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セリスの手紙が、静かに指先から滑り落ちた。
白い床に触れても、音はしない。
礼拝堂は、相変わらず沈黙に満ちていた。
祈りの場に相応しい静けさ。
だが少年の内側では、剣戟よりも激しい音が鳴り続けている。
「…セリスは…」
名を呼ぼうとして、声が震え、途切れた。
喉の奥で、言葉が崩れる。
ガブリエラが、低く、穏やかに告げる。
「彼は最期まで、お前の行く先を案じていた。」
その一言が、胸を強く打った。
少年は唇を噛みしめる。
血の味がした。
押し殺してきた思考が、堰を切ったように溢れ出す。
叩き込まれた言葉。
ーー考えるな。
ーー疑うな。
ミカリスの、感情のない冷たい瞳。
そして、 セリスの遺した、たったひとつの願い。
ーー選べ。
「…処刑まで…あと、何日ですか。」
自分でも驚くほど、静かな声だった。
ガブリエラは、一瞬だけ沈黙し、短く答えた。
「明日だ。」
その言葉と同時に、世界が止まった。
逃げ場はない。
先延ばしも、迷い続ける時間も。
剣を振り続けてきた理由が、 今、はっきりと“選択”として、少年の前に立ちはだかる。
セリスの声が、胸の奥で、確かに生きていた。
少年は、ゆっくりと顔を上げる。
涙の跡はまだ乾いていない。
それでも、その金色の瞳に、再び光が灯った。
怒りでも、復讐でもない。
揺れながらも、自分で決めるという、強い意志の光。
ガブリエラは、その瞳を静かに見つめる。
「…ようやく、前を見たな。」
少年は小さく息を吐いた。
「逃げません。」
その言葉に、もう震えはなかった。
処刑は、明日。
天使として生まれた少年と、 悪魔として囚われたサリエルの運命が、 完全に交差するまでの、最後の猶予。