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初めましてー。コメント失礼します。ななはです。よかったら仲良くしてください!
「霧島くんって、どこに住んでたの?」
「大阪」
「へえ、じゃあ関西弁、喋れるの?」
「無理」
私の隣の席では、こんなやりとりがさっきからずっと、続けられている。
霧島くんは話しかけられたら、無視はしないけれど、単語でしか返さない感じ。
それでもイケメンの転校生の霧島くんと話したい女子は多くて、霧島くんの机の周りはぐるりと女子が囲っている。
クラスの中でも目立つグループの子たち。
そのリーダー的存在でもある川原さんが、特に積極的に霧島くんに話しかけている。
川原さんの下の名前はあやなちゃん。だけど小学校も違うし、まだ下の名前で呼び合うほど仲良くなれてないから、私は川原さんってよんでる。
川原さんは髪を高い位置でサイドポニーテールしている、おしゃれな感じの女の子。
流行りのファッションと恋の話が好きで、私とはちょっと違う世界の人って感じ。
禁止されている色付きのリップも、こっそりぬっている。
私は可愛いものはコスメよりも、文房具のほうが好き。
そんな私は川原さんたちと比べると、こどもっぽいのかもしれない。
風花ちゃんは、
「美羽ちゃん、もうちょっとおしゃれに興味持てばいいのに。髪型もいっつも同じだし。せっかくきれいな黒い瞳と、サラサラヘアなのにもったいないよ」
って言ってくれてるけど、わたしはおしゃれなヘアアレンジなんて、不器用だからできないんだよね。
普通に寝ぐせ直して、肩までの髪をおろしてるだけ。
それでもお母さんのゆずりの黒髪は、自然にしててもツヤツヤしていて、髪の毛だけはちょっと自慢なんだ。
「わたしはこれでいいんだよ」
私は肩をくすめた。勘がするどいってだけで嫌われちゃうことだって、けっこうある。
この学園ではできればあんまり目立たなくていいって思ってるし。
「ま、おろしてるだけできれいだから、美羽ちゃんには似合ってるけどね。神秘的な美少女って雰囲気がどことなくあるし」
風花ちゃんの言葉にわたしは、ぷはっとふきだしちゃった。
私は人よりちょっと勘がするどいだけで、全然神秘的じゃないし、美少女ってガラでもない。
風花ちゃんの方こそ、目もパッチリしていてまつげも長いし、美少女って表現が似合っちゃう子だって思うんだけどな。
私は一応クラス委員だったりするけど、目立つタイプじゃないと思う。
みんなが嫌がってる空気を感じたから、自分から立候補しちゃっただけだ。委員会をやることよりも、その空気をずっと感じてることのほうが、しんどいなって思っちゃう。
「霧島くん、前の学校に彼女とか、いないの?」
川原さんが、ちょっと可愛らしい声を出して聞く。
「いない」
霧島くんの答えに女子たちのテンションがあがったのか、空気でわかった。
川原さんたちだけじゃない、まわりの女子みんなも聞き耳を立てていそう。
わたしだって、ついつい答えに集中しちゃったもんね。
「ていうか」
初めて続いた単語以外の霧島くんの言葉に、またまた耳をそばだててしまう。
「おれにかまわないでくんない?」
霧島くんがはなったひとことに、川原さんたちの空気が凍ったのがわかった。
「っ、そうだよねえ。初日からうるさくしちゃって、ごめんねっ」
川原さんはぎこちない笑顔であやまると、そそくさとみんなで移動していった。
去り際に、
「イケメンだからって調子乗ってない?」
としっかり聞こえるように文句を言いながら。
わたしは、川原さんたちの後ろ姿を目で追いながら、霧島くんってすごいなって思った。
あの川原さんを敵に回すなんて、わたしだったらぜったいできないもん。
だけどわたしは霧島くんがかまうなって言ったのが、私だけじゃなかったことに正直、ホッとしていた。
霧島くんがそういったことで、男子までも気をつかって話しかけなくなり、霧島くんは初日にして、完全に孤立した状態になっていた。
休み時間は机にふせて寝ている。
風花ちゃんは、
「イケメンだけど、ちょっと近づきがたいね」
