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第48話「エルフと同棲すると会社に全部ばれる場合」
同棲開始。
四日目。
午前八時三十分。
営業企画部。
田中美咲。
森野リリカの弁当。
見る。
相沢直人の弁当。
見る。
もう一度。
森野。
相沢。
弁当。
「完全に同棲ですね」
森野。
「違います」
ぴく。
相沢。
「もう無理だよ」
「相沢さん!」
田中。
「卵焼き」
森野。
「はい」
「同じ」
「偶然です」
「ブロッコリー」
「はい」
「同じ」
「偶然です」
「唐揚げ」
「はい」
「同じ」
「偶然です」
田中。
相沢の弁当から。
小さな紙。
取る。
『直人』
森野。
停止。
相沢。
停止。
田中。
「名前まで書いてある」
森野。
「返してください!」
田中。
「直人」
「読まないで!」
月島セシル。
「名前で呼んでるんですか?」
森野。
「呼んでません!」
ぴく。
相沢。
「家ではたまに」
森野。
「相沢さん!」
営業企画部。
ざわつく。
部長。
「朝から何やってる」
田中。
「森野さんと相沢さんが同棲しました」
部長。
「そうか」
森野。
「部長!」
部長。
「会社に届け出必要なら人事に確認しとけよ」
「まだ住所変更しただけです!」
全員。
沈黙。
森野。
「あ」
田中。
「住所変更した」
月島。
「確定ですね」
藤堂ユウ。
「おめでとうございます」
森野。
「おめでとうじゃありません!」
部長。
「別に悪いことじゃないだろ」
森野。
「そうですけど!」
部長。
「じゃあ仕事」
「はい……」
昼休み。
森野。
机。
突っ伏す。
「三日」
相沢。
「何が?」
「秘密にできた期間」
「長いほうじゃない?」
「短いです!」
「耳出して生活してる人が言う?」
「それとこれは別です」
田中。
近づく。
「質問いいですか?」
森野。
「駄目です」
「一問だけ」
「駄目です」
「寝室は」
「田中さん!」
午後。
人事部。
住所変更届。
森野。
相沢。
二人。
窓口。
人事担当。
書類を見る。
「同住所ですね」
森野。
「はい」
「世帯は?」
「別です」
「承知しました」
淡々。
終了。
森野。
廊下。
「普通でしたね」
相沢。
「何を期待してたの?」
「もっと」
「うん」
「驚かれるかと」
「人事はいろんな人見るから」
「そうですね」
そこへ。
人事担当。
追いかけてくる。
「あ、森野さん」
「はい?」
「一点だけ」
「何でしょう」
「生年月日」
森野。
嫌な予感。
「はい」
「システム上」
「……」
「入力できません」
相沢。
笑う。
森野。
「そこ?」
「年が古すぎまして」
「何年まで?」
「一九〇〇年以降です」
森野。
「私、一八八三年です」
「ですよね」
相沢。
「システムより年上」
森野。
「笑わないでください!」
人事担当。
「改修依頼出します」
森野。
「お願いします」
同棲。
一週間目。
朝。
午前六時二十分。
相沢。
起床。
森野。
寝ている。
午前六時三十分。
「森野さん」
「……」
「起きて」
「あと五分」
午前六時四十分。
「五分過ぎた」
「エルフ時間では」
「そんなものない」
「あります」
ぴく。
「嘘」
午前六時五十分。
森野。
ようやく起床。
髪。
爆発。
耳。
完全露出。
相沢。
「おはよう」
森野。
「……おはようございます」
「朝弱すぎ」
「夜型なんです」
「百四十三年間?」
「だいたい」
洗面所。
二人。
歯磨き。
鏡。
森野。
髪を整える。
以前。
毎朝。
長い時間をかけて。
髪を巻き。
耳を隠していた。
今。
髪。
そのまま。
耳。
出したまま。
相沢。
「早くなった?」
森野。
「何が?」
「朝の準備」
森野。
少し考える。
「三十分くらい」
「そんなに?」
「耳を隠すの」
「うん」
「大変だったんですよ」
相沢。
鏡越し。
森野を見る。
「もう隠さない?」
森野。
耳に触れる。
「たぶん」
「たぶん?」
「絶対とは言いません」
「どうして?」
森野。
少し考える。
「隠したくなる日も」
「うん」
「あるかもしれないから」
相沢。
「そっか」
「はい」
「そのときは隠せばいい」
森野。
鏡越し。
相沢を見る。
「はい」
朝食。
トースト。
卵。
コーヒー。
相沢。
新聞。
森野。
スマートフォン。
普通。
あまりにも。
普通。
森野が。
ふと。
笑う。
相沢。
「何?」
「いえ」
「何?」
「私」
「うん」
「こういうの」
「何?」
「朝」
「うん」
「誰かと一緒に」
少し間。
「毎日ご飯食べるの」
「……」
「かなり久しぶりです」
相沢。
「何年?」
森野。
考える。
「八十年くらい」
相沢。
「重い」
「聞いたの相沢さんです」
「八十年ぶりの朝食か」
「正確には一人暮らしが長かったという意味です」
相沢。
「じゃあ」
トースト。
かじる。
「明日も」
「はい」
「明後日も」
「はい」
「食べればいい」
森野。
「そうですね」
耳。
少し上がる。
同棲。
二週間目。
問題発生。
冷蔵庫。
午後十一時。
森野。
開ける。
停止。
「……」
相沢。
テレビ。
