テラーノベル
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ある日。
目黒が阿部に聞いた。
「あべちゃん」
「ん?」
「村の様子」
「見たい?」
阿部は息を止めた。
村。
ずっと気になっていた。
帰りたいわけじゃない。
でも、どうなっているのか。
知らないままでもいられなかった。
「……見れるの?」
「うん」
目黒は当たり前のように答える。
「ただ」
「身体ごとじゃないよ」
「意識だけ飛ばす」
阿部は少し迷った。
怖い。
知りたくないものを見るかもしれない。
それでも。
「見たい」
目黒が小さく頷く。
「じゃあ来て」
畳の部屋。
二人で向かい合って座る。
目黒が両手を差し出した。
「あべちゃん」
「手、繋いで」
「……うん」
阿部は少しためらいながら、その手を取る。
不思議と安心する手だった。
「目、閉じて」
「分かった」
目を閉じる。
目黒の手から、じんわり熱が伝わってきた。
風。
遠くの音。
身体がふわりと軽くなる。
次に目を開けた時。
そこには見慣れた村があった。
いや。
見慣れていたはずの村だった。
畑は荒れ。
道は泥にまみれ。
家々は薄汚れ、人々の顔も険しい。
阿部はすぐに自分の家を探した。
藁を編み、一人で暮らしていた小さな家。
「あ……」
声が漏れる。
家はなかった。
残っていたのは焼け跡だけ。
柱も屋根もない。
黒く焦げた跡だけが残っていた。
「俺の、家……」
勝手に涙が零れる。
大した家じゃなかった。
寒くて。
狭くて。
一人きりで。
それでも。
阿部が生きてきた。
唯一の帰る場所だった。
「燃やしたんだ……」
震える声で呟く。
「もう帰ってこないって」
「分かってたから……」
悲しいのか。
悔しいのか。
自分でも分からなかった。
その時。
山の方から多くの足音が聞こえた。
阿部が顔を上げる。
自分が生贄にされた山。
そこに。
また祭壇が作られていた。
縄。
供物。
火。
そして。
俯いて座らされている小さな影。
阿部の顔が強張る。
「……また」
次の。
生贄。
村人たちは必死な顔をしていた。
飢えや不作に追い詰められているのかもしれない。
それでも。
許せなかった。
あの時。
優しくしてくれた人もいた。
食べ物を分けてくれた人もいた。
それなのに自分を差し出した。
そして今。
また同じことをしようとしている。
「……ひどい」
涙が落ちる。
「ひどすぎる」
ずっと神様が怖かった。
力があり。
気まぐれで。
何をするか分からない存在。
でも今は。
人間の方が恐ろしいのかもしれないと思った。
優しい顔をしながら。
いざとなれば誰か一人を差し出して。
自分たちだけ助かろうとする。
隣の目黒を見る。
目黒は村人たちを見ていた。
その顔は。
今まで見たことがないほど冷たい。
静かな怒り。
ぞくりとした。
でも。
その怒りは阿部へ向いていない。
そう分かった。
目黒が低い声で聞く。
「この村」
「壊していい?」
あまりにも静かな声だった。
阿部は村を見る。
祭壇。
差し出されようとしている命。
焼けた自分の家。
あの日、自分を縛った人たち。
守りたかった。
救いたかった。
でも今ここにあるのは。
誰かを犠牲にして成り立とうとする場所だった。
阿部は目黒の手をぎゅっと握る。
そして。
震える声で言った。
「……いいよ」
その瞬間。
目黒の気配が変わる。
空が暗くなる。
風が吹く。
雪が舞い。
次の瞬間には吹雪になった。
白。
すべてを覆い隠す雪。
山も。
祭壇も。
村も。
飲み込まれていく。
村人たちが叫び、逃げ惑う。
阿部はその光景を見ていた。
泣きながら。
何も言わず。
自分が許した。
止めなかった。
止めたくなかった。
やがて吹雪が止む。
そこにはもう。
元の村の形はほとんど残っていなかった。
「帰ろう」
目黒が言う。
阿部は小さく頷いた。
ふわりと身体が軽くなる。
視界が揺れ。
次に目を開けた時。
二人は畳の部屋に戻っていた。
けれど。
戻った瞬間。
阿部の身体から力が抜ける。
「っ……」
「あべちゃん!」
目黒も同時によろめく。
そのまま二人とも畳へ倒れ込んだ。
息が苦しい。
身体が鉛のように重い。
「これ……」
阿部が途切れ途切れに言う。
「めちゃくちゃ……疲れる……」
「うん……」
珍しく目黒の声も弱い。
「力使いすぎた」
阿部は頬を畳につけたまま笑う。
「先に……言ってよ」
「ごめん」
「最近……ちゃんと謝るね」
「あべちゃんが嫌がるから」
その返事に、少し笑った。
でも涙はまだ止まらない。
目黒がゆっくり腕を伸ばし。
阿部の手に触れた。
「……あべちゃん」
「ん」
「後悔してる?」
阿部は目を閉じる。
焼けた家。
祭壇。
村人たち。
吹雪。
「……分かんない」
正直に答えた。
「でも」
「もう」
「村を救いたいとは思えなかった」
目黒は何も言わず。
ただ静かに阿部の手を握っていた。
畳の上。
二人とも動けないまま。
しばらく寄り添うように倒れていた。
阿部の涙が止まるまで。
目黒はずっと。
その手を離さなかった。
コメント
1件
読了したよ〜!!!😭💦 第5話、めっちゃ重たくて切なくて、でも美しいお話だった… 阿部ちゃんが自分の家の焼け跡を見て泣くシーン、胸が締め付けられたよ…「帰る場所」を失ったって現実を受け入れるしかなかったんだね。そしてまさか次の生贄が出てくるとは…村人の「自分たちさえ助かれば」って考え方が本当に恐ろしい。 目黒くんの「壊していい?」がめちゃくちゃ冷たくてゾクッとした…でも阿部ちゃんが「いいよ」って握り返すところ、二人の信頼関係が垣間見えてエモすぎた!!😭💕 最後に二人で畳に倒れて手を繋いでる描写、なんか切ないのに温かくて…「後悔してる?」って聞く目黒くん優しすぎじゃない??続きめっちゃ気になるよ〜!!!
kaede🍁
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七瀬⛄️
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