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咲莉那が空を仰ぎながら「あれ、瑛斗の伝書鳩じゃない?」と言った。
瑛斗は目を細め、ゆっくりと手を伸ばす。伝書鳩はすぐに彼の腕に降り立ち、小さく羽を震わせながら巻かれた手紙を差し出した。
「召集命令みたいです。しかも……」瑛斗は静かに呟きながら、手紙をほどいて目を走らせた。その表情がわずかにこわばる。
「仲間も連れてくるように、とのことです。」
咲莉那は目を瞬かせ、「ってことは、当然私たちも行くべきよね?」とすぐに言った。
火楽も腕を組みながら、「なるほど、俺たちも含めた正式な召集か。それなら同行するしかありませんね。」と静かに頷いた。
瑛斗は少し考えた後、ため息をつきながら「……分かりました。では、みんなで向かいましょう。」と了承した。
手紙を折りたたみ、しっかりと握りしめた瑛斗の目は、すでに白華楼に向けられていた。空にはすでに伝書鳩の姿はなく、ただ静かな風が吹いていた——。
瑛斗たちは静かに白華楼へ向かって歩を進める。道はいつもと変わらないはずなのに、どこか空気が張り詰めているようだった。
「……静かすぎる。」瑛斗は眉をひそめた。
咲莉那も気づいたように周囲を見渡し、「いつもなら巡回の兵がいるはずだよね…?」と不安げに呟く。
やがて、白華楼の門が見えてくる。しかし、そこには普段の活気や警備の姿はなく、異様な静寂だけが漂っていた。
瑛斗は立ち止まり、ゆっくりと目を細める。「いったい何が……」
風がひんやりと頬を撫でるとともに、白華楼の門が、まるで瑛斗たちを飲み込むかのように黒い影へとそびえ立っていた——。
瑛斗たちは静かに白華楼の廊下を進み、会議室の前で立ち止まった。
咲莉那は「懐かしいなぁ、この扉…。」と呟いた。
火楽は頷き「そうですね。でも俺たちはバレないようにしなくてはいけませんよ?」と注意するように言った。
瑛斗は二人をちらりと見た後、覚悟を決めるように深く息を吐き、ゆっくりと扉を押し開いた。
すでに大半の隊員たちが集まっていた。
瑛斗たちも席に着き、会議が始まるのを静かに待った。その後も隊員たちが次々と集まり、やがて全員が揃った。
室内には張り詰めた空気が漂い、誰もが無言のまま座っていた。
部屋の奥には最高司令官――冥央の姿があり、その表情はいつも以上に険しく、まるでこの場がただの定例報告ではないことを物語っている。
瑛斗は背筋を伸ばし、目の前の卓上に置かれた一枚の文書に目を向ける。
「今回の召集は緊急だ。」冥央はゆっくりと視線を上げた。
室内の空気がさらに張り詰める。誰もが真剣な顔で息をのんでいた。
——すると、突然、冥央が豪快に笑い出した。
「……と思ったか?ははは!そんな怖い顔をするな、これはただの会合だ!」
場の緊張が一気にほどけ、数人の隊員が肩の力を抜いた。瑛斗は呆れたようにため息をつき、「冥央司令……いつもながら驚かせすぎです。」とぼやく。
咲莉那は「会合…?」と呟き、少し考え込むと、思い出したように言った。「なるほど、今日はあの日か!」
「あの日…ああ、俺も思い出しました。」と火楽が続けて言った。
冥央は笑いながら椅子にどっしりと腰を下ろし、「お前たち、今日が何の日か忘れたのか?一年に一度の大宴の日だぞ!」と楽しげに宣言した。
隊員たちは一瞬驚いた後、「まさか…!」「ついに今年も来たか!」とざわめき始める。
「この三日間は任務なし!思う存分楽しむのが鉄則だ!」冥央が力強く告げると、隊員たちは次第に笑顔を取り戻し、緊張の空気は完全に消え去った。
「宴を始めるぞ!」
こうして、一年間で最も自由でにぎやかな三日間が、幕を開けた——。
**冥央が静かに言い放つ。**
「まずは恒例の桜爛舞(おうらんまい)だ」
場が沈黙に包まれる。団員たちはわずかに息を止め、神聖な瞬間を迎える準備をする。その中で、瑛斗たちは小声でささやき合う。
「桜爛舞か、懐かしいなぁ」咲莉那が呟いた。
「主様も前に務めましたものね」火楽が微笑みながら言った。
それを聞いた瑛斗が隣の仲間に問いかける。
「なぁ、咲莉那って桜爛舞の舞手を務めたことがあるのか?」
「あるらしいぞ、噂では歴代の舞手の中でもっとも美しい舞だったとか…」仲間が目を細めながら応える。
「桜爛舞を踊っていた咲莉那は、それはもう美しかったって話だよ」もう一人の仲間の声に興奮がにじむ。
「静かに、始まるぞ」もう一人が注意を促す。
その瞬間、桜色の衣装を纏い、光桜扇(こうおうせん)を手にした舞手が静かに歩み出す。
扇子が広げられると、銀の簪が光を反射する。音もなく、舞の一歩が刻まれる――。
舞手の動きに合わせ、扇子が軽やかに舞い、風を孕んで広がる。その軌跡はまるで桜の花びらが風に遊ばれ、舞い上がるようだった。
舞手がくるりと回れば、ひらりと袖がなびき、まるで大輪の花━━いや、桜の花が舞っているようだ。
会場に響くのは、わずかに揺れる衣擦れの音だけ。誰もが息を詰め、舞の流れの中に引き込まれていく。
舞手はひとつ息を整え、視線を少しだけ上げる。その瞳には迷いはなく、ただひたすらに白華楼の誇りが宿っていた。
一歩、そしてまた一歩。しなやかな動きはまるで一閃の光のように空間を切り裂き、その軌跡には白華楼の誇りが宿っている。
観客の誰もが目を離せず、空気そのものが彼女の舞とともに揺れているかのようだった――。
舞手の最後の一歩が静かに刻まれる。
光桜扇がゆっくりと閉じられ、扇面が儚く桜の余韻を映す。
その瞬間、まるで風が撫でるように、舞手の袖がひらりと揺れた。
彼女はひとつ息を整え、優雅な足取りで舞台を後にした。
少しの静寂が訪れ、冥央が声ををあげた。「今日、この日を迎えられたことを嬉しく思う。このときは任務を忘れて、思い切り楽しもうではないか!」
その言葉をうけた団員たちは歓声をあげ、喜びを表した。
さぁ、3日間にわたる、楽しく愉快な宴の始まりだ。
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