注意事項
・作者の創る物語は、殆ど、同じ世界です。
・【運命の交差点〜予期せぬ未来図〜】に繋がる部分があります。読まなくとも楽しめますが、読んだ方がより楽しめると思います。
・旧国出ます。(喋りはしません。)
・オマケにも似たような物なので、それぞれのキャラクターについて知りたいなら、【運命の交差点シリーズ】を読む事をお勧めします。
・政治的、戦争賛美の意図は有りません。
私、バチカン市国様のドール市華には、沢山のお姉様がいます。
と言っても、実際に会った事があるのは、伊華お姉様だけ。
伊華お姉様のお姉様、王華お姉様は、生きているのか、死んでいるのかさえ分からぬ状態です。
王華お姉様よりも年上のお姉様方は、もう既に神の元に旅立っております。
正直今の私には王華お姉様の事を気にする理由という物がありません。何故なら、伊華お姉様が悲しんでいた理由は王華お姉様のせいでもあるからです。
ですが、それでも一応私のお姉様です。敬意くらいは払います。
王華お姉様よりも上のお姉様、王詞お姉様は既に他界しているようで、王華お姉様の部屋から王詞お姉様が残したと見られる手紙がありました。それに、今は誰も使っていない彫刻の置いてあるアトリエも有りました。
伊華お姉様曰く、王華お姉様は余りご自身の事をお話にならなかったそうで、私が推測したとしても、真実は不透明のままです。
と、言う事よりも、今は大変な事が起きています。
玄関から呼び鈴の音がしたと思い、扉を開けると、私に衝撃が走りました。
「お、王華、お姉様、ですか?」
やっとの思いで絞り出せた言葉はたったその一言でした。
目の前にいたのは、ご自身の主であるイタリア王国さんを担いでいる王華お姉様でした。
「そうなんね。ioは、イタ王様に仕えるドール、王華なんね」
目元に包帯を巻き付けていらっしゃるから、瞳から感情を読み取る事が難しいですが、王華お姉様は至って冷静に見えました。
「旅行と、その準備の為に荷物をまとめる為に、此処に寄ったんね」
一見穏やかそうに見えましたが、口元はどこか緊張と不安が見え隠れしているような気がしました。
伊華お姉様曰く、王華お姉様は伊華お姉様に酷い事を言って、捕虜として連合国の方に渡ったとの事です。
私達ドールのリーダーの愛華さんによると、王華お姉様は伊華お姉様が可愛くて仕方が無いシスコンらしいので、きっと、酷い事を言うのに相当心が痛んだんでしょう。
そして、今不安と緊張を感じていらっしゃるのは、伊華お姉様がいた時、どんな顔をして会えば良いのか分からないからでしょう。
そんな考えを巡らせていると、ふと、声が漏れ出るように王華お姉様に声をかけていました。
「お疲れ様でした。それと、お帰りなさいませ」
今の王華お姉様は、捕虜として居た頃の辛さと、時代の変化による心労で、疲れているに違いありません。
「伊華お姉様は今、日本国にいるので、ここには居ませんよ。それと、はじめまして。私は、バチカン市国様に仕えるドールで、伊華お姉様と王華お姉様の妹である市華と申します」
王華お姉様を安心させる為に、伊華お姉様の不在を知らせる。
因みに伊華お姉様は、少し前にご自身の主であるイタリアさんと共に日本国へ向かいました。
「そっか、分かったんね。市華、ioは姉として伊華にも、市華にも殆んど何もしてあげられなかったんね。それは、きっとこれからもなんね。そんな姉でもまだ、ioの事を姉として慕ってくれるんね?」
あぁ、王華お姉様、とても悲しく、苦しそうです。
そうか、王華お姉様は、ご自身の首を自ら締め上げているのですね。自分を罰する為とでも言いたげに。
「……王華お姉様、お姉様はお優しいんですね。ですがご安心ください。私のお姉様達には代えは居ません。無くす事もありえません。私で良ければ、いつでもお話を聴きますよ」
私がいつも身に着けている純白のローブが陽の光に反射してキラキラと輝く。
まるで、王華お姉様と私を照らすように、雲の切れ端からここに光が届きました。
「王華お姉様、このまま立ち話もなんですし、早くお入りくださいな。そうそう、王華お姉様の事、私もっと知りたいんです。沢山教えて下さいね」
そっと微笑み、私がそう言葉のボールを渡すと、王華お姉様もまた、そっと微笑み返してくれました。
そして一言「可愛い妹のためなんね」と言ってくださいました。
途中参加のような、初対面にも関わらず私を妹と認めて下さった王華お姉様。
そんなお姉様に幸多からんことを。
終