コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「実はこのREIジュエリーのREIKA社長さ~、実の母親なんだ」
「・・・えっ!? ちょっと待って。えっ? そうなの?」
「うん。世間的には公に発表してないんだけどさ」
「うん。REIKA社長ってなんか謎に包まれてる感じ」
「まぁそうさせたのも結局親父だし」
「えっ? それも!?」
「元々母親はさ知ってる通りアクセサリーのデザイナーで。そこそこ活躍し始めた時にオレがデキて、子育てに忙しくなっちゃって。で、親父は親父で会社大きくするのに必死でさ。そのままどんどん家庭を顧みなくなっちゃったんだよね」
「そうだったんだ・・・」
「でもそうなってくるとさ、母親もストレス溜まっちゃって、デザイナーの夢も諦めきれなくなってきたらしくて。それから離婚して母親はあのブランド立ち上げて自分の夢選んだんだよね。でも親父の力は借りたくないからって自分で立ち上げてあそこまで大きくして、あえて親父のことも伏せて自分の力であそこまで有名になったんだ」
「そっか・・・、全然知らなかった」
「母親側に引き取られたけど、オレもそんな母親の夢は応援したかったから、若いうちから家出て、オレはオレで一人で生活しててさ。でもオレは一人っ子だし親父的には跡継ぎにオレが必要だったから、結局はそっちの人生をすでに決められてて」
「うん・・・」
今まで言いたかったけど言えなかった。
だけど、ホントはこうやって透子にも聞いてほしかった。
「実はREIジュエリーも経営厳しくなってた時期もあってさ。それであのプロジェクトで新ブランド立ち上げる話が出たんだ」
「そっか。じゃあ、あのプロジェクトで始まる前からすでに樹が関わってたってこと?」
「そっ。正直賭けだったんだよね。あのプロジェクトも」
「どういうこと?」
「正直新ブランドとの企画だし、どこまで実現出来てヒット出来るかもわからなかった。でももしこのプロジェクトが成功したらうちの会社もREIジュエリーも莫大な利益が出ることも期待出来た。でもその結果が出るまでは結局オレの人生もどうなるかわからなかったんだ」
ずっとオレのこの家庭環境は、オレにとって不幸せでしかないモノだと思っていた。
親父も母親も、結局は自分の夢を選んだ。
だけど、そのせいでいつからか孤独を感じるようになったオレは、どこかでそんな二人を受け入れられなくなってしまっていた。
だけど、今親父の会社も母親の会社も、そこまでして今まで守って来たモノだったのに、どちらもその夢を失いそうになってて。
母親が犠牲になって、オレが犠牲になって、二人共そこまでして夢を追いかけて来たのに、それでオレは苦しんで来たはずだったのに、だけど、なぜか二人がそれを失ってしまうのが悲しくて。
だから、もしオレが今出来ることがあるなら、出来るとこまでやってみたいと思った。
それが正解なのかも、本当に成功するのかもわからなくても。
何もせずにいるより、たった少しの可能性があるのなら、その可能性でオレが二人を救うことが出来るなら、オレはその可能性に賭けてみたかった。
あんなにも反発していた親父もこの会社も、救いたいと思うような自分になったのは、それは間違いなく透子のおかげだから。
透子がくれた言葉が存在がオレを強くしてくれた。
オレのこの気持ちを変えてくれた。
オレがこの二人の息子である意味。
オレがこの会社にいる意味。
オレが透子と出会った意味。
すべて透子がオレにそれを気付かせてくれた。
そしてそれが透子といられるこれからの幸せに繋がっているのだとしたら、迷う理由なんて一つもなかった。
例え一時、透子と離れてしまったとしても、オレはその自分に与えられた意味を、この宿命を証明したかった。
それが今オレがオレである意味だと、そう思ったから。
「前にさ、栞と二人でいて透子が誤解してすれ違ったことあったの覚えてる?」
「あっ、うん」
「あれさ、この新しいブランドの立ち上げにいろいろと動いてた時だったんだよね」
「そうだったの!? 言ってくれれば・・・って言えなかったのか、その時は」
「うん。透子に誤解されて苦しかったし、ホントは言ってしまいたかったんだけど、これは内密に進めてたことだったから、透子にも言えなかった。ごめん」
「謝るのは私の方だよ。そんな大変な時に私が勝手に勘違いして大騒ぎしてごめんなさい」
「しょうがないよ。透子には伝えられてなかったんだし。実際そう思わせてしまって誤解させることしたオレにも責任があったワケだから。透子にそれを隠してること自体が透子傷つけてたことには変わりないから・・・」
「それは全然大丈夫。樹は一人で誰にも言えずに頑張ってたワケだし」
「実際、あのプロジェクトが成功しなければ、どっちの会社も危なかったんだよね。ホントはさ、透子に言えばよかったのかもしれないけど、これはうちの家のことの延長線の話だし、会社としてもどうなるかわからない状況で、そこまでの心配も不安も透子にまでさせたくなかった」
「うん・・・」
「そんな不安定な状況の中で、その時のオレは透子を守る自信がなかった」
だから。
ずっと中途半端な自分ではダメだと思った。
透子を守れるちゃんとした一人前の男にならなきゃいけないと思った。
このプロジェクトは、ある意味会社もオレ達の未来も左右するモノだった。
だから、なんとしてでも成功させる必要があった。
きっとすべてを話してしまえば、透子は一緒に頑張ってしまうから。
だけど、これはオレ一人でやり遂げる意味があったから。
この家の人間である以上、このプロジェクトを、この新ブランドを実現させることが出来て、ようやくオレはこの家の人間である自信を持てると思った。
オレの力で、それぞれの会社を救えたことで、ようやくオレの存在意義が見いだせた気がしたから。
「でも、私はどんな樹だとしても傍で支えてあげたかった。力になりたかった」
「透子はそういうと思った。ホントはそんな透子に甘えたかったのも本音。出来ることならずっとそのまま一緒にいたかったし、一緒に頑張りたかった」
「うん。それでよかったのに」
「でもさ。多分これはオレのプライドなんだよね。親父に対しても母親に対しても。オレの誠意を見せて証明したかったし、本気で両方の会社の力にもなりたいってこと伝えたかった」
「そっか。樹らしいね」
やっぱり透子は思ってた通りの言葉を返す。
だけど、こうやってオレの想いもちゃんとわかってくれる。
「現に透子といるとオレが仕事に集中出来ないからさ。いつでも透子に会いたくなっちゃうし」
「樹・・・」
ホントはいつでもどこでも透子を求めてしまうから。
だから今は離れてよかったって思ってる。
透子はきっと変わらずいてくれると心の奧では信じていたから。
「オレにとっての一番は本当は透子だから。透子がいるからここまで頑張れたし、透子とこの先いれる為にその選択を決心した」
透子がいたから今のオレはいる。
「そこまで考えてくれてたんだ・・」
「当然。でも目の前のこと片付けないとさ、透子といられることさえ出来なくなるかもしれなかったし、それだけは避けたかったから」
麻弥との結婚の話も出たことで随分状況が変わってしまったから。
結果的にオレはこの選択をするしかなかった。
「でも・・・その間離れる不安はなかったの?」
「もちろんあったよ。その間に透子の気持ちが離れて、その先が無くなるかもしれなかったから、しばらく悩んだ」
「悩んでくれたんだね」
「そりゃもちろん。でも信じてたから、透子のこと。そしてオレ達の想いを」
透子と離れる選択を自分でするなんて、その時はホントに辛くて死にそうだったけど。
でも、あの時はきっとこうしてよかったんだと、その選択をしたから今のこの幸せを手に出来たんだと、そう思うから。