TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「さと、る……好き…大好きだ」


耳元で囁かれる低い声と甘い囁きのせいで、ぞくぞくっとしたものを身体に感じてしまい――


「やっ、やめっ…それ、めっ……」


首を横に激しく振って抵抗を試みたけど、耳たぶをがぶっと食まれてしまい、見事動きを封じられてしまった。しかも舌を使ってレロレロするせいで、余計に感じてしまう。


「ぅあっ! あぁっ……はぁはぁ、ちょっ、も…うっ」


頭を仰け反らせたら今度は頬にキス、瞼にキス、額にキス。大倉さんの唇が肌に触れるたびに、変な声が出てしまい、羞恥心とかいろんなものが煽られていった。


しかもそれだけじゃなく、キスされたところがぽっと熱を持つんだ。まるで熱いものを押し当てられたみたいな感じ。あちこちにキスするもんだから勝手に体温が上がって、息がどんどん苦しくなる。


大倉さんの想いが跳ね火になり、俺の躰に熱を与えるべく、どんどん燃やしながら焦がしていく。


この間まで素っ気なかった、ちょっとだけ気になる人が、これでもかと求める姿にどうすればいいんだ?


「んっ……ぉ、おい…や、めろって……どこまでっ…責める気な、んだよ」

「しょうがないじゃないか。パジャマの上からでも分かるくらい、胸の突起物が弄ってくださいと主張しているものだから」

「し、してねぇし! 勝手に弄るんじゃねぇって。人よりも敏感なんだから変なコトされると、くすぐったくて堪らなくなるんだ」

「敏感なのは、お店で襲ったときに分かっていたけどね。それで、好きって言う気になってくれた?」


キスの嵐は止んだけど、再び突きつけられた質問に、顔を歪ませるしかない。


「大倉さんがっ……そ、そんな顔してたら言えねぇって。無言の圧力があるんだよ、アンタの真剣な顔ってさ」

「そっか。じゃあどうすればいい? 俺としては切実な問題だったから、真面目な顔しかできなくてね」

「まぁ、分からなくはないけど。ほら、俺と最初に逢ったときに、笑顔で話しかけてきたろ。何ていうか、澄ました感じじゃなく、柔らかい感じで微笑んでた、あの顔が好きだなって」


滅多に見られないんだ、その笑顔。いつもは作ってる感じだから、なおさら。客商売してるせいで、それが当たり前になってるのかもな。


「大倉さん?」


せっかく俺が答えたというのに、固まったまま微動だにしない。動かないから、やけに気になった。一重まぶたがヒクヒク動いて、瞳が揺らめいていることに。


「おい、どうしたんだ、おおくっ!?」


名前を呼ぼうとした刹那、大倉さんは俺の胸元に顔を寄せて、ぎゅっと抱きついた。骨がミシミシいうくらいの強い力に、文句を言いたかったけど、時折震える両肩の動きから察したので、口をつぐんでやる。


(何で泣いてるんだよ――俺、変なこと言っちまったのか?)


「ごめ……笑えない、よ。嬉しすぎて、泣けてくるなんて……」

「ええっ!? な、泣けてくるって、なんでだよ」

「だって、俺の笑顔……好きって言ってくれたから」


鼻をズルズルさせながら顔を上げた大倉さんの顔は、今まで見たことがないくらい酷いものだった。


どう足掻いてもマネをすることのできない、大人の雰囲気をそこはかとなく漂わせ、余裕な顔で俺を翻弄していた姿がまったくなくて、どーすりゃいいんだよって感じ。


そんな酷い顔だというのに、無性にドキドキしてしまってる自分にも、すっげぇ困惑してしまって――


「大倉さんとにかくっ、躰に回してる腕を外してくれないか? 両腕ごと抱きしめられたんじゃ、何もできねぇし」

「うん……」


ちょっとだけ寂しげな表情を浮かべて、いそいそと外した大倉さんの躰を、慰めるように抱きしめてやり、背中を叩いてやった。


「もう泣くなって。どうしていいか、分からなくなる」

「分からないと言いながらも、俺のことをちゃんと慰めてくれて。優しいね、レインくん」

「だってよ、泣かせた原因を作ったのは俺なんだから、しょうがなくっていうか」

「しょうがないと思いながらも、心臓の音がやけに早くなってる。ドキドキしてる理由はなに?」


しまった――そういやこの人、さっきから俺の胸に顔を埋めたり、すりすりしていたから、バッチリ心臓の音を聞かれていたんだ。


「ぅ……。いろんなことが、その……対処できなくって、あ~……」


背中を叩いてる手が、意味なく早くなってしまい、、無駄に力が入ってしまった。


「そんな手荒な慰め方よりも、大人らしい慰め方がるんだけど?」

「それって……」

「君とひとつになりたい、笑顔になるよきっと」


その言葉に、背中を叩いていた手がぴたりと止まる。ひとつになるってつまり、俺が大倉さんに抱かれてしまうってことだろ?


「君をくれたら、大好きな笑顔をあげる。ちょうだい……さとる――」


甘やかに囁かれた言葉が、心の中に沁み込んでいくように、じわりと侵食していった。あの笑顔が、いつでも見られることができるのなら――


意を決して背中に回していた右手を、大倉さんの後頭部に移動させ、髪の毛をぎゅっと掴んでやる。


「……その言葉、忘れんじゃねぇぞ。約束だ」


そのまま自分から、大倉さんにキスをした。一瞬だけ躰をビクつかせたけど、すぐさま形勢を逆転させ、俺を散々翻弄しながらひとつになったあの日。


男とデキてしまった後悔よりも、この人の傍にずっといたいって思った。俺のことを想ってくれるあたたかな温もりと、大好きな笑顔を守るために。

loading

この作品はいかがでしたか?

0

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