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「学園七不思議って、あるじゃない?」
「うん」
「それを今度の学園新聞で、特集組もうと思ってるんだけどさあ」
細い銀のフレームメガネの奥でヒメこと、鈴内姫奈がらんらんと目を輝かせて言う。
ヒメは幼馴染の親友で、新聞部に入っているからか、校内のいろんな情報に詳しい。
キリっとした目のショートカットの女の子。
クラスは違うけれど家が近いから、部活がない日は一緒に登下校してる。
授業が終わるとヒメの方がこうして、私のクラスまで迎えに来てくれるんだ。
「うちの学園に、そんなのあったっけ?」
わたしが一年生だからしらないだけかもしれないけど、すくなくともわたしは入学以来、学園七不思議なんて、聞いたことがない。
「ないから作るんだよ。ねえ、美羽。心当たりない?」
「不思議なこと?夜の学園でピアノの音がするって、うわさとか?」
「そう、それ!ひとつめはそれで決まりよね。でも七不思議っていうくらいだから、あと6ついるんだよ」
ヒメもピアノのうわさから、特集を思いついたようだった。
たしかにあのうわさも気になる。
だけど最近私が気になっているのは、もっぱら、、、、。
「霧島くん、、、、、、」
となりの空いた席に、視線を向ける。
霧島くんが消えたり現れたりすることを私は誰にも話していない。
もちろん信じてもらえないだろうっていうのもあるけど、私自身が半信半疑で、実感がないからだ。
(だって、瞬間移動でしょ?)
あるわけないよ。いくらわたしが不思議なことが好きだからって、超能力の存在を信じるほど、こどもじゃない。
霧島くんに覚える違和感の正体を確かめたいって思ってるんだけど、霧島くんは授業が終わると、さっさとひとりで帰っちゃうんだよね。
丘の上の洋館だったら私の家と同じ方向なのに。
「え?霧島くんって転校生の?たしかにイケメン三兄弟って、すごい話題だよね」
「へえ。やっぱりお兄さんたちもかっこいいんだ」
「そうそう。霧島くんがセイでしょ?二年生ののお兄さんがレンで、三年生のお兄さんがコウだよ。たしか海外に住んでた経験ががあるとかで、全員、英語ペラペラなんでしょ?見た目もモデルみたいだし、わたしたちとは世界の違うハイスペックさだよね」
「ヒメ詳しいね」
「まあね。イケメン三兄弟で特集組んじゃう?美羽、霧島くんにインタビュー頼んでよ」
「えっ、無理だよ!わたし、嫌われてるもん」
口に出すと、悲しい気持ちになってくる。
何なら初対面から嫌われたもんね。
ヒメはわたしの落ち込みには気づかずに、話題を変えてきた。
「そういえば最近、学校を休む女子が増えてるんだって」
「不登校ってこと?うちのクラスにはいないけど?」
私は首をかしげた。
五月病とか?今って、6月だけど。
「二年生と三年生は今月に入ってから増えたって、先生たちが話してるの聞いたよ」
さすがヒメ。職員室での先生たちの話に、聞き耳を立てたらしい。
「貧血で保健室に来る女子も多いって、保健室の先生がぼやいてたよ。しかも、なぜか名前出てたの、美人の先輩ばっかりなんだよ?」
「うーん。じゃあ、学園の七不思議のふたつめは、美少女がかかる、なぞの五月病とか?」
「、、、、、、無理あるよねえ」
ヒメがため息を付いて、カバンを手に立ち上がった。
今日は梅雨の中休みで、久しぶりに晴れている。
校庭へと出ると、空はまだきれいな青空だった。
何気なく校庭のすみに目を向けた私は、ちょろちょろと動く黒いものに気がついた。
「猫?ねえ、ヒメ。あれ子猫だよね?」
「えー。校内に猫なんていないでしょ」
二人でじっと目をこらすけど、猫にしては小さい。
けれど確実に黒い生き物がいて、ささっと校舎へど走っていく。
「イタチかな?なんか校舎に向かってない?」
「野生のイタチなんてこの辺にいないよね?ペットのモルモットがにげだしたのかなあ」
黒いほっそりした生き物は、そのまま昇降口から中へ走って入ってしまった。
「え、先生に見つかったらやばくない?」
そう言いながらもヒメは面白いことが見つかったとでも言うように、小鼻をふくらませている。
「迷い込んじゃったんだとしたら、かわいそうだよね」
先生が捕まえて、外に逃がしてくれるといいけど。
黒いあの子の行方が気になったけれど、その日はそのまま帰ってしまった。
その二、三日後もまた、黒い生き物は校庭にいた。
もしかして学校に住みついているんじゃないかな。
わたしが意気込んでヒメに報告すると、三回目には、ヒメも不思議だってみとめてくれた。
今日の霧島くんは、ヒメが私を迎えに来ても、まだ下校せずに机をふせている。
(寝てるのかな?)
