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「俺がやったってどういうこと?」
右腕を真っ直ぐ前に伸ばしたまま、大我は静かに問う。
「大我が、元警視総監の拉致に関わってるんでしょ。俺ら捜査の追っ手が迫ってるのを察知して逃げたっていうのは、やっぱり内通者がいるとしか思えない。しかも大我は身内だ。警視総監に指示でもされたんだろ?」
高地の拳銃を持つ手は僅かに震えていた。
「なんで俺がわざわざ祖父を拉致する? メリットがない。しかも、いなくなったのを報告してきたのは父親だ。矛盾してる」
反駁され、高地は右手を下ろした。それを見て、大我も銃をしまう。
「チャカで脅そうとするなんて、成長したね」
茶化すように大我は言う。「それ、弾入ってる?」
「……入れてるわけないでしょ」
悔しげに高地が唇を噛んだ。
「俺も、なんでこんなことになったのかわかんない。世間には公表したくないけど、事件性がある可能性は大いに――」
言葉を遮ったのは、大我のスマホの着信音だった。発信元は北斗と表示されている。
『主任、警部補とどこ行ってるんですか。車の現在地がわかりました。早く来てください』
「わかった、今行く」
2人は視線を合わせ、同時に駆け出した。
「新宿へ逃げたのか…」
液晶画面を見た大我はつぶやいた。位置情報を表わすピンは、地図上の新宿区に鎮座している。
「北斗、データを俺に送って。総監と行ってくる」
携帯を取り出しながら踵を返した。
主任の出て行った部屋で、高地がぽつりとこぼす。
「慎太郎は、嫌じゃない? 横領してたって聞いて」
「…でも、今の警視総監が守ってくれたんですよね。昨日、電話で父親に問いただしたんです。今はほかの仕事やってるんですけど、その当時はお金に困ってて、どうやら衝動的にやったらしいです。申し訳ないって謝られました」
「じゃあ、ますますなんで元警視総監がいなくなったのかわかんないんだけど」と樹。
「きっと主任なら突き止められるよ」
ジェシーは笑った。
「にしても、何話してたんですか? 警部補2人で」
パソコンから顔を上げた北斗が言う。
「…秘密」
高地は苦笑した。まさか、拳銃を出して構え合っていたとは言えない。
「えー何ですか、秘密の捜査会議でもしてたんですか?」
「まあそんなところ……っていや、早く仕事戻れ!」
食い下がる樹を高地は一蹴。束の間、室内には笑い声が響いた。
夕方、大我が戻ってきた。
「いやあ、やっと見つかったよ」
ほんとですか、と5人の立ち上がる動きがシンクロする。
ジャケットを脱ぎながら、大我が報告した。
「場所は新宿区内のマンション。元警視総監は無事。元長官は監禁罪の容疑で、その場で応援の捜査員が逮捕。で…その拉致の理由ってのが」
一旦言葉を切り、
「28年前の横領事件、警察庁が再調査してるらしくて。それは今の長官の指示。だけど、まず連れ出したのは元警視総監のほうだとか」
「え?」
高地が声を上げた。ほかの4人も同じような表情をしている。
「呼び出された元長官は、横領事件の再捜査に関して口止めを要求された。そのうち口論になったんだろう。もちろん俺は仕事中の時間。で、何とかして元警視総監を自宅に連れ戻し、軟禁して論争した。その中で元警視総監が主張したのは、あれは冤罪だってこと」
うそ、とつぶやいたのは慎太郎だった。
「横領だといって摘発したのは警察庁。だけど、それはこっち側、つまり警視庁の上層部のミスなんだって。だから、元警視総監は隠蔽という形で幹部もろとも不起訴にした…」
大我は、慎太郎に向けてそっと、小さく微笑んだ。
続く