「……くっ!?」
「おいおい?あれだけデカい口叩いといてこれはないぜぇ?」
フウカの戦闘スタイルは完全近距離特化のパワースタイル。こちらがけん制で射撃でもしようもんなら容赦なく距離を詰めてくる。しかも、最短距離で真正面からやってくる。武装も、大剣と申し訳程度のビームピストル二丁のみ。とはいってもそのビームピストルですらレア度3のグレード『3』らへんだろうから今の私ではそれに当たるだけでもただでは済まない。そして、何より恐ろしいのがあの大剣。フウカと同じくらいの大きさしてるのにそれを片手で簡単に扱うし、その上実弾を弾くのは当たり前だがビーム兵器も威力が低いとかき消される。
さらに恐ろしいのが戦姫大戦を始めたとき先ほどまでついていなかった腰部に小型のバーニアが付き、それがとんでもなく速い。また、履いていたヒールもただのヒールではなくこちらもスラスターが付いておりさらに速さに磨きがかかっている。バックパックもロボットアニメによくあるものではなく、どちらかといえばファンタジー世界に出てくるような妖精の羽とか炎の翼とかそういうタイプのバックパックが付いてる。出力も私のと違う。姿勢制御も兼ねてるように見える。
私も彼女と同じようで近距離を得意としているが経験がやはり違う。大剣を軽々扱う時点でその差は歴然。同じ装備を付けてもらったとしても恐らく私が負ける。『覚醒』を使ってもたぶんきついだろうな。ミナはどちらかと言えば遠距離攻撃を多用してきたから懐にさえ入れれば何とかはなったが、フウカは私と同じ近接を得意としている。対策を講じるなら剣で弾くことのできない極太レーザーなんかを直撃させるくらいしか今の私が出来る策はないが、それも躱されるだろう。
「私と同じタイプなのに武装はオールラウンダーよりか。自分に合ってないな?」
「今は色々触って経験値を集めてるんだよ。」
「だとしても近接を使うことは少なかったが?」
「まぁ、あいつとちょっとした制約しててね。それであんまり使ってないんだよ。」
「なら、そのご主人に縛りを開放してもらえ。そのままだとあたしには一生勝てないぞ?」
「許可とれるならね……」
「あ、そういえばカナ射撃縛りしてたよね?それ開放していいよ。」
「……。」
「許可得れたな?」
「……。じゃあ、近接開放されたのでもっかいやりますか。」
「今度はしっかり頼むぜ?」
「満足させられるかどうかは怪しいけどね。」
「よし!再戦だがマップはどうする?」
「こっちが選んでいいの?」
「別に構わないが、特に希望がないなら「シティマップ」なんかを選ぼうかとな。」
「その心は?」
「一応この対戦はあんたの修行みたいなもんだからな。直近である大会もたしかマップは固定のシティマップだったはず」
「なら、そこでお願いしようかな。」
「マップの特性は聞くか?」
「いや、さすがにそこまで至れり尽くせりは申し訳ないからね。」
「自力で戦略を練るならなんも言わんよ。」
「じゃ、もっかいやるか」
バトルフィールド 『シティ』
バトルスタート
システムの合図とともに両者が動く。今回のマップはシティ、建物群がいくつもあり射撃はほとんど通らない。もしこのフィールドで射撃を使うならファンネルや遮蔽貫通を持つビーム兵器を使うのがいいだろう。ファンネルなら自動で相手を追尾するため居場所を把握できる。また、貫通能力を持ってるビームなら建物群も破壊していくため隠れる場をなくしていき、追い詰めるなんて戦法も取れるが、正直この戦法はおすすめはできないだろう。前にも説明した貫通能力があるビーム兵器は燃費が非常に悪いため乱用ができず外せばこちらがすぐに不利になるのは目に見えてる。
ファンネルを使った戦法はよく使われるが練度が低いため使う戦姫は大体本体が貧弱になっている。つまり、近づかれたらほぼ詰みとなる。リナもファンネルが使えるが彼女にとってはこのファンネルは主戦力ではなくあくまでけん制用の武装に過ぎない。そのためこの戦法も彼女は使用しないだろう。
となると彼女自身の特性を活かした戦法を考える必要がある。真っ先に考えるのは遮蔽を活かした奇襲。覚醒を駆使すれば隙を突いた攻撃ができるだろうが、その一回で仕留められないと読まれてしまい二度目が通じないだろう。また相手が同レベルならこの戦法は何度でも使えるが今回は熟練者が相手だ。彼女がすぐに思いつくなら相手ももちろんすぐに思いつくものだ。かといって真っ向から立ち向かえば返り討ちに合うのは目に見えている。ほかに策を講じる必要があるがその策を考える時間を与えてもらえるほど相手も優しくはない。
「さぁ、どうやってあたしを攻略する?」
「それをいま考えてるんでしょ!?」
「考えたところで行動できるかは別問題だが…な!」
先ほどと同じように距離を詰めて近接攻撃を繰り出す。大剣による大ぶりな攻撃、しかし防御をすると確実に腕ごと持っていかれるほどの火力。避けるが吉だが恐ろしいのはこの攻撃ではなく『次の攻撃』にある。火力は一撃目よりは控えめで大剣ではなく拳による打撃だが、この時の威力は装備している武器の攻撃力に依存するため油断していると痛い目をみる。更に言えばこの一撃はコンボの出だしに使われる。人によるが恐らく初撃はブラフで本命はこの『拳』による攻撃だろう。
「くっ!?」
「ほぉ?避けるとはこれはまた無難な選択だな。だがしかし、こいつは読んでいるか!?」
「それを加味して避けたんだよ!」
