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瑛斗が村の人々から聞いた話によると、他の龍使いたちは咲莉那が討伐された山を訪れているらしいという。咲莉那はその話を聞いた瞬間、胸の奥がざわつくのを感じた。「あの山か…。」彼女の瞳には、一瞬だけ過去の記憶がよぎるような光が宿った。
火楽は真剣な表情で咲莉那を見つめ、「主様、行かれますか?」と静かに尋ねた。咲莉那は少し迷ったように視線を落としたが、やがて決意のこもった声で答えた。「行くよ。他の龍使いたちにも会いたいし…何より、自分自身と向き合うために。」
瑛斗はその言葉に力強く頷き、「なら俺たちも一緒に行こう。あの山で何が起こっているのか確かめる必要がある。」と提案した。こうして、三人は討伐された山を目指して旅立つことを決意した。
三人はその山へ向かう道を進みながら、不安と期待に胸を膨らませていた。山の麓にたどり着くと、空気がひんやりと冷たくなり、木々の葉がざわめく音が耳を覆った。「ここに来るのは…何年ぶりだろうね。」咲莉那は呟き、その瞳には懐かしさとわずかな悲しみが宿っていた。
瑛斗は足を止め、じっと山を見上げながら口を開いた。「どうして、他の龍使いたちはこの山に来てるんでしょう?」その言葉に、火楽が険しい表情で答えた。「たぶん、主様の墓参りじゃないか?あのあと白華楼が、主様を鎮魂を祈るために墓を作ったらしいから、きっとそれで墓参りに。」
咲莉那は静かに頷きながら、足を一歩踏み出した。「…そうだったんだね。私が討伐された場所に墓があるなんて、不思議な気分だよ。」その言葉に瑛斗と火楽は無言で頷き、咲莉那の後に続いた。
山道を進むにつれ、霧が立ち込め、空気がさらに冷たくなっていった。どこか遠くで風が木々を揺らす音が響き、鳥の声さえも聞こえなくなった。三人の心には静かな緊張感が生まれ、足取りは慎重になっていった。
霧がさらに濃くなり、足元さえも見えづらくなっていた。「気をつけて…」咲莉那が静かに声をかけながら進む中、遠くから微かに声が聞こえた。それは人の声のようでありながら、風に流される囁きのようにも聞こえた。
瑛斗が立ち止まり、「聞こえましたか?誰かいるのかもしれません。」と言いながら、周囲を見渡した。火楽は警戒を強めながら、「ここは危険な場所です。他の龍使いだといいのですが…。」と低く呟いた。
三人が霧の中を慎重に進むと、ついに人影が見えた。
三人は急いで木の影に隠れ、様子を伺った。周囲は静まり返り、木のざわめきが風に紛れて聞こえるだけだった。咲莉那が木の影から覗くと、ぼんやりと墓が見えた。その墓石には「咲莉那」とはっきりと刻まれている文字が浮かび上がる。「間違いない…これは私の墓。」咲莉那が小さく呟くと、火楽はその墓を見つめながら険しい顔をしていた。
瑛斗も木の影から慎重に覗き込み、低い声で数を数え始めた。「一、二…どうやら、六人居るみたいですね。」咲莉那は目を細めながら観察を続け、彼らの動きを見定めた。「たぶん勢揃いだな。…見つかったらマズイかも。」彼女は声をひそめながら二人に合図を送る。
火楽は墓の周囲を見渡し、「何か計画を立てているように見えますね。主様、ここからどう動くか決めましょう。」と緊張感を含んだ声で言った。瑛斗は慎重な表情で周囲の地形を確認しながら、「もしも見つかったら、すぐに退避できるよう準備しておきます。」と提案した。
三人は木の影に隠れたまま息を潜めていたが、咲莉那の足が枯れ枝を踏んで「パキッ」と音が響いた。その音は霧の中に微かに反響し、咲莉那は一瞬動きを止めた。「やばい…!」彼女の心臓が鼓動を早める。
その瞬間、一人の龍使いが墓のそばから顔を上げ、周囲を警戒するように辺りを見回した。「今の音、何?」と低く呟き、隣に居た男性が耳打ちをするように言った。「お嬢、誰か隠れているかもしれませんぜ。」
火楽が鋭い目で周囲を観察しながら、「まずいですね…様子を見ながら判断しましょう。」と静かに呟いた。
