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「先生って怒ることあるんだ?」
そう訊くと先生はきょとんとした顔をした
「怒るよ?ちゃんと。教師だから」
「じゃあ俺の事怒ったことある?」
「うーん…叱った事はあるけど、本気で怒ったことは…」
「ないんだ」
食い気味に言った
先生は俺を”甘やかしている”のか、俺に”無関心”なのか
どちらにしても腹が立った
数日後、クラスで軽いトラブルがあった
俺と、同じクラスの高岸と、口論になった
正直言って、どうでもいい話だった
「お前、いつも先生にベタベタしてんの、気持ちわりぃんだよ」
その一言で世界が色を変えた
気づけば高岸の胸ぐらを掴んでいた
苦しそうな顔。当然だよね?
机が倒れた音。悲鳴。誰かの叫び
そしてはっきりと聞こえたーー
「翡翠くんっ!!」
ーー先生の声
大きく、鋭く初めて聞く声のトーン
止まった。身体も。呼吸も。心臓も
先生が俺に怒鳴った
まっすぐに、俺の名前を呼んだ
目が合う
いつも優しいその目が怒っていた
心がぐしゃりと音を立てた
でもそれは、一瞬だけ
だって怒ってくれた。俺だけに
他の誰でもなく俺にだけ
嬉しくて泣きそうだった
「ごめんせんせ……俺やっちゃった」
そう言って口もとがほころんだ
俺の中で何かが壊れて、でも満たされていく感覚
罪を与えたっていい
嫌ってくれてもいい
でも、その役割は全部先生がやって。絶対に俺だけを見ていて
その日の夜
学校からの帰り道、先生のあとをつけた
家も、最寄り駅も、電気の消える時間も、全部覚えた
家のポストにそっと封筒を入れた
中には手紙。それだけじゃない
盗撮した先生の後ろ姿の写真が数枚
廊下で笑う後ろ姿
遠くから望遠で撮った無防備な姿
【先生。今日も綺麗でした。明日も明後日もこれからもずっと、死ぬまで俺だけを見ていて下さい】
先生が気づかないうちに俺は先生のすぐ後ろにいる
心の中に爪を立てている
俺の事をもっと知って。もっと嫌って。もっと愛して
先生の知らない顔を、これからも見せてあげる