とひっそり私に耳うちした。
五限目は、音楽の授業だった。
私は音楽室へ向かう途中で、リコーダーを忘れたことに気づいて、一人で教室へ取りに戻っていた。
(霧島くん、寝てる、、、、)
誰もいなくなった教室で、霧島くんはそれまでの休み時間と同じように、机にふせて眠っていた。
(音楽室に移動するってこと、知らないのかな)
起こして教えてあげたほうがいいかな。
一応私、クラス委員だし。
声をかけようとしたけれど、霧島くんの「かまうな」って言葉が頭によぎった。
話しかけたら、ますます嫌われるかもしれない。
そう思うと、のどから声が出なくなった。
とりあえず机の中から、リコーダーをとりだす。
霧島くんは廊下側に顔を向けているから、本当に寝ているのかまではわからない。
私は廊下側に回って、霧島くんの顔をのぞいてみた。
霧島くんは、目を閉じている。
眠っていても眉毛はキリッとしたままだし、ふせているまつげは濃くて長い。
だけど起きているときと違って、寝顔はあどけなくて、可愛いと思ってしまった。
近くにいるとやっぱりかすかに、花のにおいがする。
(このにおい、、、、、、バラかな?)
私は気になってしかたなくなってしまい、どこから香るのか確かめようと、霧島くんに鼻を近づけてみた。
制服の襟首の当たりに鼻を近づけたら、突然、霧島くんがいなくなった。
まるで消えたみたいに。
「おまっ、なにやってんだよ!」
教室の後ろのロッカーの方から声がして、そっちに顔を向けると、霧島くんが立っていた。
(あれ?目の前に座って寝てたよね!?)
目をぱちぱちさせてみたけれど、霧島くんは変わらず一メートルくらいはなれた位置で、警戒するようにかまえている。
飛びのいたみたいな体勢をとっているけれど、霧島くんが席から立ち上がったところは見ていないから、それはない。
私は今起こった出来事を、頭の中で整理しようとしたけれどまるで無理で、じっと食いいるように、霧島くんを見つめてしまった。
よく見ると霧島くんの顔は、うっすら赤かった。
霧島くんは居心地が悪そうに、片うでで顔をおおって赤くなったほうおをかくそうとしている。
「おれにかまうなって言ってんだろ。勝手に顔近づけてくるんじゃねーよ」
「え。誤解!誤解だよ!わたしはただ花の香りが、どこからするのかなって」
においのことを言うと、霧島くんのほおがぴくっと動いた。
「知らねー。気のせいだろ」
霧島くんはそう言うと、ぷいっと教室から出ていこうとした。
「あ、次は移動だよ。音楽室」
それでわたしはあわてて、教室を移動することを、霧島くんに伝えた。
霧島くんは振り向いて、しかめっ面をしたまま、ボソっとつぶやいた。
「、、、、、、おせっかい女」
そのまま教室からでていってしまう。
とりのこされたわたしは、
「なにあれ、、、、、」
とつぶやくのが、せいいっぱいだった。
さっきのは、いったいなんだったんだろう。
(まるで、瞬間移動みたいだった。)
クラスのみんなにとって、転校生の霧島くんは、とても気になる存在だ。
まず、かっこいいだけじゃなくて頭がすっごくいい。たぶん。
授業中もノートをとっている様子はないのに、当てられた質問には全部答えるし、英語の発音なんか、本物の外国の人みたいに流ちょうだ。
そして運動神経も、ものすごいい。
必死な顔なんて全然してないのに、動物みたいにしなやかな動きで、ハードルを軽々と超えていく。
冷たくされておこっていた川原さんたちも、霧島くんのことをかっこいいって、またはしゃぎはじめた。
私も例外じゃなく、霧島くんのことが気になっている。
川原さんたちとは少し違う理由で、だけれど。
霧島くんがなにか普通とは違う行動をとるんじゃないかって、授業中もつい、チラチラ見ちゃう。
霧島くんもそんな私に気づいているみたい。
それで余計に嫌われたのか、私は霧島くんにさけられてるっぽい。
授業中から休み時間まで、霧島くんってばずっとわたしとは反対方向の、廊下の壁にばかり顔を向けているんだもの。
私のことを視界から遠ざけようとしてるって感じ。
(なんかちょっと、傷つくんですけど)