霧の向こうから足音が徐々に近づいてくる。咲莉那は息を殺し、「もし見つかった場合戦うのは自殺行為…なんとしてでも逃げないと…。」と覚悟を決めていた。
霧の中、突然「シュッ!」という鋭い音が響き渡った。次の瞬間、鞭が唸りを上げながら咲莉那が隠れている木を正確に直撃した。「気づかれた…!」と心臓が跳ねるように脈打つ。咲莉那はすぐに立ち上がり、全身の力を込めて走り出した。
後ろから、女性の冷たい声が響く。「アタシの緑蘭華(りょくらんか)から逃げられると思ってるの?」その声に続いて再び鞭の音が空気を裂き、木々を揺らした。咲莉那は息を切らしながらも、一瞬たりとも後ろを振り返ることなく走り続ける。「なんとしてでも逃げ切らないと…!」
火楽と瑛斗も木の影から飛び出し、咲莉那を追う形で駆け出した。瑛斗は低い声で、「何とか撒かないと…策を考えないと危険です!」と叫ぶ。火楽は咲莉那を守るような位置で走りながら、「主様、こっちに!」と別の道へ誘導する。
鞭が再び唸りを上げ、咲莉那の背中を正確に捉えた。「っ…!」鋭い痛みが全身を駆け抜け、彼女はその場に倒れ込んだ。地面に手をつきながら、必死に立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。
女性は静かに鞭を構え直しながら、冷たい笑みを浮かべて近づいてきた。「逃げるのは無駄よ。諦めなさい。」その声が耳に届くたびに、咲莉那の心臓は鼓動を早めた。「こうなったらしょうがない…!」彼女は震える手を前に突き出し、払うような仕草をすると、突然その手から炎が舞い上がった。
炎は勢いよく広がり、女性たちが近づいてくるのを阻む形となった。「これは…!」女性は驚きの声を上げながら後退し、鞭を振り上げて炎を払おうとするが、炎はさらに激しく燃え上がった。
咲莉那が炎を使って女性たちを一時的に阻んだその瞬間、霧の中から新たな足音が響き渡った。「増援か…!」瑛斗が低い声で呟くと、霧の向こうから四人の影が現れた。彼らはすでに三人を取り囲むように配置についていた。
「これで終わりだよ。」先頭に立つ青年が冷たく言い放つ。火楽は険しい表情で周囲を見渡し、「完全に挟み撃ちですね…主様、どうします?」と咲莉那に問いかけた。
咲莉那は肩の痛みをこらえながら立ち上がり、鋭い目で敵を睨みつけた。「まだ死ぬわけには…!」彼女は手を刀の柄にかけ、戦闘態勢になる。
「逃げ道はないわよ。」女性が鞭を振り上げながら冷笑を浮かべる。瑛斗は刀を構え直し、「なら突破するしかない!」と叫び、火楽と共に咲莉那を守るように立ちはだかった。
「もしかしてあなた…咲莉那?」女性の冷たい声が霧の中に響く。咲莉那は心臓が一瞬止まるような感覚を覚えたが、表情を変えることなく沈黙を貫いた。「やっぱりバレるか…。」彼女の頭の中には過去の記憶が一瞬よぎり、痛みと共に全身が強張る。
「咲莉那…?」霧の中から少女の声が響いた。その声には驚きと喜びが混じり、咲莉那は思わず顔を上げた。次の瞬間、少女が彼女に向かって勢いよく走り寄り抱き付いた。「咲莉那!」彼女の瞳は輝き、嬉しさを抑えきれない様子が見て取れる。
咲莉那は少女の勢いを受け止めようとしたが、突然のことで支えきれず、「うわっ!」彼女はそう叫んだ瞬間、ふらつき、尻もちをついてしまった。
少女は驚いた表情で咲莉那を見つめ、「わわっ、咲莉那ごめんね。空華がいきなり飛び付いたから…」と切実な声で問いかけた。咲莉那は優しく微笑みながら、「大丈夫だよ、空華。」と答えた。
「空華?じゃあ…この少女が風龍の空華様!?」瑛斗が驚いていると、「そうだよ!空華だよ!」空華は元気に答えた。
青年が軽く空華の肩に手を置きながら、「空華、ちょっと退いてあげなよ。咲莉那が立ち上がれないだろ?」と優しく促した。空華はハッとした様子で咲莉那を見て、「あ、そっか!ごめんね、咲莉那!」と言いながら元気よく後ろに退いた。
「咲莉那、久しぶり。」青年が少し懐かしそうな笑みを浮かべながら声をかけた。咲莉那も驚きの表情を見せた後、柔らかな微笑みを返す。「久しぶりだね。翔真。」その言葉には、再会の喜びとどこか安心感が滲んでいた。
