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いや違う。これはギターの形をしているオブジェじゃない。
中が鋭いナイフのような刃物になっている。どのくらいの長さかは自分の体内に収まっているから見当がつかない。
私の脇腹付近から突き出た変形ギターの先――ナイフで言うと柄の部分になるのかな――を、光貴がしっかり握りしめていた。
彼を見ると大きな目から涙をいっぱいに零して、苦痛に顔を歪めていた。
「律は僕のこと…全然知らんやん。僕がどれだけ君を好きかってこと。律がずっと白斗を追いかけてたように、僕も律のこと……十六年も前から好きやった」
十六年?
律が好きやからつきあってくれとは言われたけれど、十六年も前から私が好きだったなんて、そんな話は知らないよ…。
光貴、どうして。
十六年って言ったら、私が白斗に一目惚れして、光貴のお店でCDや雑誌買っていた時から?
私も光貴もまだ学生で、実家のCDショップの店員をしていた頃から、私を好きだったの?
私が好きだから、私のためにRBのCDを発売日より早く入荷して、私を喜ばせてくれていたの?
白斗にファンレター書くために使う便せんを、私のためにずっと仕入れてくれていたの?
だから今朝、裏切り者の私をあんな風に大事に愛してくれたの?
そんなに前から光貴が私を想ってくれていたなんて、知らなかった。
ずっと大事にしてくれていたのなら、言ってくれなきゃわからないよ。
どうして今になって、そんなこと言うの――
「僕、学生の時に君に一目ぼれして、十六年前からずっと君のことが好きだった。昔から『律』って君の名前呼ぶだけで…心臓が破裂しそうなほど、動悸がおかしくなってさ。君のことが好きで、好きで、好きで、どうしようもないくらい好きで、言葉にしたら息もできなくなるほど苦しくなって…だからずっと、自分の気持ちが言えなかった」
光貴の目からあふれた涙が、私の頬を濡らした。
「僕の方が新藤さんの何倍も何十倍も何百倍も、君が好きなのに。一生君だけを幸せにするつもりやったのに…」
私は声を出せなくて、光貴の告白をただ聞いていた。
「あの男にだけは…白斗にだけは、君を渡したくない。RBも解散してもう大丈夫やって安心してたのに、まだあの男は律の心を奪って、僕から取り上げてしまう…」
苦痛に歪んだ光貴の顔。私も生理的にあふれた涙で彼の顔が滲んだ。
「こうなったら、詩音もいる天国で三人で暮らそう…。誰にも邪魔はさせない。僕もすぐ後を追うから…」
光貴がさらに私に体重をかけてきた。
尋常じゃない痛みが全身を貫き、膝から崩れ落ちそうになった。じわじわと紅色が脇腹から滲み出てくる。
ああ、光貴に刺されたんだー―それを悟った瞬間、私は渾身の力で光貴を突き飛ばした。隙を突かれた光貴はよろめいて私から離れ、階段付近の壁に派手にぶつかった。衝撃で頭を強く打ってしまったのか、彼はその場に蹲った。
光貴を殺人犯にするわけにはいかない。
私が勝手に裏切って、大事な光貴を傷つけてしまった。罰は私にだけって、神様にお願いしたのに。
十六年も前からずっと私だけを大事に想ってくれていた光貴を裏切ってしまった罪は、とてつもなく重い。
光貴を置いて行くなんて非道の選択をしたから、ここまで彼を追い詰めてしまった。