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「つ、坪井くん? 資料……」
「ん、いーよ。 頭に入ってるから、ササっと打つわ」
「暗記してるの!?」
「暗記ってゆうか、俺が作った資料だし覚えてるよ」
カタカタと素早いタイピングで入力していく。その 横顔が、真衣香の目を奪う。
シートを繋げたり、設定されてない表計算を入力したり。
(私は、その都度メモとか見ながらやってたのに)
いつも朗らかな声で笑顔を見せてる姿を遠目で見てた。
付き合うことになった、あの夜からはその中に隠れる男性の顔に翻弄され。
そして今、仕事をしている姿を近くで見るのは初めてだ。
(研修の時に、近くに座ったりしたくらいだし)
画面を見る真剣な眼差しが、真衣香の心を奪う。
どこまでも奪われていく気がして苦しい。
ほんの数日で、こんなにも気持ちは育ってしまうのか。
(単純だなぁ、私)
「立花、終わったよ」
「え!?」
ボーッと横顔を眺めていた真衣香は我に返り思わず大きな声をあげた。
基本的に定時退社の人事総務のフロアは真衣香と坪井の他に人はおらず、課長や部長も今日はまだ戻ってきていない。
その為、真衣香の声は予想よりも大きく響き渡ってしまう。
「なになに、どうしたの? 大きな声出して〜」
「どうしたの……って、もう終わったの? 坪井くん仕事が早すぎるよ」
一生懸命入力していたつもりの真衣香。
今日に限らず、いつも手を抜いているつもりはない。
(でもやっぱり、営業部って凄いな)
その中でも、存在感のある坪井。
ただ人柄だけでその位置にいるわけではないことが、嫌と言うほどにわかった。
全部完璧すぎて、どうにも遠くの人という感覚が消えない。