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如縣 遼太
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薄暗い森の奥、廃城から命からがら逃げ延びた上埜瑠偉、末田渉、緒方晴翔の3人は、生い茂る木々の下に倒れ込んでいた。玉座の間で瑠偉が告げた言葉は、予言だったかのように現実となっていた。どんよりと垂れ込めた灰色の空から、激しい本物の雨が降り注ぎ、3人の泥まみれの身体を冷たく叩いている。
「はぁ、はぁ、っ……くそ、クソッ……!!」
晴翔が地面に拳を叩きつけた。泥水が跳ね、彼の童顔の横顔を汚す。サッカーの右サイドバックとして、どんな猛攻も止めてみせると豪語していた。しかし、守るべき仲間は誰もいない。残されたのは、かつてないほどの無力感だけだった。
「なんで何も出来なかったんだよ……! あいつらを置いて、僕たちだけ逃げるなんて……!」
「……静かにしろ、晴翔」
隣で木に背中を預けていた渉が、掠れた声で遮った。そのメガネのレンズは雨水で完全に濡れ、視界を遮っている。しかし、渉はそれを拭おうともしなかった。ただ、カタカタと震える自身の膝を、痛いほどの力で凝視している。
「僕の……僕の計算が、甘かったんだ。敵の魔力特性に、精神干渉の可能性を組み込んでいれば、こんな……。僕が、みんなを……」
いつもなら「僕の計算に狂いはない」とツンと澄ましているはずの渉が、完全に自信を失い、己の頭脳を呪うように言葉を詰まらせる。
「……僕たちのせいじゃない、なんて気休めは言わないよ」
雨の音に混じり、瑠偉の静かな声が響いた。瑠偉は雨を避けることもせず、天を仰いで立ち尽くしていた。完璧なイケメンの顔を伝って落ちるのが、激しい雨水なのか、それとも先ほどから止まらない涙なのか、もう判別はつかない。
「僕が撤退を指示した。あの場における最適解がそれしかなかったのは事実だ。だけど……」
瑠偉はゆっくりと視線を下げ、濡れた前髪の隙間から、渉と晴翔をまっすぐに見つめた。その理知的な瞳の奥には、絶望の雨に打たれながらも、決して消えない冷徹な炎が宿っていた。
「ここで絶望して終わるなら、あの時全員で死んでいた方がマシだった。僕たちが生き残ったのには、意味があるはずだ」
瑠偉の言葉に、晴翔が弾かれたように顔を上げる。渉もまた、濡れたメガネの奥の目を大きく見開いた。
「渉。君の頭脳は、まだ死んでいないだろう。あの幹部の術の特性、そして解除の方法を、今この瞬間から計算し尽くすんだ」
「瑠偉……」
「晴翔。君の脚は、まだ動くだろう。次にみんなと対峙した時、誰一人傷つけずにその攻撃をシャットアウトする。そのための鉄壁のディフェンスラインを、もう一度僕たちで構築するんだ」
瑠偉は一歩、二人の前に歩み出た。雨の勢いはさらに増していく。
「僕は、自分のすべての知恵と速度を、仲間を奪還するためだけに捧げる。どんなに時間がかかっても、どれほど泥を啜ることになろうとも、第参期魔王討伐隊は、まだ壊れちゃいない」
瑠偉が差し出した右手に、晴翔が泥だらけの手を力強く重ねた。
「当たり前だし……! あいつらをあのままにしとくなんて、僕のプライドが許さない。絶対に、僕たちの場所に連れ戻す……!」
そして渉が、ゆっくりとメガネを外し、剥き出しのイケメンな素顔を見せながら、その手を重ね合わせた。
「……術の解除コードなら、僕が必ず弾き出してみせる。百パーセントの確率で、また全員でクッキーを食べるぞ」
3人の手が、雨の中で固く結ばれる。心に降り続く絶望の雨は、いつしか、彼らの決意を研ぎ澄ます誓いの雨へと変わっていた。
彼らはまだ知らない。洗脳されたはずの城の中で、大河蹴介と長田零が、完璧な「演技」の裏で静かに牙を研ぎ澄まし始めていることを。反撃の火種は、完全に消えたわけではなかった。
コメント
1件
うわあ、第8話、めちゃくちゃ熱かったですね……! 3人がそれぞれの無力感を認め合った上で、もう一度手を重ねるシーン、本当にぐっときました。特に渉がメガネ外す場面、あれは「計算に狂いはない」って言ってた頃の自信が戻ってきた証拠だなって。雨の描写が絶望から決意へと変わっていくのも、すごく丁寧で好きです。あと、ラストの大河と長田の伏線……やっぱり彼らはまだ終わってなかったんですね。次が楽しみすぎます!