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「――そういうわけで、僕も一緒について行っていいでしょうか?」
見習い騎士から直接依頼を受けてしまうとはおれも人が良すぎたな。行き先が海底神殿であるというのも丁度良かっただけに、ルティたちに紹介せざるを得なかった。
正直言って護衛自体厄介で面倒なのだが、あそこの魔物は大したことが無い。その意味もあって彼の護衛はルティに頼むことにした。
「ふむふむ、なるほど! わたしはアック様が決められたことであれば何も文句のつけようがありません。護衛はわたしにお任せ下さいっ!」
「よ、よろしくお願いします。えっと、ルティシアさん」
「お任せされました!」
責任を持たせればルティはやれば出来る娘だと認識している。なので、今回はルティに全て任せてみることにした。
「あの、アックさん。護衛をありがとうございます。ですが、やはりマントだけでは不安です。行く前に道具屋で盾か何かを買って来ようと思います」
見習い騎士で恐らく武器を持たせてもらえなかったのだろうが、何も無いのは確かに危険だ。
「それならおれが――」
「イスティさま、駄目なの」
「……ん? フィーサ?」
あまり口を挟まないフィーサが珍しく口を挟んできた。何か文句があるのだろうか。
「イスティさま、もしかしてガチャであの人間に何かを出そうとしているなの?」
「そのつもりだけどまずいかな?」
「まずいに決まってるなの! あの人間は一時的について来るだけなの! それも見せかけだけの騎士なの。そんな騎士相手に貴重な武器、盾を与えるのはとっても良くないことなの! イスティさまのガチャはわらわたちだけのものでいいなの!」
レベルが低く何かをしでかしそうにない見習い騎士だ。とはいえ、アイテム次第では変わる可能性も否めない。
気軽にガチャで出すのは危険と見るべきか?
それについつい忘れてしまいがちだったが、おれのガチャスキルはあまり人目にさらすものでは無かった。Sランクの連中がおれのスキルを利用しようとしていたのをすっかり忘れていた。
“特別”なものが備わっていると知られればまずいことになりかねない。これについてはルティにも言っておこう。
「ルティ、ちょっとこっちに……あれ? ルティはどこ行った?」
「小娘なら、張りきって道具屋に案内していたなの」
「早速護衛をしているのか」
ルティお手製の特製ドリンク各種をリエンスに配ったら大変なことになるからやめとけよ。などと言おうと思っていたが、護衛を始めたならいいか。
「ウゥゥ……ウニャ? ここはどこなのだ? シーニャ、眠っていたのだ?」
ルティとリエンスがいなくなってすぐのこと。シーニャが目を覚ましたらしく、思いきり体を伸ばしている。どうやら初めて乗った船に酔ったことで無意識に自己治癒をしていたらしい。
「シーニャ、大丈夫か?」
「ウニャ。アックがずっとそばにいたのだ。シーニャ、回復出来た!」
「ん? おれがそばにいただけで回復?」
「アック、シーニャのあるじ。万全なあるじのいいところ、シーニャ吸収する!」
「そうなのか……?」
(テイムの仕組みがよく分かっていないんだが)
元々おれから従わせたわけじゃないし、シーニャの覚醒は普通とは異なるかもしれない。
「アック様~! 戻りました~!!」
そうこうしているとルティの甲高い声が聞こえてくる。どうやら道具屋を案内してリエンスに色々買い与えていたようだ。
「僕は斧とか鎌とか使えないんですが、いいんですかね? こんなに買って頂いて……」
「それ……全部リエンスのか?」
「はいっっ! 武器をお持ちでないということでしたので、わたし、奮発しちゃいまして~」
「お金はどうしたんだ?」
「アック様のお金では無くてわたしのお小遣いからですので、心配無用ですっ!」
人の懐までは把握していないとはいえ、ルティは一体どれくらい所持しているのか。
「……ルティ」
「はいっ、アック様!」
積極的に買い与えたのを怒ろうとしたが、むしろ褒められる姿勢で待っている。
「あ、いや……何でも無い」
「はぇ?」
お小遣いをどこで稼いだのかは後で聞くとして、早いとこ出発しておくか。
「いや、ルティには後でたっぷり話をする」
「ほ、本当ですかっ!? た、楽しみにしていますっっ!」
ルティに悪気などあるはずもないので気にせずラクルを出た。
「グッ、ウゥゥ……あたしを乗っ取って何をされるつも――!!」
「決まっている。もうすぐここに来る荷物持ちのアックに攻撃をしてもらうだけ。裏切り者には容赦のない彼のこと、今まで仲間であろうとなかろうと徹底的に痛めつけてくれるでしょうね!」
「あの方はそう簡単では無いわ。人間ごときあなたにどうこう出来るはずがない……せいぜい痛い目に遭うことを待ち望んでいるといいですわ、エドラ・シー……」
「フフ、彼の遺志はわたくしが継いで見せる……荷物持ちアックを、必ず――」
ラクルからほど近いところにある海底洞門の行き方は以前と変わらない。まずは、崖の断層から入り口となっている隙間を目指すことにした。
「そういえば今回は人化したままなんだな」
「わらわだってたまにはそうしたいなの。それに、この先から嫌な力を感じるなの……」
「うん?」
「イスティさまといえども、気を付けるなの!」
「そうだな、そうするよ」
フィーサは長いこと生きていると言えば怒りそうだが、良くない気配を感じることが出来るらしい。剣に戻らずおれから離れないのもその為だ。道を知るおれが先頭に立ち、その後ろをシーニャ、張り切るルティと続く。
きっとそこにスキュラがいるはずだ。異変の彼女に何かが起きているとすれば、この先何かが起きても不思議じゃない。
「アック、水が襲ってくるのだ!! どうすればいいのだ?」
「シーニャもおれから離れないようにな」
「フニャ」