テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――セリスの手紙が、静かに指先から滑り落ちた。
白い床に触れても、音はしない。
礼拝堂は、相変わらず沈黙に満ちていた。
祈りの場に相応しい静けさ。
だが少年の内側では、剣戟よりも激しい音が鳴り続けている。
「…セリスは…」
名を呼ぼうとして、声が震え、途切れた。
喉の奥で、言葉が崩れる。
ガブリエラが、低く、穏やかに告げる。
「彼は最期まで、お前の行く先を案じていた。」
その一言が、胸を強く打った。
少年は唇を噛みしめる。
血の味がした。
押し殺してきた思考が、堰を切ったように溢れ出す。
叩き込まれた言葉。
――考えるな。
――疑うな。
サリエルの声。
ミカリスの、感情のない瞳。
そして、 セリスの遺した、たったひとつの願い。
――選べ。
「…処刑まで…あと、何日ですか。」
自分でも驚くほど、静かな声だった。
ガブリエラは、一瞬だけ沈黙し、短く答えた。
「明日だ。」
その言葉と同時に、世界が止まった。
逃げ場はない。
先延ばしも、迷い続ける時間も。
剣を振り続けてきた理由が、 今、はっきりと“選択”として、少年の前に立ちはだかる。
――考えるな、ではない。
――従え、でもない。
――選べ。
セリスの声が、胸の奥で、確かに生きていた。
少年は、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳に宿っていたのは、 教え込まれた正義でも、与えられた使命でもない。
自分で選ぶという、決意だった。
処刑は、明日。
それは、 天使として生まれた少年と、 悪魔として囚われたサリエルの運命が、 完全に交差するまでの―― 最後の猶予。