃、空気が乾燥してくる季節。木に火がつけば、一瞬にして燃え広がるだろう。
そんなことになれば、ここのあたりに住んでいる、一般人が危ない。
「どうしますか、カナタ先輩」
リオは小声で、トランシーバーの先のカナタに聞いた。
『……ソーユ、お前、今すぐ来い。おまえの能力がめっっっちゃ役立つんだけど』
カナタの声が聞こえる。『しょうがないなあ』と、嬉しそうなソーユの声も聞こえた。
その瞬間、建物の影から、ソーユが飛び出してくる。
「そんなこともあろうかと、実は近くで待機してたんだっ☆」
『おいっ、てんめ……!ずりい!』
カナタを無視し、ソーユは自らの能力・操水を使って火を消す。
「ぼくの能力があれば、火なんて怖くないねっ」
舌を出すソーユに、ムニカは焦った。
(ひとり増えた……!)
やばい、勝てない。きっと勝てない。
しかも、相手は水を操る能力……自分と相性が悪すぎる。
本当に粛清される。どうせ、誰も助けてはくれないのだろう。
死を覚悟した瞬間、ふと、体が軽くなった。
「……やりぃ♡」
男の子の声が聞こえたかと思うと、木から、カナタ……?が飛び出してくる。
そのままカナタは、浮いていた剣を握って、こちらへ走ってきた。
死ぬ……!
そう思ったムニカは、咄嗟に足を動かした。だが、体が動かない。
まって……自分、いま、誰かに……
ムニカを抱えたヒトネが、カナタが振り下ろした剣を蹴り返す。
「……No.6か」
カナタは、蹴られて曲がった剣を再度振った。
「……ちっ」
無言でカナタのほうを向いたヒトネが、目を見開く。
信じられないような、迷うような、ただ殺意のこもった眼差しに、カナタは戸惑う。
「……ハ」
小声で呟くヒトネに、カナタは聞き返す。
「は?」
そんなカナタを無視し方向転換をして、瞬間、ヒトネは姿を消した。
「あっ、逃げた!」
ムニカを連れ去られてしまった。
「……剣、曲がっちゃった……」
カナタがショックそうに眉を下げると、ソーユが
「アキトが直してくれるよ。しばらくの間は、リオちゃんの複製品を使いな」
とカナタを慰める。
「あー、だるっ」
前を行くリオとソーユに距離を取り、カナタはふと、ヒトネを思い出す。
(……No.6、カナタの顔見て、怒ったよね……?)
そう思い振り返るが、当然なにもない。
ムニカの火に焼かれ変色した地面を見て、カナタは、何やら嫌な予感がした。
続く
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