テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「應煜峰に御座います」
――――!!!
思わず見てしまった煜峰の顔。
麗霞の視線に気づいて一瞬だけこちらに目を向けてくれたが、直ぐに麗霞の父に向き直った。
「陛下の31番目の子で第23皇子の煜峰よ。栗も知っているわね?」
「はっ、はい! もちろんでございます」
「煜峰は私が手塩にかけて育てた子。皇太子が弟といって可愛がる家族です。麗霞の夫として相応しいと思い選んだのだけれど、この婚姻に何か不服があるかしら」
「いいいいえっ、滅相も御座いません!」
「夫人はどうかしら」
「娘にこのようなご縁を下さり、何とお礼を申し上げれば良いのか……」
「さて、最後に」と皇后は麗霞を見た。
「麗霞、貴女の気持ちを聞かなくてはね。……と言いたいところだけど、あらまぁ、もうその必要はないかしら」
溢れ出てくる涙で視界が歪む。
目の前にいる人が近くに寄ってきて、名を呼び抱き寄せてくれる。
胸の中に顔を埋めると、余計に涙が出てきてしまう。きっと煜峰の服は、麗霞の涙と鼻水でびしょびしょだ。
何故煜峰がここに居るのかという疑問よりも先に、溢れ出てくる感情を抑えられない。
「ほ……本当に煜峰殿下なのですか?」
「ああ、私だ」
「私をお望みでないのなら、変な期待を指せないでください」
麗霞にだってプライドがある。皇后や皇太子妃に言われて仕方なく娶られたところで、余計に虚しくなるだけだから。そんな惨めな思いはしたくない。
「麗霞! お前は陛下の御前でなんてことを!」
「みっともない真似はおよしなさい!」
「今いい所なのよ。貴方たちは黙っていなさい」
皇后にピシャリと言われて、両親はグッと言葉を飲んだ。
「麗霞、私が悪かった。あの時お前の気持ちに応えられないと言ったのは、私が麗霞に気持ちがないからではなく、意気地がなかったのだ。私の前にある困難に巻き込みたくなかったし、麗霞ならばもっと良い相手がいるだろうと……。前に宦官は嫌だと言っていただろう?そう思ったからだったのだが……結局お前を手放せそうもない」
「煜峰殿下……」
そうだ、私が言ったのだった。宦官の嫁なんて御免だと。自分で自分の首を絞めていただなんて。
「自分勝手なことを言うようだが麗霞、私と共に歩んでくれるか?」
「はい」
「お前の望みを一生叶えられないかもしれぬぞ? それでも良いか?」
「はい、大丈夫です。私の望みはもう、変わってしまいましたから」
「日の当たらない暮らしになってもか?」
いつもの余裕のある笑みはどこへ行ってしまったのか。不安げな顔で何度も確認してくるものだから、思わず呆れ笑いしてしまう。
煜峰の事情ならある程度は分かっているつもりだ。
皇帝に嫌われて玉を切られちゃった、残念な皇子様。少なくとも暁明皇太子が帝になるまで、冷遇されることを覚悟しなければならない。
さらに麗霞は生涯処女をつらぬく春画家となる、と。
まあそこは考えようによっては大した問題じゃない。これまでだって妄想だけで何とかなったのだから。
「もうっ、煜峰殿下はいつからそんなしつこくなったのですか? 心配いりません。例え殿下が追いやられてしまったら、私のこの腕で、殿下を食べさせてみせますから」
煜峰は麗霞が思っている以上に色々と、麗霞の幸せを考えてくれていたようだ。
その結果があの時の答えだったのだとしたら、怒るに怒れない。
麗霞の言わんとしていることを察した煜峰は、麗霞のおでこにコツんと自分の額をぶつけると、喉を鳴らして笑った。
「それでは麗霞、改めて聞きましょう。私と皇太子妃が選んだ貴女の婚姻相手はどうだったかしら」
「異存などあるはずがありません。皇后陛下と妃殿下に感謝申し上げます」
「煜峰、貴方からなにかありますか?」
「はい」と返事をした煜峰は麗霞をそっと離すと、居住まいを正して麗霞の父に頭を下げた。
「栗殿、栗麗霞を私の妻として迎え入れること、お許し願えますでしょうか」
「は、はい。不束な娘では御座いますが、どうぞ宜しく御願い致します」
「ふふっ、綺麗に纏まったようね」
皇后がしたり顔で皇太子妃に目配せをすると、妃もまた「はい♪」と笑って返している。
これはお二人に、まんまとやられてしまったのね。
一体いつから、どうやって麗霞の想い人が煜峰だと分かったのか色々と疑問は残るものの、とりあえずその場は幸せいっぱいのままお開きになった。
コメント
1件
ああ、やっと……やっと二人が結ばれた回ですね。皇后と皇太子妃の見事な一手に、思わず「やられた!」と笑ってしまいました。煜峰がああして麗霞の幸せだけを考えて身を引こうとしていたと知ると、あの時の rejection もまた違って見えてきますね。額をコツンとぶつける仕草、大好きです。これからどんな日々が待っているのか、じっくり読み進めたいと思います。