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麗霞の両親を見送ると、煜峰は麗霞と二人だけになったことに気が付いた。
画院へと続く道は情緒が感じられるように造られている上、画人たちの気が散らないよう余計な立ち入りは制限されていて静かだ。
茜色に染っていく空を見上げる麗霞の横顔を見ていると、改めて皇后と皇太子妃に感謝しなければと思う。
二人が煜峰の背を押してくれなければ、今こうして麗霞と隣合って並ぶことなど出来なかったのだから。
「ゆ、煜峰殿下」
「うん?」
「そんなに見つめないで下さい」
麗霞の顔が赤いのは、夕日のせいだけではなさそうだ。気恥しそうに俯いた。
「久しぶりにまともに顔を見たから、ついな」
顔を見れば気持ちが揺らぎそうになる。だから麗霞とは距離を保つように努めてきた。
お互いにそんな調子で、仕事上仕方なく話す時くらいしか顔を合わせる機会はなかった為、つい見入ってしまった。
「縁談の相手に煜峰殿下が現れた時には、本当に驚きました。あの時には私、煜峰殿下のことを忘れようって……。御二人の優しい気持ちに報いるよう、この縁談をお受けするんだって腹を括ったのに、まさか現れたのが煜峰殿下だったんですから」
「皇后様は義姉上から狩猟大会でのことを聞いていたようだ。その義姉上はもちろん、暁明兄上から聞いたようだが」
「狩猟大会での事というと、煜峰殿下が私を助けて下さった時のことでしょうか?」
「そうだ」
あの時煜峰は麗霞の命が危ういと見るや否や、なりふり構わず麗霞を助けることだけに集中した。
自分の服を引き裂いて結び、毒が身体に回るのを防いだ煜峰は、危険を顧みず傷口から毒を吸い出した。自分が毒に当たることなどその時はどうでも良く、ただ麗霞が助かればいいと本気でそう思った。
そんな弟の様子を見ていた暁明皇太子は、麗霞が煜峰にとってただの官女では無いことを悟り、皇太子妃に話して聞かせた。
画院勤めの官女としか暁明皇太子は知らなかったが、皇太子妃はそれが誰なのか直ぐにピンときたそうだ。
怪我をした官女が誰なのか調べさせて確信した頃、今度は皇后が恋恋の絵に興味を持ったときた。
皇太子妃が罰を与えようとする皇后の説得に成功した上、麗霞は麗霞で春画の依頼まで引き受けていた。
絵の内容まで詳しくは聞いてないが、麗霞のおかげで長年すれ違っていた皇帝との関係を修復できたのだと、皇后は涙ながらに語っていた。
皇太子妃だけではなく皇后にまで。
やはり煜峰の勘はある意味で当たっていたと言える。
麗霞はきっと使えるだろう。そう思って無理やり味方に引き入れたが、まさか春画によってこれほどのことを成し遂げるとは誰が想像しただろうか。役立つ方法は想像の斜め上をいくものだっただけで、期待していたよりも遥かに助けとなってくれた。
それは煜峰自身にも言えることで、麗霞の存在がこれほど自分の中で大きくなるとは思ってもみなかった。使い捨ての駒を手に入れたと思っていたら、いつの間にか心を奪われてしまっていた。
周りに与える影響とは裏腹に、本人はただ思うがまま、好きなことをしている程度の認識しかなさそうだが。
「私が必死で麗霞を助けようとする姿を見て、兄上が義姉上に話し、更に皇后様の耳にも入ったというわけだ。麗霞を振ったのはどこの誰だと皇后様が探りを入れている中で、義姉上からまさかと狩猟大会での話をしたらしい」
「そのお話を聞いていると周りから見ていても分かるくらい、煜峰殿下も私のことを好きだったって事でいいんですよね?」
まだ煜峰の気持ちに確証をもてないのか、麗霞は少し不安げに確認してくる。
「お前こそ執拗いぞ。皇后様に命令されたから縁談を承諾したのではない。脅されたからだ」
「脅された……ですか?」
「そうだ」
皇后も煜峰が何故麗霞を振ったのか、その理由をおおよそ理解してくれていた。
煜峰の事情は複雑で、宮廷での立ち位置も微妙ときている。煜峰が浄身したことで、皇帝からあからさまに目をつけられることはなくなったが、それでもよく思われていないことには変わりない。
秘密を知る暁明皇太子が皇帝になるまで、煜峰は麗霞と触れ合うことは叶わないし、もし麗霞に浄身していないとバレたとしても、絶対に子供はつくれない。
一緒になったところで、麗霞も煜峰も苦しむ未来があるだけ。
それらを分かっていた上で、皇后は煜峰を宮へ呼び付けるなり、耳を疑うような暴言を吐いた。
「煜峰、貴方は本当の玉無しになってしまったのですか?」
「は、はい?」
その上品な御口から一体何の冗談を?
市川 ありみ
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花月夜れん
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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コメント
1件
第49話、拝読しました。煜峰が麗霞を見つめる視線の熱さに、じんと来ました。狩猟大会の時の無我夢中の行動が、皇后や皇太子妃を動かして今に繋がったんだなあと感動です。個人的には最後の「本当の玉無しになったのですか?」には声出して笑いました。皇后様、上品な暴言が痛快すぎます😂 でもその裏にある本気の心配も感じられて温かい気持ちになりました。