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幹部会を無事に済ませたシャーリィは、不在の間の備えを改めて厳重な警備体制の確立をマクベスと協議した。
「『黄昏』拡大に合わせ、人員の大幅な増加を果たすことが出来ました。現時点で人数は五百名を越えます。その内三百名が訓練の最中ではありますが、訓練終了の目処は立っております」
「速成では、練度に心配が残ります。訓練はじっくりと行ってください」
「承知しました。戦車についてですが、お嬢様は最終的にどの規模編成をなされるおつもりで?」
「『帝国の未来』の記述に合わせるなら、一個中隊十二両を編成したいと思います。現在の資金では、まだまだ揃えることは出来ませんが」
「それを聞けて安心しました。ならばそれ専用の人員を確保しておきましょう。ですが、早急にせめて一個小隊三両は用意していただきたいですな」
「『ライデン社』に相談してみましょう。あと二両追加で発注する余裕はありますからね」
「ありがとうございます」
「それと、機関銃のほうは?」
「改良型をドワーフチームから受け取りました。試射を繰り返し、調整しております」
「前回の失敗を繰り返さないよう、念入りにお願いします」
「承知しております」
警備についてマクベスと語らったシャーリィは、館にてエレノアとの簡単な打ち合わせを行う。
「先ずは石油を満載にして、帝都に向かう。そこで積み荷を降ろして代わりに水と食料を積み込んで南方へ向かう。それが航海の予定さ」
「目的地は何処ですか?」
「南方大陸の近くにある島だよ。名前は『ファイル島』、別名『海賊の島』何て呼ばれてる場所さ。海賊ばっかりだから、表に出せないような取引をやるには良い場所でね。アルカディア帝国もその恩恵を受けてるから見逃してるって話だ」
「海賊の島ですか。ロマンを感じますね」
「荒っぽくてむさ苦しい奴等ばかりだからね、シャーリィちゃんには似合わない場所だよ。その島の商人と取引してるんだが、もう少しデカい取引をしたいなら、ボスを連れてきてくれって言われてねぇ」
「私が行けば、あちらもボスを出してくると」
「ああ。罠は心配しなくて良い。儲けが出る取引相手をわざわざ怒らせるようなバカは、あの島で長生きできない。海賊は仁義の商売だからね」
「信用を得るためにこちらも誠意を示す。その手段が私ですね?」
「誤魔化すのも考えたけど、やっぱり海のルールを守らなきゃ後々面倒になると思ってね」
「構いません。重要な取引相手ならば、私が挨拶に赴くのが筋です。あちらは間違いなく危ない橋を渡っていますからね」
「理解してくれて嬉しいよ。まあ、出港まで日にちはある。今のうちに後腐れがないようにしときなよ」
「もちろんです。それで質問なのですが、その『ファイル島』以外の場所にも行けるでしょうか?」
「ん?ああ、例の探し物が無かった場合かい?聞いてみなきゃ分からないけど、『飛空石』を取り扱っているかどうかは分からないね。特性から考えたら、取引の道具になるとは思えないけどねぇ」
『飛空石』は定期的に魔力を込める必要があり、それ故に魔石を豊富に保有している富裕層や政府機関しか取り扱っていない。
「はい、その可能性を考えての質問です」
「んー……現地についてみなきゃね。それで良いかな?」
「構いません。必要なら自力で取りに行くつもりですから」
エレノアとの簡単な打ち合わせを済ませたシャーリィは、訓練所を訪ねた。
「よう、シャーリィ。どうした?」
そこには鍛練で汗を流すルイスがいた。
「ちょっと様子を見に来ました。南方ではルイの槍が活躍しそうですから」
「おう、任せとけ。けど、出番がないことを願ってるよ。流石に外国でトラブルは御免だからな」
「そう願いたいですが、この世界は意地悪なので備えを怠るわけにはいきません」
それはこれまで発生したトラブルの数々が物語っている。
「だよなぁ。方針は変わらねぇよな?」
「当たり前です。その時はアルカディア人だろうと敵として容赦なく対応するつもりです。ルイも躊躇しないように」
「迷わねぇさ、シャーリィが殺れって言うなら殺る。殺るなって言うなら殺らねぇ。難しいこと考えるのは苦手なんだ」
「問題ありません。存分に戦う理由を用意してあげますので、遠慮なく殲滅してください」
その日の夜、シャーリィが寝たのを確認した幹部の一部は館の会議室で密会を開いていた。
広い会議室の一角に蝋燭が灯され、淡い光が幹部達を照らす。
「それで、留守の間なんだが……教会地下室にあるお嬢のおもちゃについてだ」
密会を召集したベルモンドが、その議題を提示する。
「アレですか。最低でも二ヶ月、死なないように面倒を見る必要がありますね」
それにカテリナが苦々しく答える。
教会地下にはこれまでシャーリィに敵対してきた者が数人囚われており、シャーリィによる凄惨な拷問を受けながら生かされている。
「その件なんだが、これから更に『暁』はデカくなる。ボスがあんな猟奇的な趣味を持ってるなんて知られたら、必ず反発する奴が出てくると思うんだ。いや、むしろ許容してる俺達が異常なんだ。今後を考えて、止めさせた方がいい」
ベルモンドはシャーリィの猟奇的な趣味が広まることによって組織に亀裂が入ることを避けるため、止めさせることを提案する。
「しかしながら、あれはお嬢様にとってある種の心の支えにございます。それを取り上げてしまうと、どの様になるか想像がつきません」
セレスティンが反対意見を出す。
「旦那の心配も分かるが、それには当てがある。お嬢にはルイの奴が居るし、何より今は妹さんが居るんだ。あの趣味がなくても、充分に支えてやれる環境はある」
「確かに、レイミお嬢様との再会はシャーリィお嬢様にとって大きな支えとなりましたが……」
「『暁』の今後のためだ。それに、あの趣味を続けるのはお嬢の将来から見ても悪手だ。今ならまだ間に合う」
「シャーリィの今後ですか」
「ああ、身内贔屓かも知れねぇが、お嬢は裏社会で燻るような器じゃねぇ。表の世界でも充分に活躍できるはずだ。こんな掃き溜めから出してやるためにもな」
場に沈黙が訪れる。どれほどの時間が経過したのかは分からない。だが永遠とも思われた沈黙を破ったのは、カテリナであった。
「……ベルモンドがシャーリィのことを良く考えてくれているのは理解しました。それで、誰がやりますか?」
「言い出しっぺがやるもんさ。俺がやる。幸い捕まえてるのは『エルダス・ファミリー』の奴等だ。個人的な恨みを我慢できなかったと言えば、お嬢も納得するはずだ。そして今後は敵対した奴を必ず殺して、捕まえないようにする」
「それでは足りません。私が言い聞かせましょう」
「僭越ながら、私もお嬢様をお諌めいたします。ベルモンドどの一人の責任とはさせませぬ」
「良いのかよ?最悪お嬢に嫌われるぜ?」
「諫言の意味も正しく理解できないようなら、あの娘はそこまでの器だったと諦めるだけです」
「分かった。お嬢達が出港する三日前に殺る。手順を考えよう」
「ええ」
「承知」
シャーリィの今後を憂う三人による密談は、夜が更けるまで行われた。