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曝露
〔汪渕〕
汪渕と書かれし紙が目の前にありき。ビックリして飛び起きせば其処は僕の部屋なりき。僕が目を覚ますと琳琅はいみじく喜びと少し驚きを抱えた。どうやら少し気絶をしていたのごとかりき。いみじく幸せなる夢を見き。もう戻った来ぬ夢を見き。
「琳琅」
僕は琳琅の裾を掴みて「水をくれざるや」と問ひ掛けき。琳琅は直ぐ様水を取りに行ひてくれき。琳琅に迷惑を掛けてしまったのかもしれず。いみじく反省しき
辺りを見渡すと琳琅が書ききと覚ゆる紙切れが辺りに散らかってゐき。其を拾ひ上げて中身を開かむとすれど何処よりか罪悪感が芽生え開くは辞めた。琳琅は水を持ちゆき、僕の目の前に置きき。琳琅に少し話をせまほしと思ひ琳琅にとってはきっとあぢきなからむと言ふ話をしき
「昔の夢を見しなり」
琳琅は座り直して真剣に聞かむと姿勢を直したりき。さる琳琅を横目に僕はスラスラと話し始めき。琳琅は黙って無駄話を聞きてくれき。時々暗き表情をしながらも黙って聞きてくれき
「……師兄は、もしかしせば僕の事を嫌ひたるかも知れぬ」
〔いかで〕
「分からず。ただひたすらにそう感じぬ」
机に肘を付きて僕は手で顔を覆った。無性に涙が出でてく。琳琅には格好よき姿を見せまほしと言ふを矛盾せし姿を何度も見せてしまひたり。此の話が終はりせば琳琅の記憶を消しておきたいぐらいに恥ずかし
〔その人が君の事をどう思ってゐしや確かむる方法ならばある〕
「いかなる風に」
〔その人の瞳には何が映ってゐしにはべるや。其処に映ってゐし人こそがその人の思ふ恋心を抱く人なればはと私は感じはべり〕
続けて紙に言葉を書きたりき。其処に映ってゐし人こそがその人の思ふ恋心を抱く人、師兄の瞳には僕が映ってゐけむや。気になりて仕方がなかりき
「少し揶揄を入れむ。さる君の瞳には何が映ってゐるの」
〔何が映っているんだろうね〕
琳琅は汪渕の方をじっと見詰めた。汪渕はポカンとせし表情を琳琅に見すと琳琅はクスクスと微笑み始めき。まさかの琳琅に揶揄われた汪渕は少し不機嫌になり目を逸らし口を閉じき
「嘘は駄目だよ琳琅…」
少し琳琅の方を見れど琳琅は未だクスクスと微笑んでゐき。師兄の夢を見しかばか面影を感じにき。師兄の琳琅の瞳の中に僕がゐると良いなと思ひにき。さる時なりしゴーンッと鐘の音がしき。何ならむと琳琅は奇し~さうに外を見たりき。僕は嫌なる予感しかせざりしかば窓を閉め琳琅を寝室へと連れていきき。無邪気なる琳琅を汚せまほからずと本気で思ひき。何が何だか分かりたらぬ琳琅は汪渕に話し掛け続けてゐき。少なくとも心の支えにはなりたりき
〔汪渕、君は花は好き? 〕
「好きにはべり」
〔羽目に陥る時は私が奨励する為に汪渕に花を捧げよう〕
そう書かれし紙を見し汪渕は少し戸惑ゐ口を開きき。
「何の花にはべるや」
〔桔梗〕
琳琅はそう紙に書きて汪渕に見せき。凛々しく書かれし紙を見て汪渕は涙を一粒溢し綴った
「其ならば僕は勿忘草を捧げよう」
汪渕がそう言ふと琳琅は照れ臭さうに喜びたりき。汪渕は琳琅が眠りきと感じ取りその場を離れき。桜は早くも散りたりき。散る前に琳琅に見せれて良かりきと心の底より思ひたりき。此の時代は平和ならず。争ひ事は日常茶飯事なりき。子供の泣き声は良く聞こゆ。たまに其で起くるくらいなりき。もし争ひ事がなき別の世界で生きれせば僕は何をせむや。汪渕は外より散りし桜の木を見詰めてゐき
「桜が散りたり」
後ろより声が聞こえき。其もいと優しき声なりき。汪渕は其につきて何も触れず、ただ一つ言葉を溢し振り替えず桜の木を見詰めてゐき
