テラーノベル
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no view___________
味噌の匂いが、空気を満たしていた。
それは夜の冷たさを押しのけるように、部屋の隅々までゆっくりと広がっていく。
ふうはやの部屋のキッチンは狭い。
二人立つと肩がぶつかるくらいの距離。
でも、今朝はなぜかそれがちょうど良かった。
かざねが味噌を溶かしている横で、しゅうとが卵を割る。
カチャン、カチャン。
箸が鍋に当たる音が、静かに響く。
fu「……塩、どこだっけ」
kz「下の棚。ほら、昨日入れたまんま」
fu「おー、あった」
fu「……よし、しゅうと」
shu「ん?」
fu「味見」
shu「え、俺?」
kz「いいから」
しゅうとが味噌汁を一口すする。
shu「……うん。おいし…ふうはやにしてはにうまい」
fu「“しては”とはなんだ。美味しいって言いかけただろ。」
fu「素直に褒めろ」
kz「ふふっ」
笑い声が重なる。
それはごく小さくて、でも確かに“生きてる音”だった。
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ベッドの上で壁にもたれて座り、目を開けていた。
眠れたのかどうかもわからない。
ただ、天井の色が少しずつ明るくなっていくのを見ていた。
腕の包帯は痛い。
でも、それよりも痛いのは胸の中。
rm(……まだ、生きてるんだな)
頭のどこかでそんなことを考えて、すぐに「なんでだよ」と打ち消す。
死にたかったわけじゃない。
でも、生きたい理由が見つからなかった。
なのに今、台所から流れてくる味噌汁の匂いが、どうしようもなく懐かしくて、泣きたくなった。
rm「……やめてよ……」
自分に言った。
心が勝手に震えて、涙腺がじんと熱くなる。
ふうはやの強気な声掛けも、しゅうとの動揺した声も、かざねの笑い声も
一人暮らし用の小さなこの家では、いろんな音が筒抜けに聞こえてくる
誰とも一緒にいたくないくせに、1人でいたいくせに、みんなと一緒にいたい孤独感が心を支配している。
rm(……聞こえる)
リビングから響く音を聞いて、りもこんは顔を枕に埋めた。
笑い声が刺さる。
優しいのに、痛い。
rm(こんな俺が、その中に混ざっていいの?)
___________こんなに汚いのに
___________隠し通せないくらい弱いのに
rm「っ、……」
fu「りもこん」
名前を呼ばれた瞬間、びくっと肩が跳ねた。
ふうはやが扉のところに立っている。
逆光でよく見えない、でも、緑色の瞳は綺麗に光っている、気が、する。
fu「……朝メシ、できた。来れるか?」
りもこんは、返事ができなかった。
けど、沈黙を否定とは取らなかったのか、ふうはやは柔らかく笑って言った。
fu「無理なら、ここ持ってくる」
その言葉に、りもこんは一瞬だけ息を止めた。
その“当たり前の優しさ”が、怖かった。
rm「……やめて」
fu「……?」
rm「………いぃ、から…もう」
自分でも、何が「もういい」のかわからなかった。
馬鹿だ、1人が怖いくせに、遠ざけたい一心だ。
ふうはやの目が、少し潤む。
でも、彼は泣かない。
黙ってこちらに近づいてくる。
rm「………だめ」
来ないで。来ないで欲しい。
でも、これ以上の拒絶の言葉を彼に投げることも憚られて、意味もなくだめだと連呼する。
彼が近づいてくる。姿がよく見えない。
お前のはずなのに、幾分か恐怖を抱いている。
手が伸びる。ゆっくりと、俺を定めて。
だめだ、違う、だめだ、だめだ。
お前のはずなのに、幾分か恐怖を抱いている。
お前のはずなのに、幾分か恐怖を抱いている。
お前のはずなのに、
お前の、
お前のはずなのに。
rm「ひッッ!!!」
fu「!!」
お前のはずなのに、殴られる気がして、腕で頭を守った。
上から伸びるその手が、奴らのものと重なって、酷く恐ろしかった。
怖がる気なんてなかった。ふうはやが触れようとするなら、それくらい許すつもりでいたのに。
何故かダメだった。なんで?わからない、ふうはやの手がふうはやの手じゃないみたいだった。
fu「…俺だよ。りも」
彼に抱きしめられる。声が聞こえるのに、触れた体が別人な気がしてならない。
認識しろ、これはふうはやだ。殴ってくるあいつらじゃない。
ちゃんと判断しろ。なんであいつらとふうはやを一緒にするんだ。
どこまで馬鹿なんだよ、俺の体は!!!
