「ビッグボアライフルじゃないですか。
最初、エアーかと思いましたよ」
と言いながら、蓮は、感心したように、ライフルの銃身に触れてみている。
比較的口径の大きなライフルを使ってやるのがビッグボアライフル射撃だ。
これを所持できるということは、渚が長く競技射撃をやっていて、実績もあると蓮にはわかっているようだと脇田は思った。
「射撃って、海外でやってるだけかと思ってました」
「学生時代、脇田も最初一緒にやってたんだが、こいつは、途中でやめたから」
と渚がこちらを指差す。
「っていうか、見ただけでわかる秋津さんが怖いんだけど……」
と奏汰が引きつった笑いを見せている。
蓮を脅したことがあるから、自分も撃たれる、とでも思っているのだろうか。
渚が蓮に向かって言う。
「お前は俺がライフル射撃をやっているのも知らなかった。
俺はお前のことならなんでも知ってるのに、お前は知らなさすぎだ」
探究心がなさすぎる、と蓮は怒られていた。
そうやって、男たちと蓮の興味が銃に向いている中、葉子だけが違うことに心を奪われているようだった。
「どうしよう。
私、会ってみたいです。
社長以上の男前の上司ってっ」
と何故だか、会ったこともないはずの課長代理に恋しているような顔をする。
「いや、それ、ただの和博さんの好みの問題ですから」
人の顔の良し悪しって好みでしょ、と蓮は言う。
実際のところ、どんな男なのか、まだ顔は見ていないのだが。
渚以上に自分の方が気になっていた。
「あ、じゃあ、僕、失礼しますね」
と奏汰が愛想笑いを押し上げながら、去っていこうとした。
ちらと渚がこちらを見た。
その視線がなくとも、追っていくつもりだった。
「石井」
と脇田は廊下で奏汰を呼び止めた。
足を止めた奏汰に、
「外で今の話は……」
と言いかけると、
「どの話もできるわけないじゃないですか。
僕が社長に射殺されます」
と苦笑いして言ってくる。
「まあ、もう秋津さんにちょっかいかけるのはやめとくんだな」
「当たり前ですよ。
あの争いに首を突っ込む勇気はないですよ」
僕なんて、あの秋津さんの従兄弟より小物ですから、と奏汰は言う。
「いや、あれも、魔王VS村人みたいだったけどな」
と呟くと、
「なかなかうまい例えですね」
と笑ったあとで、じゃあ、失礼します、と奏汰は行ってしまった。
奏汰はエレベーターに乗るとき、自分の後ろを見たようだった。
振り返ると、いつの間にか蓮が立っていた。
「なかなかうまい例えですね」
と奏汰と同じことを言い、和博の薄情な従姉妹は笑う。
「その例えで行くと、脇田さんはなんでしょうね。
魔王の腹心の部下?
No.2ですかね?
そういう人って、ゲームとかだと、ギリギリで裏切ったりしますよね」
ひやりとしていた。
「それだけ切れ者ってことですよ」
と蓮はこちらを見て笑ってみせた。
さすが、秋津の会長が後継ぎにと言うだけのことはある。
人を見る目はあるようだ、と思っていた。
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