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ウエイトレスがチャイを置いた。タイル製のテーブルと陶器の皿が堅い音を出した。
「あそうだ。ちょっと、ゴメン」青年は上着、ズボン、カバンから携帯電話を出して、幾何学模様のテーブル上に並べた。
「なんでそんなに?」と旅人は言った。
「これは電話番号帳として使ってる、これはメール用、これは電話用」と青年は言った「あ、ちょっとだけササッと作業しちゃっていい?」
青年は鞄から数枚の書類を引っ張り出した。どれも履歴書で、広げるとテーブルの模様が消えた。旅人はその中の一枚を取った。旅人の目玉が学歴欄に留まったとき、青年はまたかと思った。
「これなら、いい仕事たくさんあるでしょ」と旅人は言った。
「みんなそう言うけど、案外そうでもない」と青年は言った「この不況だよ。それに、面接官はこっちを見てくる」彼は隣の職歴欄を指した。フリーターの仕事歴がずらり並ぶ。
民族楽器の入った西洋風ポップスがBGMで流れている。
「博士課程、続けないの?」
「俺だって、できればそうしたいさ」
「じゃあ、ふだん論文とか書いてんだ」と旅人が言った。
「それが」青年は言った「これというテーマが見つかんないんだ。ところで、ちょっとだけごめん。さっさと済ませる」