このまま寝過ごして、みんな帰っちゃったらどうするんだろう。
声かけてみたほうがいいかな。
そわそわしているわたしをよそに、ヒメはぽんと私の肩をたたいた。
「美羽。現地調査、たのんだ!」
「えっ?」
「あの生き物が学園に住んでいるんだとしたら、どこかに巣があるはずじゃない?ちょっと探してみてよ」
「巣を探してどうするの?」
「巣があったら、べつに七不思議でもなんでもないでしょ。ぱっとあらわれて、ぱっと消えるってことにしたほうが不思議じゃん」
黒いイタチが学園に現れるっていうのも、十分不思議な気がするけどなあ。
でもたしかに気になる。あのこはどこからきてるんだろう。
「わかった。昨日は体育館の方へ行くの見たから。探しに行ってみるよ!」
「やめろ」
ふいにわたしとヒメの会話に男子の声がまじった。
ビックリしたヒメが飛びのく。
「霧島くん、起きてたの!?ていうか、しゃべってるの、初めて聞いたんだけど!」
だけど霧島くんは顔をふせたままの体勢で、再び喋ることはなかった。
(今のって、あの黒いこの巣を探しに行くのを、やめろってこと?)
「あ、やっぱり今日は部活行こっかな〜」
霧島くんが無反応で気まずいからか、ヒメはそわそわして、教室を出ていってしまった。
教室にはわたしと霧島くんだけになった。
寝ている霧島くんのつむじあたりをじっと見つめたけれど、今日の霧島くんは消えたりはしなかった。
「どうして、探しちゃいけないの?」
(起きてるんでしょ?)
そういう思いをこめて話しかけてみたんだけど、霧島くんからの返事はなかった。
(霧島くんから話しかけてくるなんて、、、、どういう風のふきまわし?)
ふだんならわたしの存在なんて、いないかのような態度なのに。
霧島くんが教えてくれないから、わたしは窓際にいって黒い生き物がいないか探してみた。
校庭のすみをくまなく探したけれどいない。
(じゃあ、体育館の方、、、、?)
「いたー!」
体育倉庫のそばを、ちょろちょろ黒いものが動いてる。
わたしは思わず声をあげてしまった。
(見つけちゃったら、いくしかないでしょ!)
わたしは急いで席まで戻ると、カバンを掴んで教室を出ようとした。
けれど後ろから左腕をつかまれたから、走り出そうとした体は、後ろへと引き戻された。
「わっ、霧島くん」
すぐ後ろに、霧島くんが立っていた。
(わあ、霧島くんにさわられてる!)
ふだんしゃべってもくれない霧島くんが、わたしのうでを。
わたしはどぎまぎしてしまった。
わたしの不自然な態度に気づいたのか、霧島くんがぱっと手をはなした。
顔を見ると、前と同じく困ったような顔をしている。
「行くなって言っただろ」
「、、、、、なんで?」
二回も止めるってことは、本当にいってほしくなさそうだ。
さっきは寝たふりしてたのに、こうして私を引きとめるくらい。
でも霧島くんは、やっぱり答えてくれない。
「じゃあ、教えてくれる?霧島くんが隠してること」
勇気を出して聞いてみた。
霧島くんが目を見開く。
霧島くんの秘密について教えてくれるのならば、黒い生き物の正体はあきらめたっていい。
ヒメにはおこられると思うけど、学園七不思議だって、なくたっていい。
一番気になるのは、霧島くんのことだもん。
霧島くんの驚いた顔を見たのは、たぶんこれが二回目。
一回目は転校初日。
いいにおいがするって、私が言ってしまったときだ。
「何いってんだお前、、、、」
霧島くんはしばらくだまった後、いつもよりずっと小さな声で言った。
なんて言おうか迷っているみたいだった。
(そんな答えじゃ、納得しないんだから)
わたしがまっすぐに霧島くんの目を見ていると、
「かくしてることなんて、べつにねーし」
霧島くんは目をそらしていった。
(、、、、、、うそついてる)
霧島くんの態度からすると、ぜったいなにかをかくしていると思う。
「じゃあ、いいよ。わたし、帰るから。またね。」
カバンを掴んで教室をでた。
ふーんだ。いいよ。いいよ。
霧島くんが教えてくれないのなら、自分でつきとめるから。
あの黒い生き物はきっと、霧島くんのひみつに関係してるにちがいない。
だからあのこを探すことが、霧島くんに近づくことに通じるんだなって思う。
そんな思いで私は霧島くんが止めたのに、体育倉庫へと向かっていた。
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