「どうした?」
森野。
「相沢さん」
声。
低い。
「はい」
「私のプリン」
相沢。
停止。
「……」
「知りません?」
「……」
森野。
冷蔵庫から。
空の場所。
指さす。
「ここ」
「……」
「『リリカ』って」
「……」
「名前書いてありました」
相沢。
「森野さん」
「はい」
「説明させて」
「どうぞ」
「賞味期限」
「はい」
「今日までだった」
「はい」
「だから」
「はい」
「食品ロスを」
森野。
耳。
ぴくぴく。
「食べましたね?」
「食べました」
「条件十一」
「名前を書く」
「条件十二」
「名前がなくても勝手に食べない」
「はい」
「名前ありました」
「はい」
「悪質です」
相沢。
「明日二個買う」
「三個」
「二個」
「四個」
「増えてる」
「精神的損害」
相沢。
「三個」
森野。
「成立」
翌日。
相沢。
プリン。
三個。
森野。
一個。
相沢へ。
「何?」
「一個あげます」
「俺が買ったんだけど」
「私のです」
「そうだけど」
森野。
「一緒に食べます」
相沢。
笑う。
「はい」
同棲。
三週間目。
日曜日。
インターホン。
森野。
「誰でしょう」
相沢。
モニター。
「……」
森野。
「誰?」
相沢。
「神崎」
森野。
「え?」
そして。
もう一人。
女性。
水原香織。
森野。
目。
輝く。
「二人で来た!」
相沢。
「嬉しそう」
「だって!」
玄関。
開く。
神崎レオン。
紙袋。
水原。
ケーキ。
神崎。
「お邪魔します」
森野。
神崎を見る。
水原を見る。
神崎を見る。
「何ですか」
「別に」
「耳を見ないでください」
神崎の耳。
少し赤い。
森野。
「順調ですね」
「帰りますよ」
水原。
笑う。
「リリカさん」
「はい」
「この人」
神崎。
嫌な予感。
「香織さん」
森野。
停止。
相沢。
停止。
水原。
笑顔。
「今」
「……」
「名前で呼びましたね」
神崎。
耳。
真っ赤。
森野。
「香織さん!」
神崎。
「リリカ!」
相沢。
「初めて聞いた」
森野。
「レオンが女性を名前で!」
神崎。
「百四十七年生きてれば呼びます!」
水原。
「私たち」
神崎。
「香織さん」
「付き合ってます」
沈黙。
森野。
「……」
耳。
ゆっくり。
立つ。
「本当に?」
神崎。
諦める。
「はい」
森野。
「いつから?」
水原。
「先週」
森野。
「どっちから?」
神崎。
「その質問必要ですか」
森野。
「必要です!」
水原。
「私から」
森野。
「やっぱり!」
神崎。
「何がやっぱりなんですか」
森野。
突然。
神崎へ。
「よかった」
神崎。
止まる。
森野。
笑う。
「本当に」
「……」
「よかった」
神崎の耳。
少しだけ。
下がる。
「ありがとうございます」
百四十三歳のエルフ。
百四十七歳のエルフ。
元婚約者。
今は。
それぞれ。
別の人の隣。
四人。
ケーキ。
コーヒー。
話す。
水原。
「ところで」
「はい」
「二人は同棲?」
森野。
「はい」
神崎。
森野を見る。
「リリカが?」
「何ですか」
「他人と暮らしてる?」
「失礼ですね」
「七十年前」
「……」
「共同生活は無理って」
「昔の話です!」
神崎。
相沢を見る。
「大変でしょう」
相沢。
「プリン以外は」
森野。
「相沢さん!」
夕方。
二人を。
見送る。
森野。
玄関。
「レオン」
神崎。
振り返る。
「何です?」
「今度」
「はい」
「香織さんと」
「……」
「また来て」
神崎。
少し笑う。
「はい」
ドア。
閉まる。
森野。
「よかった」
相沢。
「嬉しい?」
「はい」
「元婚約者なのに」
「元婚約者だからです」
「そっか」
森野。
「相沢さん」
「何?」
「私も」
「うん」
「幸せですから」
相沢。
見る。
森野。
言ったあと。
照れる。
耳。
赤。
「何ですか」
「いや」
「何ですか」
「もう一回言って」
「嫌です」
「幸せ?」
「聞こえたでしょう」
「聞きたい」
森野。
「……」
相沢。
「森野さん」
森野は。
少し迷って。
言う。
「幸せです」
耳。
動かない。
その夜。
午後十時。
インターホン。
相沢。
「誰?」
森野。
モニター。
停止。
「……」
相沢。
「どうした?」
画面。
女性。
長い耳。
明るい茶色の髪。
藤堂アリア。
その隣。
藤堂ユウ。
さらに。
車椅子。
藤堂修一。
百二十五歳。
人間。
森野。
「全員?」
インターホン。
アリア。
『リリカ』
「はい」
『泊めて』
森野。
「え?」
『家が』
「はい?」
アリア。
ものすごく明るく。
言った。
『燃えた』
森野。
「えええええ!?」
同棲生活。
三週間目。
二人暮らし。
終了。
突然。
五人暮らしになった。
コメント
1件
いやもう最後の「燃えた」からの五人暮らしには声出して笑いました(笑)。同棲発覚の流れから人事の年システム問題、プリンの攻防戦、そしてまさかの神崎&水原カップル誕生報告まで、全部がテンポ良くて楽しかったです。「八十年ぶりの朝食」って台詞にじんわり来たし、森野さんが「よかった」って言えたのが本当によかった。次話どうなるんだろう、五人暮らし……楽しみです!