rm「っ、ひ、ぁっ、〜〜ッッ」
わかっている、わかっているのに、触れられることが怖い。
fu「りも。…りもこん。りもこん、俺だ」
fu「ふうはやだよ。お前を傷つけたりしない。守るためにここにいるから」
fu「頼む、これは俺だ。信じて、りもこん」
教え込むように、耳元で優しくふうはやが繰り返す。
その声に反応して、馬鹿すぎた体も段々と安心を抱き、強張りを解放していく。
rm「ちが、ちがう、ちがう、」
rm「わかってる、」
rm「ぉ前だって、…わかってる、わかってるのに」
fu「…いいんだ。大丈夫、わかったから」
背中を摩られる。触れる手が、声が、全部が優しくて、夢と錯覚しそうだとさえ思う。
fu「落ち着いたら来い、な。1人で苦しむな」
それだけ残して、彼は部屋を出ていく。
あんなに怖かったのに、それでも1人になると、体は再び彼の温もりを求めていた。
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数分後、りもこんはゆっくりと起き上がった。
足が震える。
でも、立てた。
足元のフローリングが、やけに冷たい。
扉を開けると、キッチンに3人がいた。
かざねが笑って手を振る。
しゅうとが椀を差し出す。
ふうはやが「来たな」と一言。
誰も、「大丈夫?」とは言わなかった。
代わりに、ふうはやが味噌汁をそっと差し出した。
rm「……ありがとう」
その言葉を出した瞬間、自分でも驚いた。
喉の奥が詰まるように痛くて、それでも、確かに声になっていた。
fu「…言えたじゃん」
rm「……うるさい」
fu「ちょっと本調子になってる?」
fu「それとも素で俺に冷たいのお前は?」
kz「りもこん、味噌汁冷める前に飲んで」
shu「塩分、ちょっと強いけどな」
rm「……ありがと」
fu「あ、あれ、みんな」
fu「俺は無視??」
みんな、笑った。
shu view___________
湯気の上がる器を両手で包みながら、静かにりもこんを見ていた。
りもこんはしばらく顔を上げない。
食器の中を見つめて、ほとんど何も食べていない。
ふうはやは黙ってその横で椀を持ち、かざねは反対側で水を注いでいる。
この沈黙が嫌いじゃない。
けど、好きだとも言えない。
そっと息を吸い、わざと明るめの声を出した。
shu「…味噌汁、ふうはやが塩入れすぎた説あるよな」
fu「いや、最初に入れたのしゅうとだろ」
shu「俺?俺なの?味見させてきたじゃん」
kz「いや、ふたりとも入れてたよ。」
fu & shu「……え?」
一瞬の静寂。
次の瞬間、小さな笑いが零れた。
りもこんが、少しだけ肩を震わせてた。
ほんの一瞬だったけど、笑った。
たぶん、久しぶりに本当の笑顔を。
たったこれだけのことなのに、泣きそうになる。
壊れそうな彼を、昨晩、目にしてしまったからだろうか。
shu(…ずっと、笑っててほしいよ…りもこん)
ふうはやは顔を伏せて、黙ったまま椀を置く。
かざねはそれを横目で見て、軽く息を吐いた。
kz「……ふうはや、ちょっと休憩しな」
fu「別に平気」
shu「平気な顔してる時がいちばん平気じゃないよ」
fu「うるせぇ」
その言葉にまた少し笑いがこぼれる。
りもこんが小さく顔を上げた。
ほんの数秒。けど、視線が合った。
sh「……おはよ」
rm「……おはよ……」
たったそれだけで、胸がじんと痛くなる。
時間がゆっくり進んでいく。
しゅうとは、りもこんの包帯に視線をやった。
白く、きつく巻かれた包帯。
血が少し滲んでる。
触れたい。でも、触れたくない。
怖いのは傷じゃなくて
自分が「怖がってるのを、気づかれること」。
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rm「……ごめん」
その一言で、心臓がぐしゃっと潰れるみたいだった。
朝食の片付けをして、手伝いに来たりもこんの包帯が濡れてしまったから、それを取り替えている時。
対面した状態で、りもこんは小さく謝った。
shu「なんで謝るの」
rm「……迷惑かけた」
shu「迷惑かけられてないし」
rm「うそ」
shu「ほんとだよ」
shu「………でも、そうやって謝られると」
shu「…ちょっとだけ、やだ、かも」
ふうはやと、かざねが同時に顔を上げる。
りもこんが息をのむ。
顔を上げれば、心配そうにこちらを見つめるオッドアイと目があった。
あぁ、怖がらせている,そのことに少しばかり罪悪感があって、戸惑いがちに言葉を繋げた。
shu「……俺らが、迷惑って思うような仲だった?」
shu「…俺らが苦しんでたら、助けを求めてたら、りもこんは迷惑だって思う?」
静かな声。
責めるような言い方じゃなく、ただ、確かめるように。
rm「……違う……けど……」
shu「だったらさ、謝るのはもういい、じゃん。これは俺らの気持ちだから」
shu「それでも、申し訳ないとか、思うなら」
shu「この週末だけ、ちゃんとここにいて」
shu「俺らのこと、怖がってもいいけど、置いていかないで」
残った食器や料理道具を片付けていたふうはやが声を上げる。
fu「……しゅうと、良いこと言うな」
shu「なんて余計な」
kz「いや、今のは胸にきたね」
shu「ちょっと黙っててもらえますか」
その小さな掛け合いの中で、りもこんはまた、ほんの少しだけ息を吐いた。
その後、りもこんは再び布団に潜り込んだ。
3人は彼を責めない。顔色がひどいことなんてわかっていたから。
しゅうとは買ってきた救急セットを片しながら、包帯越しに見えた無数の傷を思い出す。
あれは痛みじゃなく、助けを呼ぶために生き残った証みたいに見えた。
shu(……いんくのこと、ちゃんと居ていい場所にできるかな)
取り外した包帯から、ほんのり血の匂いがした。
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