「にしても…」咲莉那が翔真の頭を撫でながら、「大きくなったねぇ。」と言うと「やめろよー。」翔真は照れくさそうに言った。
「かれこれ十年ぐらいあってなかったのよ?大きくなるもの当然でしょ。」女性が言うとすぐ悲しそうな表情で「咲莉那、さっきはごめんなさいね。アタシ、まさか咲莉那だとは思わなかったの。肩痛いでしょう?」と尋ねた。
「大丈夫ですよ、日麻(ひま)さん。私、そんなにやわじゃありませんから。」と咲莉那は笑って返した。
日麻は少し俯きながら、肩に触れるような仕草で言った。「本当に…ごめんなさいね、咲莉那。」彼女の声には後悔と悲しさが滲み、咲莉那に向ける視線はまるで許しを乞うようだった。
咲莉那は柔らかな笑みを浮かべながら、軽く首を振った。「気にしないでください、日麻さん。それに、こうして謝ってくれることが嬉しいです。」
日麻は咲莉那の言葉に驚いたような表情を見せた後、安堵の息を吐いた。「本当に咲莉那は優しいわね。ありがとう。」
翔真が少し微笑みながらそのやり取りを見守り、「なんだか、平和そうでいいね。」とつぶやく。空華は跳ねるように近づいて「そうだよね!みんな仲良しなのが一番だよ!」と無邪気に賛同した。
「まずは自己紹介した方がいいんじゃないかしら?」日麻が柔らかい声で提案すると、紅碧(べにみどり)の目をした女性が軽く頷きながら言った。「そうね。まだ名前を言っていないものね。少なくともそこの君には伝える必要があるわ。」
その言葉に瑛斗は紅碧の瞳をじっと見つめながら、「あなたは…どなたですか?」と問いかけた。女性は一歩前に進みながら微笑み、「私は葵(あおい)。水龍・雫の主よ。」と静かに名乗った。
周囲にいた龍使いたちは徐々に落ち着きを取り戻し、日麻も葵に続いて自己紹介を始めた。「アタシは日麻。地龍・嶺岳(れいがく)の主よ。」
「僕は翔真。風龍・空華の主です。」翔真が少し照れたように言いながら空華を見た。空華は得意気に胸を張り、「空華だよ!四大龍の風龍だよ!」と元気よく続ける。「風を操る力なら、誰にも負けないんだから!」その明るい笑顔が場の空気を少し和らげた。
「私は雫。四大龍の水龍よ。」女性が静かに話しながら、その声にはどこか冷静さと落ち着きが滲んでいた。
「俺は嶺岳。四大龍の地龍だ。」日麻の横で威厳のある声が響く。「大地の力は破壊もするが、守りを作るものでもある。それが俺の役目だ。」彼の言葉に重みを感じ、周囲の空気が引き締まる。
雫が微笑みながら、「四大龍がここに揃ったのも、ずいぶん久しぶりのことね。」と話すと、嶺岳が「ああ、本当に久しぶりだな。」と言う、その声には懐かしさと少しの感慨が込められていた。彼の言葉に雫が静かに頷き、「ええ、こうしてまた全員が顔を合わせるなんて、もう奇跡だもの。」と柔らかく微笑む。
日麻は「咲莉那が討伐されたって聞いたときは悲しかったわ。でもまさか生きていたなんて。また会えて嬉しいわ。」と微笑んだ。
日麻は瑛斗に目を向けながら、「君の名前、聞いてなかったわね。名前は?」と尋ねた。その問いかけに瑛斗は少し緊張しつつも穏やかな声で答えた。「瑛斗です。咲莉那さんたちと一緒に旅をしています。」
日麻は微笑みを浮かべながら、「そう。咲莉那たちと一緒なのね。」と優しく言葉を返した。そして、空華が瑛斗に興味津々の様子で近づき、「瑛斗ってどんな旅をしてるの?楽しい?」と勢いよく問いかけた。瑛斗は思わず苦笑しながら、「そうだな…楽しいこともあるけど、結構大変なことも多いよ。」と返した。
瑛斗が「咲莉那さんたちのことを案じていたのなら、どうして咲莉那さんたちに会わなかったんですか?」と聞くと葵が答えた。「会いたくても、会えなかったの。」「どうしてですか?」瑛斗が尋ねると「咲莉那の討伐が決まったとき、白華楼に警戒されて、監視されていたの。だから下手に動けなくて…。」と葵が明かした。
「そんなことが…大変ですね。」瑛斗が呟いた。葵は続けて、「でも最近ようやく白華楼からの監視がなくなったの。だからみんなで咲莉那のお墓参りに行こうってなって、みんな集まって、少し話そうってなってたときに咲莉那たちが。」と言った。
