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砂原 紗藍
#再会
二階のヘアサロン『NOBLE』で人気ナンバーワンで、彼に髪を切ってもらった人が彼とのツーショットを待ち受けにしたり、インスタに載せて自慢するほど女性客の指示がすごいって聞いている。
でもあの茶髪のふわふわしたパーマとか、自分に自信がある余裕のある雰囲気とか、シャツのボタンが開きすぎとか、ジーンスの色が落ちすぎて、服装も落ち着きないしふわふわ綿あめみたいにチャラそうなのが死んでも無理だ。
私のことを『ちゃん』付けで馴れ馴れしいのも本当に無理だった。
「すみません。大丈夫ですので、入ってこないでください」
「あー。白鳥さんいないの? でも店長もいるから平気でしょ?」
店長は大丈夫でも貴方が無理なんです、と言いたくて口をパクパクさせるがうまく言葉が出てこない。
心臓がぎゅっと閉まって息をするのが苦しくなった。
「てか、誰? 客?」
辻さんは私が制止するのも聞かずにカウンターに入ってきたので、急いで店長の後ろへ隠れた。
「業者の方です。私、帰宅準備するので閉店作業お願いします」
入ってこないでほしかったが、善意で店長まで入ってきた手前、お願いするしかない。
店長、辻さん、加えて彼までいる空間で、お昼ご飯をリバースしてしまうのが怖い。
私は防衛反応で失神するか、嘔吐して遠ざけてしまう場合も過去に何度があった。
さすがに辻さんに嘔吐するのは、私も嫌なので逃げた。
「もう仕事場には来ないから安心して」
彼はそれだけ言うと、店長と辻さんに頭を下げて、雨の中颯爽と帰っていった。
辻さんも店長も首を傾げつつも、閉店作業を手伝ってくれて、白鳥さんが戻ったときには一緒に帰宅することができた。
「ごめんね。旦那には辻くんをうちの店に連れてこないでってきつく言ってたんだけどさあ」
「いえ。私が未だに男性にこんな症状のせいです」
とは言いつつも、白鳥さんと二人だけの車の中は空気が美味しく感じてしまう。
「辻くん、悪い子じゃないのよ。でもあの子、モテるでしょ。自分に興味ない華怜に興味もっちゃったみたいで」
「はあ」
だから隙を見ては話しかけようとしてくるのか。
私が男性と接触してこなかったばかりに、興味を持ってしまったわけか。
普通の女の子だったら、モテる彼にはきっと気にもかけてもらえない。
「で、他には何もなかった?」
白鳥さんが探るように私を横目で見る。
きっとこれは、彼が来たことを気づいたに違いない。
「いえ。……とくには」
もう店には来ないというのだから、大丈夫。
バンカーが何度も雨を払っても、視界がすぐに遮られてしまう夜だった。
まるで今の私の、狭くて小さい思考のよう。
雷が何度もなるので、ヘッドフォンをつけ歌を口ずさみながら、雷の存在を頭の中から追い出した。
彼が何をしようとしているのか、雷から逃げるかの如く彼から逃げていた私には知る由もなし。
ただ――雨の夜が明けると、母が家に尋ねてきた。
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