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ホワイトデーが終わって、
しばらくしてからまたあの部屋に行ってみた。
何だか過去の自分を褒めたくなって。
あの時の僕のあの案凄いと思ったから。
ただの自意識過剰だろうか?
「ぇ…?」
部屋に入り、思わず驚きの声を漏らしてしまう。
何故か。
そう。
何故か偽物の桜の木から桜の花弁が舞っては消えてを繰り返していた。
「僕、こんな飾り付けしてな────」
いや、待って?
確かあのホワイトデーの日。
僕が桜あんぱんやらを持ってきて帰ってきた時のこと。
不思議なことを見たんだっけ?
「魔法みたいな…」
有り得ないと思いながらも、
そんなことを零す。
でも確かに魔法だと言えば魔法にしか見えないもの。
ていうかそもそも『無いものを “ 有る ” 状態にしてまた “ 無い ” 状態にする』っていうのは魔法にしか出来ないこと。
やっぱり畑葉さんは普通の人間じゃない…?
「人間じゃないってそんなことあるわけ…」
少しの笑みを漏らしながらそんなことを呟くも、少し疑ってしまう自分が何だか嫌な気分だ。
今日は畑葉さんの誕生日の日。
今日のためにバイトを頑張ってコツコツとお金を貯めてきた。
いつも桜餅を頬張る畑葉さんが見たくて沢山作って食べさせてた。
けど、それじゃあ疲れる。
いや、どっちにしろ疲れるのは変わらないんだけど…
誕生日の今日は沢山作るんじゃなくて1つだけ作る。
もちろん小さいものを1つではなく、
とてつもなく大きなものを1つ作ることにしようと思う。
「うーん…これじゃあ小さいかなぁ…」
そんな呟きを零すが、僕から見たら充分大きい。
けど、畑葉さんから見たらどうだろうか?
『こんなのちっとも大きくないよ~!!』なんて言うだろうか。
そう思いながらどんどん大きくしていく。
いつの間にか大食いテレビ番組くらいの大きさを遥かに超えた桜餅が出来上がっていた。
なんなら恐怖を感じる程だ。
「あ…お皿どうしよう…」
そして当然だが、また問題が発生する。
というか大きすぎて台所から動かせそうに無い。
台所に潜む一種の擬態生物のようにモチモチと反撃をしてくるばかり。
「ゲームとかで出てくるスライムモンスターみたい…」
そう声を零しながら少し突く。
が、途中で畑葉さんへのプレゼントだということを思い出し、すぐさま辞める。
「畑葉さん…桜餅さ、ちょっと大きいの作りすぎちゃって…」
そう気まずそうにいつもの場所で待ち合わせをしていた畑葉さんに話を切り出す。
「別に大きくても食べ切れるよ?」
「早く食べたい…!頂戴…!!」
「あの…大きすぎて運べなくて…また今日も家に来て貰ってもいい…?」
「どんだけ大きいの作ったの?!まぁ…いいよ、」
そう言って僕より先に僕の家へと向かう。
遠くからは『お腹空いたから早く~!!」なんて声が聞こえた気がした。
家に着くともう既に畑葉さんは台所にある桜餅モンスターの前に立っていた。
僕の予想ではてっきりもう食しているのかと思ったんだけど…
「古佐くん、これ桜の部屋で食べよ…?」
「え?でもそれ結構重たいよ?ていうか運べないし…」
「運べる運べる!!大丈夫!」
「あ、でも古佐くん!!ちょっとお願いがあって…」
「なに?」
「お金渡すからさ、コンビニとかスーパーとかどこでもいいから桜のジュース買ってきて貰ってもいい?」
「最近発売されたっぽくて飲んでみたいって思ってたんだよね~…!!」
急なパシリ…
まぁ、いいけど…
「まぁ…分かった、」
そう言い、僕は畑葉さんからお金を貰い…
と思ったが、心の中の僕に止められる。
『今日は畑葉さんの誕生日だぞ?』
『何自分で払わないで畑葉さんのお金でちゃんと払おうとしてんだよ』
『情けない男だな』そんな悪魔的言葉が僕の心で飛び交う。
「古佐くん?どうかした?」
畑葉さんが僕に渡してきたお金を僕が寸前で貰わないで硬直していると、そんなことを聞かれてしまう。
「あー…いや、お金いいよ!!」
「今日は畑葉さんの誕生日だし!!僕のお金で買ってくるよ!」
そう言い、小走りで家を出る。
「畑葉さん桜のジュース、最後の1つだったよ~…」
「って…あれ?」
頼まれた桜のジュースを買って家に帰ると台所には畑葉さんの姿が無かった。
しかも桜餅モンスターの姿も共に。
食べた…?
いや、まさか…
疑いを抱えながらも桜の部屋へ向かう。
「あ!古佐くん!!待ってたよ!」
桜の部屋には信じ難い光景があった。
畑葉さんが居ることはいいとして、
桜餅モンスターが桜の部屋に置いてあったのだ。
1つの家具のように。
今にも座ってゆったりできそうな人をダメにするクッションのように。
「え…桜餅、ここまで運んできたの?」
嘘だと確信して聞く。
だけど目の前には桜餅モンスターが居る。
でもそれでも僕には信じ難いことだったのだ。
「うん!!運んだよ!」
満面の笑みで答える畑葉さんを見て、
僕は何も言えなかった。
「もう桜餅食べていい?」
ていうかちょっと食べちゃったんだけど…」
そう言って畑葉さんはくるりと桜餅モンスターを回す。
と、断面図が見えるくらいもう既に半分ほど消えていた。
「は…」
息を漏らすことしか出来ない。
僕が桜のジュースを買いに行っているあの数分でここまで食べ進めたということだろうか?
きっと真のモンスターは桜餅じゃなくて畑葉さんだったのだろう。
「ふ~…お腹いっぱい…!」
「桜のジュースもご馳走様…!」
本当に全部食べるなんて思わなかった…
しかもお腹は全く膨らんでさえいない。
言うならば桜餅モンスターそのものを魔法か何かで消してしまったかのように。
「今日、楽しかった!!」
「ありがと古佐くん!!」
「喜んでくれたなら何よりだよ…」
未だに畑葉さんが桜餅モンスターを食べきったことを信じれなかった僕はそんな声を返しながらも呆然とする。
そんな中、畑葉さんは変わらず『美味しかったなぁ…』『モチモチ…もうちょっと食べたかったなぁ…』と少しばかり涎を垂らしていた。
もし世界に畑葉さんのような人がいっぱい居たらどうなっていたんだろうか。
いや、即壊滅だろうな…
ふと、そんな馬鹿なことを考える。
と同時にキュン死もするかな…
とまで考える。
でも多分1番最初にキュン死するのは僕に違いない。
そうも考える。