川原さんなんて、霧島くんの委員を決めるときに、
「美化委員は人が足りてません」
ってちゃっかり自分と同じ委員に推薦しちゃってるっていうのに。
二人が話す回数が増えると、わたしのもやもやは大きくなった。
まあ、わたしは佐野くんとクラス委員をやってるから、霧島くんと同じ委員なんて、最初から可能性はなかったわけだけど。
クラス委員なんてたいそうな役目っぽいけど、実際は先生から用事を頼まれる雑用係なんだよね。
今日も私は、先生に頼まれた課題プリントを、職員室へ運ぶことになっていた。
(よし、全員ぶんそろってるな)
「佐野くん。男子のぶんも、私が持っていくね」
「まじで?日向、神じゃん!助かる!」
男子のクラス委員の佐野くんは、白い歯を見せて、ニカッと笑った。
佐野くんは優秀だからってよりも、人がいいからクラス委員の引き受けちゃったって感じの、元気な男の子。
短い髪がツンツン立っていて、いがぐりみたいだよねって風花ちゃんに言ったら、
「佐野くん小学校では、さわやか男子って人気だったんだから。ファンに怒られるよ!」
って注意されたっけ。
「いいよー。プリントだけだから、軽いもん。」
佐野くんからプリントを受け取って、枚数を確認して教室を出ると、向かっている方向に、霧島くんの姿が見えた。
見かけたことのない、明るい髪色の男子生徒と、ふたりでいる。
(霧島くんがだれかといるなんて、めずらしいな)
みていたら、霧島くんもこっちを見たから、目があってしまった。
ぱっと目をふせたのは私の方だった。
(なんで私がさける必要あるの!?)
いつもは盗み見してるだけだから、実際に目が合っちゃうとどうしていいかわからない。
うしろめたいことなんてないのに。
そう思ってもう一度、視線をあげてみると、霧島くんはまだこっちを見ている。
(どうしよう。困るんだけど!)
霧島くんもいつもの、私に見られてこんな感じなのかもしれない。
(仕返しされてるのかな、、、、)
気まずくなって、こっちに背中を向けて霧島くんと話している人の方へと視線を向けた。
霧島くんも小顔だなって思ったけれど、いっしょにいる人も負けないくらい頭がちっちゃくて、スタイルが良かった。
廊下の窓によりかかるみたいにして立っている姿が、モデルさんがポーズをとっているみたいにキマっている。
ふんわりした長めの茶色っぽい髪は、校則がゆるいとはいえ目立ってるし。
だって、あんなにおしゃれな雰囲気の男子って、あんまりいない。
霧島くんより頭ひとつぶん、背が高くて、足も長い。
後ろ姿だけで、かっこいいんだろうなってオーラをただよわせている。
あまり廊下に出ない霧島くんの出現に、他のクラスの女子が数人、廊下へと見にきてる。
その会話の中から、「霧島くんのお兄さん」という単語が聞こえた。
(あの人が霧島くんのお兄さんなんだ!)
霧島くんより背が高いその人は、黄色のラインが入った上履きを履いていた。
だから三年生のお兄さんの方なんだとわかった。
霧島くんは二年生にもお兄さんがいるはずだから。
うちの学園は一年生が青のラインで、二年生が緑のライン、三年生は黄色のラインって決まってるんだ。
わたしがうわさ話に耳をそばだてていると、
「これでレン先輩がそろったら、最高の絵になるのにね」
って声が聞こえた。
レン先輩は霧島くんのもう一人のお兄さんのことだ。
「わたしはレン先輩が一番好き。めちゃくちゃきれいなな顔してるんだよ。あこがれちゃう」
(霧島くんもきれいな顔してる気がするけれど)
霧島くんたちは兄弟そろって美形ってことかな。
たしかに霧島くんとお兄さんだけが、立っている姿がきれいすぎて、まわりから完全に浮いている。
そっちばかり気を取られていたから、わたしは廊下の窓があいていることなんて、気にも留めていなかった。
その日は風が強くて、窓からぴゅうっと風が吹き込んだ。
「わっ」
気づいたときにはプリントが数枚、風にあおられて舞いあがっていた。
とっさに目で行方を追うと、そのうちの一枚がとなりの窓から、外に飛ばされようとしていた。
(外に落ちちゃう!)
