【彼女が他の男の話をしたら】
夕飯の席。
「この前、会社の同僚がね――」
そう切り出した瞬間、亮くんの箸がぴたりと止まった。
「…男?」
低い声に、私は思わず背筋を伸ばす。
「う、うん…まぁ」
「ふーん」
わざとらしく味噌汁をすすりながら、視線は落ちたまま。
「なんか楽しそうだったな、その話」
「いや、そんなつもりじゃ…」
慌てて否定するけれど、彼は箸を置き、テーブル越しにじっと私を見つめる。
「俺以外の男の話を、そんなに笑顔でできるんだ」
その目は、少し拗ねたようで、でも底に強い独占欲が潜んでいた。
「亮くん…嫉妬してる?」
半分からかいで聞くと、間髪入れずに返ってくる。
「してる。めちゃくちゃ」
次の瞬間、彼の手が私の手を引き寄せ、椅子ごと近づけられる。
「…その同僚のこと、もうあんまり話さないで」
「でも、仕事の話だから…」
「じゃあ俺のことも同じくらい話せ」
言い終わるや否や、彼の指が私のあごを持ち上げる。
そのまま、少し乱暴なくらいの勢いで唇が重なった。
熱を帯びた口づけは、浅く終わらない。
強く吸い寄せられ、息が追いつかないほど。
彼の手が背中をしっかりと引き寄せ、もう逃げられない距離まで近づける。
やっと唇が離れた時、彼は小さく息を整えながら、低く囁く。
「…これで、他の男のこと、考えられなくなっただろ」
顔が熱いのは嫉妬のせいか、キスのせいか――もう分からなかった。
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