テラーノベル
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24
坂崎渉と遠い手を繋ぐようになったせいか、相手の首筋からかおる汗の匂いに興奮を覚えるようになった。
八月を過ぎても残暑に体をやられて、汗だくになっては教室内の天井に備わっている扇風機に頼るしかない九月。
昨夜は恋人の家に泊まって、遅刻ギリギリに家を出た。そのとき俺の制服シャツが汗だくになっていたので、渉の物を急遽借りてきた。洗濯されているはずなのに、相手の香りが鼻先をかすめる。
机に伏して、もぞりと両足をすりあわせた朝のホームルーム。学級委員長が前にでて、体育祭の紅白を分けるくじ引きをするといった。もうそんな季節かと、俺は顔だけを前に向けてあくびをかみ殺す。
うちの学校の体育祭は九月に実施される。クラス別に紅白をわけるのではなく、クラス内で紅白をわける。そのため、隣の席の仲のいい奴が違う色になるなんてザラなこと。
委員長が袋に入ったくじを、一人一人の席をまわって引かせていく。俺もそのうちの一つを引いた。紙には≪紅≫と書かれていた。前の席に座っている大翔の物を覗けば、≪紅≫。三年間、同じ色同士だ。
「今年も同じかよ……」
「お前とは腐れ縁だな……まぁ、一緒に頑張ろうぜ」
「なに、今年は出る気あんの?」
「信さんに出ろっていわれてるしな。それに、最後だろ。記念だよ、記念」
最後と言われて、そうだなと頷く。
全員がクジを引き終わってから、授業がすぐに始まった。携帯を取り出してみるが、渉にメールを打とうか迷っていた。相手から何の連絡もないところを見ると、おそらく昼休みに直接言うつもりなのだろう。何色だったのか、気になってしまう。
それでも聞くことが憚られて、携帯を閉じたり開いたり。そんな風にして四限までの授業を寝るか、携帯を開くかして過ごした。
昼休みのチャイムが鳴って大翔は部活に向かい、俺は屋上へ向かう。食堂に行く生徒たちを押しのけて、階段を駆け上がる。
普段は鍵がかかっている屋上への扉の合い鍵を作っているので、なんなく取手が回った。外に飛び出すと、渉が仰向けになって煙草をくゆらさせている。
「渉」
声をかけてから隣に座ると、バッグから彼の分と自分の分の弁当を出した。相手の弁当を腹に乗せれば、起きあがって箸をとる。二人で適当に飯を食べながら相手に視線を送れば、「なに?」と訊ねられた。
「いや……紅白どっちになったのかと思って……」
するとズボンのポケットから紙きれを取り出し、俺に渡してくる。受取って中を開けば、そこには≪白≫の文字が書かれていた。うめき声とため息が同時に出た。
「なんだよぉ……違う組かよぉ……」
「なに落ち込んでんの?別に、体育祭なんて出る意味ないだろう?」
「お前、サボる気なのか?」
「あんた、出る気なの?」
「いや……うん、出るつもりだけど……」
「へぇ、意外」
たしかに俺は一年生のときも二年生のときも、練習なんてすっぽかして大翔と遊んでばかりいた。もちろん当日も参加することなく、ゲーセンに行って遊び呆けること毎年。今年だってサボる気満々だった。けれど、先ほど彼に言われた言葉が頭にこびりついてとれない。
最後だ、渉と一緒にいられる最後の年。
思い出に縋るような人間は、夢に浸り過ぎていると言われてもおかしくない。それでも年下の恋人のことを思ったら、何故か出ることが前提になってしまった。だからこそ、違う組になったことが悔しい。
仕方ないと弁当の中身をかっ込んで、落胆ごと呑みこんだ。紅白別で席が大きく離れるため、学年が違う俺達がかぶる競技なんておそらく紅白対抗リレーくらいのもので。つまり、同じ場所にいながら渉と俺との距離は大きなものとなる。同じ色ならば、学年が違っても同じチームにいるから少しは楽しいかなぁと思っていた。
またため息をついたとき、彼も弁当の中身を喰い終わって空っぽになった箱を返してきた。そして食後の一服に火をつけ、「鳴海さんが……」と切り出す。
「同じ組がいいってんなら、誰かと交換してくるけど?」
「え、いいのか!?」
「あぁ」
「それじゃ、一緒が良い!渉と同じが良い!」
頷きながら「餓鬼みてぇに喜ぶのな」といって笑った。俺もつられて笑いながら胸の中に生まれたわだかまりに、から笑いを上げるだけとなった。
同じになれたからといって、たった一日を一緒に過ごすだけだ。それを喜ぶ意味が、果たしてあるのだろうか?
その日はいつものようにチャイムが鳴るまで、屋上で二人きりだった。
コメント
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おおっ読んだよ〜!! プロローグからもう既に甘酸っぱい空気感が画面越しに伝わってくるね😭💕 渉くんとの別の組になっちゃった瞬間の「なんだよぉ…」って落ち込む主人公が可愛すぎるし、渉くんが「交換してくるけど?」ってサラッと言っちゃうのカッコよすぎでしょ!! 最後の「同じになれたからって一日だけ…」の切なさがエモすぎて胸がギュッとしたよ…次の話も絶対読む!!✨