「遅かれ早かれ、いづれ散る物なりと感じたりきよ」
声の主は少し黙り汪渕へとそっと触れき。其はいと冷たき手なりき
「寂しそう」
汪渕はボロボロと涙が出でたりき。「うん、寂しよ」と何度も呟き手に擦り擦りと頬を擦り付けき。声の主は夜が明けるまで汪渕の傍に居た。もう寂しと聞かざりて済むやうに永遠に傍に居た
「桜は見れき?君の為に植ゑしなり」
汪渕が震えた声でそう問ひ掛くと声の主は
「お前が見せてくれけむ」
とポツリ溢しき。「さうなりね。見せきよ」と汪渕が言ふと声の主はそっと汪渕を後ろより抱き締めた。汪渕と目線を合はする事はせずただ後ろより、汪渕を強く抱き締めてゐき。
「目を閉じたまへ。寝室へと足を運びて」
汪渕は目を閉じるを否びき。まるで子供のごとく「嫌なり」と言ひたりき。手を強く掴み離そうとせざりき。声の主は何度も汪渕に声を掛くるが汪渕は拒否を繰り返しき。
「師兄……」
「夜明けに素敵なる物を奉呈せむ」
そう言ふと汪渕はゆっくりと目を閉じき。疲れが溜まってゐしならむ、もう目を覚まさぬ程深き眠りに入りたりき。汪渕が目を覚ましし頃、夜は明けてゐき。汪渕は昨日の事は良く覚えてゐざりき。汪渕がふらっと寝室に立ち寄り扉を思いっきり開くとビュンッと風が吹きき。其処には机に座りて背中を向けてゐる琳琅と琳琅の傍に花が添えてありき。其の花は紫で綺麗なる美しき星型の花。紛れもなく桔梗の花なりき。立ち尽くしたりと琳琅は汪渕が来し事に驚き顔を此方に見せき。紙に文字を書き汪渕に見せき
〔捧げよう〕
昨日の事は覚えたらぬ筈なるをまるでありつる事のごとく思へてきて汪渕は座り込んなり。さる汪渕のけしきを見し琳琅は座り込んだ汪渕を憂へき。汪渕は何度も「ありがとう」と琳琅へ言ひたりき。琳琅は汪渕に礼を言はるる度に、しっかりと受け止め深く頷ゐたりき。汪渕は辛さのあまり琳琅に様々なことをほざゐたりき。まるで師兄に問ひ掛くるかのごとく汪渕は琳琅に問ひ掛けたりし
「重荷になると言ふを何故人は守れぬ約束をするにはべるや。何故人は辛き此の世で必死に前を向ゐて生きたるにはべるや」
「僕には分からず。」
そう無邪気に綴る汪渕を目の前に琳琅はかむ綴った
〔生くる意義があれば生くるにはべり。前を向かなからばならぬ意義があれば前を向くんにはべり。私は生きまほき、私は前を向こまほしって意思があれば人は行動せむと思ふるにはべり。 生くる以上に望む物はなしと私は思ひはべり〕
〔私は、誰かの為に何かをせむといふ行動は重荷なりとは思ひし事はなし。労しき人相手に何もせざると言ふ圧こそが重荷なりと思ひはべり〕
ポカンとしたる汪渕を横目に琳琅は汪渕を見詰め更に綴る。
〔汪渕、人生といふ物はいかなる意味か分かりはべるか〕
汪渕は「分からぬ」と首を振る
〔人の為に生くと書きて人生と言ふにはべりよ。無理はせず気長に生きはべらむ〕
汪渕は声を震わせながらも琳琅に何度も問ひ掛けき。
「……師兄は良く僕を英雄なりと言ひき。僕は差程いみじき者ならず。僕は、英雄なんぞ相応しき者ならざるにはべり」
「其の実、敗者なるにはべり」
そう汪渕が言ふと琳琅は悲しさうなる表情をしき。書き手に困りたれど琳琅は恐る恐る紙を汪渕に見せき
〔強者のみが英雄なりとは思ってはいけはべらず。素敵なる人を私は英雄だとおもゐはべり。其には強者や敗者は関係はべらず。誰かが汪渕を敗者なりと仰っても私は汪渕を敗者なりとは思ひはべらぬ〕
琳琅がそう紙に書くと汪渕は口を閉じ黙り込んなり。琳琅は汪渕を奨励せむと試みれど汪渕の気分は上がる事はなかりき。