「そんなことがあったんだね…」咲莉那は静かに呟きながら、少し考え込むように視線を落とした。討伐されていたはずの自分に、こうして仲間たちが墓参りをしようとしていたことを知り、胸の奥に複雑な感情が湧き上がる。自分がいない間、彼らはどう過ごしていたのか——そんな思いが一瞬、彼女の瞳に影を落とした。
瑛斗がふと状況を整理するように言った。「じゃあ僕たちは本当に偶然ここで出会ったんですね。」その言葉に翔真も頷き、「まさか、咲莉那とこうして再会できるなんて思ってもいなかったよ。」と微笑む。
咲莉那は微かに視線を落としながら、ぽつりと呟いた。「みんな、てっきり私のこと恨んでいると…思ってた。」その声は静かで、どこかためらいがあった。彼女の指先は無意識にぎゅっと握られ、心の奥にしまい込んでいた思いが言葉となってこぼれ落ちる。
瑛斗はそんな彼女をじっと見つめながら、真剣な眼差しで言った。「そんなこと気にする必要はないですよ。みんな、あなたを恨んでなんかいない。」その言葉はまっすぐで、余計な飾り気がない分、強く響いた。翔真も頷き、「そうだよ。咲莉那が生きている、それだけで僕たちは嬉しいんだから。」と優しく語りかける。
日麻は腕を組みながら、「アタシはずっと信じてたわよ。咲莉那が人を殺すわけがないってね。」と微笑んだ。葵もゆっくりと息を吐き、「それに、墓参りを考えたのも、あなたを忘れないためよ。」と語る。
空華は目を輝かせながら咲莉那の腕にしがみつき、「みんな咲莉那のこと大好きだよ!だからこれからもずっと一緒!」と元気いっぱいに言った。咲莉那はその言葉に驚きつつも、少しずつ表情を和らげていった。
日麻が「ねぇ咲莉那。久しぶりにみんなで話しましょう。」と提案すると翔真が「いいね。咲莉那たちの旅のこと知りたいし。」と言った。
「なら龍使いと四大龍でわかれたらどうかしら?」と雫が提案した。
龍使いたちと四大龍が分かれて会話を始めると、嶺岳が低く響く声で呟いた。「久しぶりの再会だな…こうして皆の気配を感じるのは何年ぶりだろうか。」
雫は静かに頷き、「ええ、本当に長い間離れていたわね。でも、こうして再び顔を合わせることができた。それだけで十分価値がある。」と落ち着いた口調で話す。
空華は弾むような声で言った。「みんなの主も変わったね!昔よりもっと頼もしくなった気がするよ!」
嶺岳が目を細める。「確かに、我らの主はよく鍛えられたようだ。だが、それと同時に試練も多かったはずだ…。」とどこか思案するような表情を見せる。
雫は小さく微笑み、「あなたの言う通りね。でも、それこそが彼らを強くしてくれたのではないかしら?」と静かに語り、視線を葵たちの方へ向けた。
「ああ、そうだな。みんなの主も頑張っているよ。」と火楽が返した。
瑛斗は、龍使いとしての使命について考えながら口を開いた。「龍使いって、ただ龍の力を操る者じゃなくて……もっと深い意味があるんじゃないかって最近思うんです。」
日麻は腕を組みながら頷いた。「そうね。龍使いとは、龍と契約を結ぶ者。でも、それはただの力の貸し借りじゃなくて、お互いに運命を共にすることなのよ。」
葵は静かに微笑みながら言った。「龍はこの世界の秩序を守る神聖な存在。だからこそ、龍使いもまた特別な使命を持っている。私たちがただ戦うために龍を使うのではなく、龍と共に世界を支えるために存在しているの。」
翔真が考えるように視線を落とし、「確かに、龍は自然の象徴だ。火、水、地、風の四大龍は、世界の均衡そのものを体現している。だから龍使いがその力を扱うことは、単なる武器ではなく、世界の調和を維持することにも繋がっているんだ。」
瑛斗はその言葉を聞き、深く息を吐いた。「世界の秩序を守る……龍使いの使命はそんなに重いものなんですね。」
日麻が優しく微笑み、「そうよ。でも、それを支えるのは絆。龍は力を貸す存在じゃなく、共に歩む仲間なの。」と語った。
空華が瑛斗の肩をぽんっと叩き、「だから龍使いはただ強いだけじゃなく、龍と心を通わせることが大事なの!瑛斗も旅の中で、それを感じてきたんじゃない?」と笑顔で言った。
