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「んん……?」「ここは……?」
『森』の中で、僕と由宇は同時に目をさました。
互いに、隣に寝ている相手に顔を向ける。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
僕らは慌てて跳び起き、繋いでいた手を離した。
「——良かった。上手くいったみたいだね」
声のした方に顔を向けると、にゃははうぺーとヂューダが並んで立っていた。
二匹の姿は黄金の光に包まれており、体の端々から徐々に、細かい粒へと分解が始まっている。
「まさか……消えちゃうの?」
不安げな声をあげる由宇に、にゃははうぺーが優しく笑いかけた。
「消えたりなんかしないよ。僕らは、由宇ちゃんの一部なんだから」
そう言い終えるとほぼ同時に、二匹は完全な光の粒子となり、由宇の体へと吸い込まれていった。
——僕らはずっと君の中にいる。それを忘れないでね、由宇ちゃん……
にゃははうぺーの言葉が、『森』に静かに木霊した。
「うん……ありがとう」
由宇はそう呟くと、僕に向き直って続けた。
「その……修君も、ありがとう」
「え?」
「こんなとこまで、助けに来てくれて」
「あ、ああ——いや、いいよ、そんな」
僕は頬をポリポリと掻きながら、必死に言葉を探した。
先程の恥ずかしい告白を思い出し、顔が熱くなる。
とりあえず、その件は一旦後回しだ。
それより、と気を取り直して僕は言った。
「早くここから脱出しないと。蒼梧達も心配だし……」
「達?」
怪訝そうな由宇に、僕はオーマとナギのことを説明した。
オーマが僕らと合流し、しかも一緒に魔女の棲家へ乗り込んできたことに、由宇はとても驚いていた。
「状況はわかったけど——正直、この空間から自力で抜け出すのは難しいと思う」
「どういうこと?」
僕の問いかけに、由宇が難しい顔で答える。
「この紫の霧——何だかおかしな力があるみたい。多分、方向感覚を狂わせたりとか、そんな感じの」
「わかるの?」
「何となくだけど。これも、にゃははうぺーの——ううん、違うね——私にもともと備わってた力なんだと思う」
なるほど。
闇雲に歩き回っても、同じ場所に戻ってきてしまう、ということか。
とは言え、仮に霧が晴れたところで、この鬱蒼とした『森』に終わりはあるのかはわからない。
いや——終わりがあったとして、『森』の先には何が広がっているのだろう?
僕達は、この『森』について何も知らないのだ。
僕は腕を組んで考え込んだ。
「外に出られるとしたら、ナハトが僕らを吐き出すタイミングかな。きっと魔女はこの後、由宇を〝夜〟の生贄にしようとするはずだし——いや、待てよ——その時は、また蔓に体を縛られちゃうのかな?だとしたら、外に出られたとしても体の自由が——」
ううん、と唸りながら、僕は頭を掻いた。
あれこれ悩んでも仕方ない。
こういう時こそ、直感に従うべきだろう。
僕はゆっくりと周囲を見回した。
やがて——その視線が、ある一点で止まる。
「……向こうに、何かある」
僕は草木を掻き分け、茂みの奥へと入っていった。
由宇も僕のすぐ後ろに続く。
少し進むと霧の中から、それは唐突に姿を現した。
「……鏡?」
金色に輝くフレームを持った、長方形のスタンドミラーだ。
由宇はフレーム部分に施されたロココ調の美しい装飾を指でそっとなぞって言った。
「この鏡……とてつもない凄い魔力を秘めてる……!」
僕は鏡面をじっと見つめた。
鏡の中の自分達と顔を合わせる。
一見、少し豪華なだけの何の変哲もない鏡だが、確かに何か気になる。
ふと思い立った僕は、左目を片手で覆い隠してみた。
すると突然、水面に小石を投げ入れた時のような波紋が広がり——それが落ち着いた時、鏡面にはベッドで眠る、中年の夫婦の姿が映し出された。
僕は、その二人をよく知っていた。
「な、何で……!?」
「どうしたの?」
思わず息を飲む僕に、きょとんとした表情で由宇が問いかける。
彼女には見えていないらしい。
僕は呆然としながらも、何とか言葉を発した。
「鏡に……うちの両親が映ってる……!」
「おじさんと、おばさんが?」
隣で、由宇が驚いた声をあげる。
間違いない。
鏡は、寝室の天井から見下ろすような視点で、すやすやと眠る二人を捉えていた。
戸惑う僕の目の前で、再び鏡面に波紋が広がる。
場面が変わり——映し出された光景に、僕は思わず大声で叫んでいた。
「蒼梧!オーマ!」
蒼梧は鎖で体をぐるぐる巻きにされ、真っ黒な床の上にうつ伏せに横たわっていた。
蒼梧は気を失っているらしく、口を半開きにし、目を瞑っている。
——死んでいるのではないと信じたい。
一方のオーマは、そんな蒼梧のすぐ傍らに置かれた鳥籠の中に閉じ込められていた。
窮屈な籠の中で、しょんぼりと項垂れている。
ナギの姿は見えない。
いや、『新月の秘薬』で姿を消しているのだから、それも当然か。
上手く逃げおおせたのか、それとも——
僕があれこれ考えている間に、鏡面が再び揺らぐ。
次に現れたのも、僕の見知った人物だった。
顔は見えないものの、白い着物を着た女性の後ろ姿——間違いない。
「幸村さん!?」
暗くて分かりづらいが、どこかの河川敷だろうか。
ポータブル投光器の明かりが、幸村さんと狐面の二人組を照らし出していた。
幸村汐梨は、最後の門のすぐ近くまで来ていた。
門が開いているのは、川の底なのだ。
周囲では、防護服を着た囲の面々が作業を続けている。
「——しかし、いつまでも迷っているわけにはいきませんよ?」
狐面の一人——角刈りの男が、汐梨に言う。
「残念ですがこちらから干渉できない以上、彼らを助けるのは不可能です。それに一旦始めてしまった以上、儀式を不完全な形で中止しては、どの様な影響が出るか——」
「そんなことはわかっています」
汐梨は苛立ちを滲ませた口調で、彼の言葉を遮った。
すいません、と角刈りの男が頭を下げる。
「いえ——今のは八つ当たりでした。彼らを行かせてしまったのは、私が迷ったせいです」
汐梨もまた、すいません、と頭を下げた。
「せめて、彼らの様子を確かめることはできないんスか?」
茶髪の男が、おずおずと口を挟む。
しかし、汐梨は首を横に振った。
「無理です。私の『第三の眼』でも、次元を越えてしまった相手は——」
と、そこまで言って。
汐梨は不意に言葉を切ると、背後を振り返った。
「どうしました?」
角刈りの男が、怪訝そうに尋ねる。
汐梨はそれには答えず、数秒間じっと虚空を見つめた後で口を開いた。
「誰だか知りませんが——私を見ていますね?」
#学園生活
耐え内
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阿炎快空
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コメント
1件
ああっ、鏡に両親や蒼梧くん、オーマの姿が映るシーン、すごくドキドキしました…!特に最後、幸村さんが「私を見ていますね?」って振り返ったところ、ゾクッとしました。まさかあの鏡、遠くの様子も映せるんですね。修くんの直感が冴えてて、この先どうなるのか気になりすぎます…!