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柄にもないことをして、どっと疲れたアネモネだが、重大なことに気づいてしまった。
護衛騎士が仕えている主を裏切るのは御法度だが、自宅に居候させている者が裏切った場合どうなるのだろうか。
剣の腕前がかなりのものでも、ソレールはアニスに雇われている身だ。雇用主の機嫌一つで、路頭に迷う危険性がある。
そうするしか方法がなかったとはいえ、アネモネの取った行動はソレールの騎士としての人生を左右してしまうものだったのだ。
「アニス様」
「なんだ藪から棒に」
ソレールの腕から離れてパタパタと駆け寄って来たアネモネに、アニスは眉間に皺を寄せる。
「これは私が勝手にやったことです」
「は?」
「ソレールさんのお屋敷に厄介になっていたのも、全部、私がお願いしたことです」
「はぁ?」
アニスは意味が分からないと言いたげに、顔を顰めた。けれど、
「……あーなるほど。そうか、そうか」
ニヤニヤと意地悪く笑いながら、アネモネのいじらしい願いに気付いた。
「お前のことはいけ好かないと思っているが、この程度のことで俺がソレールを咎めるわけないだろう」
ソレールがクビにならないことにはホッとしたけれど、なんかムッとした。やっぱり転職をすすめたほうがいいかも。
「で、娘。本当の伝言は、俺はいつもらえるんだ?」
「あ、えっと……」
「部屋を変えた方がいいなら、すぐに用意するが……いや。今日はやめておこう。明日ならいいか?」
「はい、大丈夫です」
空腹すぎて仕事ができないことを、アネモネは口ではなくお腹で返答してしまった。
すぐさまアニスは、なんとも言えない顔になる。
「部屋を用意する。あと夜食も、すぐに」
「嫌です」
「なっ」
人の好意を無下にしやがってと憤るアニスに対して、アネモネは涼しい顔で答えた。
「人の首根っこを掴んで摘まみ出すようなお宅には、泊まりたくないです」
いつの間にか隣に立つソレールの上着の裾をきゅっと掴んだら、アニスは黙った。
ただそれはアネモネの言葉にぐうの音も出なかったわけではなく、ソレールが見たこともない表情でアニスを睨んでいたからだ。
「…… ソレール、娘を送る前に、ティートの拘束を外しておけ、俺はもう寝るから」
「その必要はないです。もう自分で外しました」
「なっ!!」
ぎょっとした顔をして視線を下にしたアニスの視界に映っていたのは、いそいそと絨毯を引っ張って床に空いた穴を隠すティートの姿だった。
「あとアニス様、これどうぞ。例の毒です。あっ飲んだら駄目ですよ」
「誰が飲むか、馬鹿野郎っ」
「はいはい。んじゃ、地下牢までエスコート頼みます。……んー、本当はここにいる可愛らしい女の子に……あ、や、アニス様でいいです。ごめんなさい」
鬼のような形相でソレールに睨まれたティートは、立ち上がるとアニスの腕に巻き付いた。
すかさずアニスは「離せっ」とティートの腕を振り解く。
そんなやり取りを横目で見ながら、アネモネとソレールは屋敷を後にした。