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コメント
3件
楽しみまーす!
この話めっちゃ大好き!続き楽しみにしてるね!!!!!!
王家の紋章入り馬車が、屋敷の正門に滑り込んできた。その瞬間、使用人たちのざわめきが華やいだ。
「豪華なお迎えね!」
「当然よ! この家には聖女様がいるんだから!」
期待に浮足立った空気が屋敷全体に広がっている。
その中心に立つのは、私の妹、ステラだった。
金の髪をゆるくまとめ、白いドレスに身を包んだ姿は、まるで神話から抜け出した聖女のように清らかだ。
そんなステラを、私は、柱の影から遠巻きに見ている。
「皇太子の誕生祭に招待ですって」
「王族の専属医に推薦されているそうよ」
みながステラを賞賛する。確かに彼女は、それに見合うだけの実績を上げている。
この一週間の間だけでも、事故で大怪我を負った公爵家のご令嬢を傷跡もなく治癒したし、原因不明の衰弱で倒れた王弟殿下の病を治した。
王都では聖女ステラ・ブラックウェルの名を知らない者はいない。国教である白輪教の司祭たちも、奇跡の聖女の再来と喧伝している。
「すごいなぁ……」
思わず、声に出た。
私には触れられない、光だ。
私も他のみんなと同じで、ステラは神に愛された天才だと思っている。
魔力と、人体への構造理解。
治癒魔法の能力はこの二つのかけ算で決まる。ステラはその両方を兼ね備えた、唯一の魔術師だ。
彼女は数々の魔術師を排出してきたブラックウェル家でも、歴代最高の魔力量を誇る。そして人体への理解――それもまた、ある事情で、他の追随を許さない。
「リゼ、何故ここにいるの?」
顔を上げると、継母のベアトリス様が眉根を寄せていた。
「今日は広間に来ないでと言ったでしょう。匂いが移ったら困るじゃない」
臭いと直接言わないものの、仕草でそれを訴えていた。周囲の使用人がくすくす笑う。
穢れた娘。
それがこの屋敷での私の扱いだった。
父はステラと同じだが、私は妾の子だ。正式な後継ではない。しかも私は魔力をもって生まれてこなかった。ベアトリス様はもちろんのこと、父や使用人も私を蔑視している。
ただ、ベアトリス様が私を穢れた者として扱う、その最たる原因は血筋ではない。
使用人たちも知らない。ブラックウェル家の秘密のせいだ。
ステラが私に気づき、微笑みかけてくる。少しためらいがちに手を振ってくれる。ベアトリス様がステラの肩に手を置く。
「ステラ、早く行きましょう。あまりリゼを見てはいけないわ。穢れがうつってしまうもの」
「……でもわたし、お姉さまのおかげで……」
「リゼは貴方を嫌ってるの。意地悪よね。話しかけないというのは、リゼの希望よ」
私は別にそんなことは望んでない。でも抗議したら、その時は折檻が待っている。
父も頷き、ステラの視線を遮るように、私の前に立つ。
「お前には今夜も仕事がある。報告書はしっかり用意することだ。お前の価値はそれだけだろう」
やがてステラは王宮の馬車に乗り込んでいった。父もベアトリス様も当然のように同乗する。
走り出した馬車の明かりが、暗い夜道に軌跡を描く。彼女に与えられた栄誉と祝福を象徴する、光の列に見える気がした。