拳が来ることを予想してカナは主兵装のライフルを取り出しフウカに向けて乱射する。
「なるほどゼロ距離なら確かに受けざるを得ない。しかしあたしがその対策をしてないとでも!?」
装備された炎の翼の出力を一気に上げて実弾を焼きつぶす。
「うえぇ!?そんなのありなのかよ!!」
「型に収まってるようでは上は目指せないぜ?」
「だとしても限度があるだろ!!?」
実弾を焼きながら勢いを殺さずフウカはまっすぐこちらに向かってくる。ビーム兵装も一応装備しているが火力低いうえにENをそれなりに消費するためこの場を打開するほどのものではない。残された手段は一つ…。
「序盤から使うのはEN効率が悪いから使いたくないけど、そんなこと言ってられないよな…。」
(来るか…。ユウナが話していた『覚醒』という会得方法不明のスキルが…)
「『覚醒』発動!」
瞬間、カナの体が紅く染まり機動力がグンと上がる。目前まで迫ったフウカだが覚醒によって距離を離されて建物群にと逃げられてしまう。
(ビルを使った奇襲作戦に切り替えるつもりか?だが、それは通用しないとやる前にあいつも理解しているはず。それでもなおやるほど切羽詰まってるのか?いや、幸か不幸かミライソフトと戦闘を行った期待の新星だ。その辺のルーキーと比べて命のやり取りを経験している分突然そんなチンケな戦法にシフトはしないはず…。彼女なりの策があって一度身を隠したんだ。なんにせよ警戒する分に越したことはない。あたしに見せておくれよ『覚醒』の性能ってやつをさ。)
建物群に身を潜め戦況は突如静寂が訪れる。視覚の情報だけでなく聴覚も使い少しの変化も見逃さないように心がける。ほのかに吹く風、揺れる若葉、先ほどの炎の翼による車の炎上。わずかに聞こえる足音。確実にこちらの行動を警戒している足取り。やはり、奇襲を狙ってるかのような足音。ならばやることは出所をつぶすではなく、逆に待つのだ。
相手の策にハマって上げるのだ。こちらからアクションを起こせば相手はそれに対して冷静に対処してしまう可能性が大きい。ならば、相手がアクションしたものに対してカウンターを決めればいい。理由は単純相手からすれば自分の策がハマったと勘違いし気が少し緩むものだ。それが格上の相手ならなおのこと。そのわずかなほころびを彼女は突く。
(さぁ、奇襲を仕掛けるんだろ?どこからでもかかってこい。あたしはそれをすべてカウンターで返してやる)
呼吸を整えて気配を探る。道路に立つフウカの周りをビル群が取り囲み、その陰に隠れ移動するカナ。ぐるぐるとビル群の陰に隠れながら移動を行い出所を探れないようにし、ついに動く。フウカの後ろから現れ急所めがけてビームサーベルを構え貫こうとする。
「もらったぁぁぁぁ!」
「やっぱりビルを使った奇襲攻撃かい!覚醒を使ってなお陳腐な策しか思いつかなかったようだな!!」
すぐに後ろを振り返り迫りくるカナの攻撃に対して大剣で急所を守るようにしてカウンターを決める。が、目前でカナはビームの出力と推進力を0にし、フウカの攻撃を間一髪回避する。
「なっ!?」
「陳腐な策ではないんだよなこれが。」
(しまった!こいつ私がカナを無意識のうちに『下』に見ることを予想して考えることを放棄することに賭けたのか!?確かにカナの視点に立った時この奇襲くらいしか打開策はないと勝手に確約した。その結果このカウンターを実行したが、そこまでがカナの『策』だったのか!!)
「大ぶりな方を選択したのがいけなかったね!サーベルじゃ出が遅いからお返しの拳を喰らいな!」
横なぎの攻撃を回避しがら空きなボディに一撃入れたのち、回し蹴りで追撃。そのまま後方に大きく吹き飛ばす。
「がはっ!?」
「よっしゃ!見たかこの野郎が!!覚醒はまだ使い慣れてないけどこのくらいは何とかできるんだわ!」
「ゴホッゴホッ…。やるな、確かに油断した。」
(この重み…。低ランクでは出せない威力だ。重みで言えばそうだな、あたしが使ってるこの大剣。これのグレードを下げた強攻撃と同格になるな。サーベルではなく戦姫の拳でこの威力だ。彼女自身のステータスも強化してないならばさらに化ける可能性が生まれる。これが覚醒というスキルの力か…。なるほど俄然興味が湧いた。)
「…。吹き飛ばしたけどこの威力は『覚醒』ありきの威力。素の力ではない。いずれは素の状態で同等のパワーを出せないと先を勝ち抜くのは難しい。やっぱり覚醒に頼らず腕とスピリッツ的な何かで勝ちたい…。そのためにもやっぱ経験が必要になってくるか」
吹き飛ばし瓦礫に埋もれたフウカが起き上がりゆっくりとこちらに向かい歩き出す。
「これが覚醒の力か。いいねぇ。悪くない力だよ。油断してたとしてもあたしをこう吹き飛ばされたのは久しい。本当は加減するつもりだったが、気が変わった。あたしも本気を見せよう。」
「あんたがマジになったら絶対勝てないじゃん!」
「まぁまて。本気を出すが条件付きの試合にすればいい。」
「はい?」
「お互い武器は使用禁止。己の拳だけで勝敗を決めようじゃないか。お互い近接を得意としてるんだ。悪くないだろ?」
「えぇ…。それでもなお勝てるか怪しぃ…。」
「ハッハッハッ!やらないと勝負は分からないもんだ。さぁ、構えろカナ。あたしは本気で行くからな。」
「あぁ!もう!!!やるよ!やったりますよもう!!」
「久しいねぇ?『砂塵の狼』なんて呼ばれたあたしの拳受けてみなよ!」
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