わたしはプリントを追いかけて、つかまえようとした。
届きそうでつかめないプリントに向かって、せいいっぱい窓から身を乗り出す。
あぶないとか、何も考えずに体が動いていた。
いつの間にか体が外にですぎちゃってたみたいで、バランスがぐらりとくずれた。
(わっ、、、、、、落ちる!)
ひやっとしたのは一瞬で、私はすごい力で、屋内へと引き戻されていた。
よろめいた逆に後ろに倒れそうになると、だれかが後ろからささえてくれた。
「なにやってんだよ」
耳元で聞こえた不機嫌そうな声に、わたしはおどろきの声を上げた。
「霧島くん!?」
また、現実じゃないことが起こった、すぐにそう思った。
だって霧島くんはわたしから数メートルはなれた、廊下の奥の方にいたのだから。
信じられない思いで、霧島くんを見る。
つぎに、自分の手にプリントがつかめていないことに気づいた。
「あっ、プリントが外に飛ばされちゃったかも!?」
思わずそう言うと、霧島くんは困ったような顔をした。
(どうしよう。探しに行かなくちゃ!)
「ちょっととってくるね」
早く回収しないと、どこに飛んでいってしまうかわからない。
「待てって」
散らばるプリントもそのままで、外へ向かおうとした私を、霧島くんが引き止める。
「プリントって、これだろ」
「え?」
霧島くんはわたしに持っていたプリントを押し付けると、ゆっくりとした動作で床に散らばったプリントを集め始めた。
それでまわりの女の子たちも手伝ってくれて、あっという間にプリントは私の手元に戻ってきた。
お礼を言って枚数を数えると、ちゃんとクラス全員分そろってる。
わたしはきつねにつままれた気分で、声をあげた。
「ねえ、一枚、外に飛ばされたよね!?」
「さあ?」
同意を求めるようにまわりを見回すと、拾うのを手伝ってくれた女の子たちは、私がプリントを飛ばされた現場は見ていないようだった。
みんな、何言ってるんだろうって感じで、わたしのことを見ている。
思わず霧島くんを見ると、さっと目をそらされた。
「気のせいじゃね?」
さらには知らんぷりだ。
「うそ!だってわたしそれ追いかけて、落ちそうになったんだよ!?」
「鈍くせー女」
「えっ、いや問題そこじゃなくて!」
「さっさと職員室いったほうがいいんじゃねーの?休み時間もう終わる」
「わあ、やばい!」
あわてて職員室へと早足で歩き出してから、ごまかされたんだと気がついた。
振り向くともう、霧島くんは教室へと入っていくところだった。
お兄さんの姿も、もうない。
(うそだよ!気のせいだなんて、ぜったいにうそ!)
だって、プリントはたしかに、窓の外へと飛んでいったんだもの。
それが霧島くんの手にあったとしたら、私のうでをつかんで引き戻したと同時に、プリントもつかんでくれたんだってことになる。
(でもそれって、不可能じゃない?)
そもそも身を乗り出した私の手が、プリントまで届いていなかったんだから。
後ろにいた霧島くんから、届くわけない。
それになにより。
(霧島くんって、数メートル離れたところにいたよね、、、。あんな一瞬で、私の後ろに来るなんて、ありえなくない!?)
プリントを職員室に届けて教室へと帰ると、すぐに授業が始まって、私が霧島くんに話しかけるチャンスはなくなくなってしまった。
霧島くんは左手でほお杖をついて、廊下側へと顔を向けている。
(やっぱりさけられてる?)
でもそんなわたしのことを、霧島くんは助けてくれたんだ。
かまわれたくないのならほうっておいた方が、霧島くんにとって都合がいいはずなのに。
(本当は優しい人なんじゃないかな)
わたしはもっと、霧島くんのことを知りたい気持ちが強くなった。