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#コメディ時々暗闇
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NGS_ヘビーなしっぽ
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#妖怪
百はな🍑
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秋のはじまりの夜だった。
空には、欠けることのない丸い月。
銀色の光が山々を照らし、昼とも夜ともつかない淡い明るさを森へ落としている。
だが、その美しい夜ほど影は濃くなる。
満月の夜。
濃くなった瘴気は魔物となり、森を彷徨う。
時には街へ現れ、人を襲うこともあった。
魔物に対抗できるのは、魔法を扱える者か、魔石を組み込んだ武器を持つ者だけ。
多くの人々は息を潜め、静かに夜をやり過ごす。
ラディスの街を囲む石壁の門前には、いつもより多くの魔石灯が揺れていた。
結界石が淡い光を放ち、街全体を包み込んでいる。
◇
ラディス北門。
「おいおい、また行くのか、バアさん」
槍を持った門番の男が呆れたように声を掛けた。
老婆は深い皺だらけの顔をしかめる。
「“また”とはなんだい。“月白草”は満月の夜しか咲かない。今日を逃したらひと月待ちだからねぇ」
「だからってわざわざなぁ……」
もう一人の門番も苦笑する。
普段は一人で十分な門番も、この夜だけは二人体制だ。
門の外には黒々とした森が広がり、月光の届かぬ奥には何が潜んでいるかわからない。
老婆はふん、と鼻を鳴らした。
腰には薬袋。
首には古びた結界石。
腕輪や耳飾り、小瓶の付いた革紐。
身につけた魔道具が歩くたび小さく触れ合い、ちり、と音を立てる。
さらに背には短い杖まで背負っていた。
「心配せずとも、小型の魔物くらいなら追い払えるわ」
「さすがは“ラディスの魔女”といったところだが……その歳で無茶すんなって言ってるんだよ」
「あんた達よりは長く生きてるからねぇ。森の歩き方くらい心得てるさ」
そう言って笑う老婆に、門番たちは顔を見合わせた。
昔から変わらないやり取りだった。
この老婆は薬師として街で有名で、無茶をするのもいつものこと。
止めても聞かないことを、彼らはよく知っている。
それでも年老いた背中を夜の森へ送り出すのは落ち着かなかった。
「……せめて外周だけにしとけよ」
「危なくなったら音でも光でも合図しろ」
老婆は片手をひらひら振る。
「はいはい。心配は無用だよ」
そうして銀色の森へ足を踏み入れた。
ーーー
夜風は冷たい。
赤く染まり始めた木々の葉が揺れ、さらさらと擦れ合う音が響く。
満月の光を浴びた森は幻想的である一方、どこか不気味だった。
遠くで獣の唸り声がする。
だが老婆は慣れた足取りで進んでいく。
「月白草、月白草……前はこのあたりに咲いとったかねぇ……」
呟きながら月光の差し込む場所を探す。
その時だった。
――ふぇ……。
老婆は足を止めた。
風ではない。
今のは。
――ふぇぇ……っ。
「……赤子?」
こんな夜に。
こんな森の奥で。
あり得ぬ、と眉をひそめながらも、老婆は声のする方へ歩き出す。
月光に照らされた細道を抜け、絡み合う木々の間を進む。
やがて小さく開けた場所へ辿り着いた。
そこだけ、不思議なほど静かだった。
風もない。
獣の気配もない。
まるで世界から切り離されたような空間。
大木の根元に、赤子がいた。
柔らかな布に包まれ、落ち葉の上に静かに横たわっている。
その小さな胸元には、月の紋章が刻まれた御守りが添えられていた。
「これは……」
老婆の目が見開かれる。
見覚えのある紋章だった。
遠い昔、若い頃に読んだ古い書物。
禁じられた歴史の記録。
そこに描かれていた紋章によく似ていた。
そして。
月明かりを浴びた赤子の姿を見た瞬間、老婆は息を呑む。
黒い髪。
まるで夜そのものを編み込んだような色。
赤子がゆっくりと目を開く。
その瞳もまた、深い闇を閉じ込めたような黒だった。
「なんと……」
黒髪黒眼。
古くから不吉の象徴とされる色。
災いを呼ぶ者。
闇に愛された子。
地方によって伝承は異なるが、誰もが一度は耳にしたことのある忌まわしい言い伝えだった。
もちろん迷信に過ぎない。
実際に黒髪黒眼の人間など見たことがない。
少なくとも老婆は、この歳になるまで一人として出会ったことはなかった。
だが――。
その姿を見た瞬間。
遠い昔に読んだ記録が脳裏をよぎる。
満月の夜。
闇を抱いて生まれた子。
月の運命を背負う者。
老婆は無意識に息を呑んだ。
「まさか……ねぇ」
赤子は小さく泣きながら、ぎゅっと布を握る。
その頬は冷えていた。
「こんな小さな子を、置いていくなんて……」
老婆は震える手で赤子を抱き上げる。
するとその瞬間。
赤子は泣き止み、安心したように老婆の胸元へ頬を寄せた。
その小さな温もりを抱きしめながら、老婆はぽつりと呟く。
「お前は……何者なんだい」
満月が静かに輝いている。
銀色の夜の中で。
この夜の出会いが、
やがて多くの人々の運命を結び、
そして世界そのものの行く末を変えることになるなど。
まだ誰も知らなかった。
後にジントと呼ばれるその赤子は、
老婆の腕の中で静かに目を閉じた。
コメント
1件
第2話、読み終えました…🌙 満月の夜の森、魔道具いっぱい身につけた気の強いおばあちゃん、すごく好きな雰囲気でした。門番との軽い掛け合いもいいし、それでいて森の静けさとか不気味さもちゃんとあって。 黒髪黒眼の赤子が出てきた瞬間、ゾワッときました。不吉の象徴っていう設定、重くてダークな予感がして…続きすごく気になります。 おばあちゃんが抱き上げたとき泣き止んで寄り添うシーン、ちょっと切なくて胸がぎゅっとなりました。この赤ちゃん、ジントっていうんですね…どんな運命を背負うんだろう。 comiさんの世界観、丁寧で好きです。次話も静かに読みにきますね🖤