瑛斗はその言葉を聞き、少し考えてから「確かに、咲莉那さんも火楽様を信頼していました。白華楼を追われてもずっと一緒に居たからというわけではなく、本当に心のそこから信頼を寄せているようでした。」と静かに呟いた。
葵が考え込んでいるのを見て、咲莉那が「葵、どうしたの?」と問いかけた。
葵は顔を上げ、少し慎重な口調で答えた。「いや、なんで咲莉那が暴走したんだろうって考えていたの。」
日麻が腕を組みながら言った。「普通、龍使いは暴走したりなんかしないのよ。龍使いの力は膨大だから、それを受け止められる器……すなわち霊力が強い者が必要じゃないと、身体に影響を及ぼすの。だから咲莉那が暴走するなんて、絶対にあり得ない。」
瑛斗はその言葉を聞き、眉をひそめる。「じゃあ、何か特別な理由があったってことですか?」
翔真も考え込むように呟く。「もし咲莉那が暴走したのなら、それは何か外的な要因が働いていた可能性があるんじゃないか?」
葵は静かに息を吐き、「だからこそ、そこが気になってるのよ。咲莉那、暴走した時のこと…何か覚えてる?」と、慎重に問いかけた。
咲莉那は言った。「うん。覚えてるよ。忘れられるわけがない。」その声には微かな緊張が滲んでいた。
日麻が問いかけた。「何か心当たりは?」
咲莉那は少し考え込んでから、ゆっくりと首を振った。「特に心当たりはないかな。」
葵は唇を噛みながら、「そう……」と小さく呟いた。何か納得できないものを感じているようだった。
翔真が腕を組みながら考え込む。「じゃあ、本当に原因がないのか?もしかすると、誰かに影響されていた可能性は?」
日麻がすぐに応じる。「確かに、龍使いの力は膨大だけれど、意図せず制御を失うことなんてまずない。それが起こったなら、外的な要因が絡んでいたとしか考えられないわね。」
瑛斗は慎重な口調で言った。「もし誰かが咲莉那さんに干渉していたとしたら、それはいつ、どうやってだったんでしょう…?」
咲莉那はその言葉に何かを思い出そうとするかのように目を閉じた。しかし、心の奥にある違和感だけがぼんやりと残り、はっきりとした答えは見つからなかった。
「もし白華楼が巡回しに来たら、咲莉那が見つかってしまうわ。もうそろそろ、別れましょう。何か分かったら知らせるわ。」葵が言った。
「そうだね。そろそろ別れよう。」と咲莉那も賛成した。
日麻が腕を組みながら、「ま、無理に長居するのも危険だしね。私たちの方でもできる限り調べるわ。」と念を押した。
瑛斗は静かに頷き、「ありがとうございます。皆さん、気をつけてください。」と真剣な表情を見せる。
空華は少し寂しそうに咲莉那の腕をぎゅっと掴み、「またすぐ会えるよね?」と小さな声で尋ねた。
咲莉那は一瞬、迷うように目を伏せたが、すぐに微笑んで「もちろん。また必ず。」と優しく答えた。
翔真がふっと息を吐き、「それじゃ、僕たちはこっちに動く。また会える時まで、頼んだぞ。」と最後の確認をする。
葵が「ええ、じゃあそれぞれの役割を果たしましょう。」と力強く言い、皆がそれぞれの方向へ動き始める。
すると、日麻が振り返りながら嶺岳に声をかけた。「嶺岳、行くわよ。これ以上のんびりしてる暇はないでしょ。」
嶺岳はゆっくりと目を閉じ、重々しく頷いた。「分かりやしたお嬢。我らの視点からも、白華楼の動きを探る必要がある。」
葵は雫に視線を向け、「雫、準備はいい?」と尋ねると、雫は静かに微笑み、「ええ、主様(ぬしさま)。慎重に動きましょう。」と落ち着いた声で答えた。
翔真が空華に向かって手を軽く振りながら、「空華、行こう。」と言うと、空華は「うん!何かワクワクしてきたね!翔真!」と元気いっぱいに応じる。
それぞれの龍使いと龍が動き出し、咲莉那は仲間たちの背中を静かに見送りながら、胸の奥で何かが揺れるのを感じていた。『次に会う時は、もっと真実に近づいているはず——』そう強く思う。
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