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中世のギリシャ人が競馬に熱狂したヒポドローム跡は長細い公園で、そこに古代エジプトのオベリスクが立っている。二人はその脇にある喫茶店に入った。
旅人の降ろした荷物にぶら下がるサバイバルセットは、青年の見覚えのあるものだった。
「それどこで買った」と青年が尋ねた。
「宿の近くのコンビニで」と旅人は答えた。
サバイバルセットを売っているコンビニなんて、安宿の集まる新市街の一角くらいしかない。
そういえば、昨日の夜遅く、こんな感じの旅人が来たことを思い出した。そのことを話すと、旅人は青年の顔まで見てなかったので見覚えはないが、すごい奇遇だと言った。青年は旅人からその金属片を借りると、カッター、ドライバー、鋏、栓抜き、コルク抜きと、順に引っ張り出す。売れ残りだけあって、動きが固い。
「ドライバーだけほしかったんだよ」と旅人は言った。動かなくなった目覚まし時計の電池ブタがプラスビスで留められていたのだという。
「それならこんなの買わなくっても、電気屋でドライバー買えばよかったのに」
青年は旅人にサバイバルセットを返した。
「僕もそう思うけど、夜中じゃ閉まってるよ」と旅人は言った「でもいいんだ。これのおかげで、今朝ちゃんと宿のチェックアウトできたんだから」