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槙野はこのような仕事をしているせいかすぐに費用対効果というものを考えてしまう。

「それだけの価値があるということか?」

「あるんでしょうね。あこがれだし、いつかそういうものが頼めるような身分になりたいなあと思います」


なるほど、確かにそんな話を聞くと面白い世界だと感じる。


「もしアパレル関連の仕事があるなら、エス・ケイ・アールの社長に連絡しますよ。ただ……」

「ただ……?」


「アグレッシブな社長です。いろいろ。でも槙野さんなら大丈夫かと思いますので」

意味深なことを言ってへらりと笑った池森は曖昧に言葉をにごしていた。


「おい、何かあるなら言っておいてくれないか?」

「えーと、業務上は問題ないです」


「業務上は問題ないんだな?」

そこはしっかり確認をしておかなくてはいけない。大事なことだ。槙野に正面から見られて「絶対大丈夫です!」と返す池森である。


槙野はその池森の言葉を信じて、社長の木崎と連絡を取ったのだ。

一度食事でもしながら内容を聞きたいというので、個室の会席料理を予約した。


現れたのはがっつり化粧の濃い、香水と化粧品の匂いで料理の香りなぞは飛んでしまいそうな妙齢の女性だ。

全身をブランド物で包んでなかなかに押しの強そうな人物だった。


(なるほど、池森がアグレッシブだというわけだ)

納得して、けれどそんなことに負けるような槙野ではない。


先方もしっかり槙野の話を聞いて了承はもらったものの、なんだか不穏な気がした槙野だった。


あまりの迫力に押されて失念していたが、こういう時に槙野の勘が外れたことはなかったのだ。


* * *


コンぺ当日、『ミルヴェイユ』からは三人の人物が参加していた。


男性一人と女性二人。

代表者が女性であることは知っていたけれど、その中でも最も若い女性が代表だったのは意外だった。


ふと、片倉を見ると全く動揺はしていないので知っていたような気がする。


企画の内容は甘くてとても使えるようなものではなかった。

そのうえ槙野の質問にもしどろもどろになってしまって、代表者の女性はそもそもそういう場には慣れていないんだろうと感じた。


それでも、おっ……っと思ったのは片倉に『次があれば』と言われたときにその女性社長が

「今頂いた宿題を必ずお持ちします」

と片倉をまっすぐに見返したところだ。


面白くない仕事かと思ったけれど、こういうところがあるならば悪くない。


プレゼンが終わって会議室の外に出たときだ。

「槙野さん」

槙野に声をかけたのは、オブザーバーとして参加してもらっていた木崎だった。


「はい」

槙野は足を止めた。腕を組んだ木崎が槙野に近寄ってくる。槙野の前に立った。

当然のことながら彼女は全くひるむことはない。


身長の高い槙野に顎を上げ、話しかけてくる。


「ミルヴェイユには価値があります。50年も続いているアパレルブランドなんて数少ないんです。椿さんを助けて差し上げてくださいね」


「彼女次第でしょうね」

事務的に返した槙野に木崎は目を細めた。

「では彼女にバックがついたらどうなのかしら?」


「どういう意味です?」

「業務提携。全く違う企業だから意味があると思うのだけれど」


木崎は『ミルヴェイユ』と業務提携してもいいと言っているのだ。


「なぜそんな……」

「一つにはミルヴェイユは私にも憧れのブランドだからよ。そしてもう一つは……そうね、今日の夜、お時間を頂けないかしら?」


そう言って妖艶に見つめられたものの、その木崎の目の奥が冷静だったことを槙野は見逃していなかった。


一体、何を企んでいる?

木崎に呼び出されたのはおしゃれなバーだ。そこで散々飲まされたのだ。槙野はアルコールには強いほうなので、なんとかそれにはついていったのだが……。


──つぶそうとしてないか!?


意識が朦朧とし始めた頃だ。

「お母さまっ!」

大福だ。大福が話している。


「こちらの方が私の結婚相手ですか?」


ちょっと待て……だれが大福の結婚相手だ……? 大福と結婚するのは大福か? いや、大福じゃないな、人か? 女性?

なぜ、俺の方をじっと見ているロックオンされてないか?


「そうよ、綾奈ちゃん。ステキな方でしょう?」


木崎社長の聞いたことのないような猫撫で声だ。お母さまというからには娘なんだろう。


業務上は問題ないだと!?

池森のあの時の意味深な様子に納得した槙野だ。

──アイツ池森っ! 今度会ったら覚えていろ!! 意識を失うな! 失ったら詰む!


槙野はぎゅううっと自分の太腿をつねりあげた。

意識が覚醒するレベルでだ。もはや気合いである。


「木崎さん、そんな話は聞いていませんよ」

槙野は顔を上げて、キッと木崎を睨んだ。

普通の女性なら怯むところだがさすがに木崎はそんなものでは怯まない。


「あら……でもお付き合いしている方もいらっしゃらないとさっき聞いたわ」


槙野は言葉に詰まる。

先ほど根掘り葉掘りプライベートなことまで色々聞かれたのだ。


槙野はちょっと小さい声でハッキリ言ってみた。

「将来を約束した人がいるんです」


即座に木崎に返される。

「どこに?」


……どこにだろう……?

いや! どこかにだっ! けど、申し訳ないがお宅のお嬢さんでは断じてない!


「今は言えない」

いないとは死んでもな!


「ふぅん……綾奈ちゃん、少し待ちましょう。しばらく経ってもそんな話がなければ、お母様が責任を持ってこのお話を進めてあげる」


「おい! 了承はしていないからな」

ふふっと笑った木崎の声を聞きながら、槙野はよれよれになりつつもバーを後にしたのだ。

契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

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