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「悪いな君たち…これが政府のやり方なんだ。」
青い服を着た大きな人は言った。のちに青い服を着た大きな人は警察だとわかった。 「みんな…!」
警察が去ったあと私はみんなのもとへ駆け寄った。
「レネ…」
「どうしてなの!どうしておまわりさんに私たちの楽器を壊されないといけなかったの!」
みんな黙り込んで下を向いてしまった。 「わからない…でもこれが政府のやり方だとか言っていた気がする。」
『せいふ』とやらは私にはまだわからない。私たちよりも強くて大きな力を持っていることしか。
「あ!でもね!!」
アイリスが私を秘密基地に連れて行った。
「あ、私の…」
そこには私の楽器、確かホルンだったかな、1つだけ残っていた。
「レネの楽器は出してなかったから秘密基地の場所もばれなかったし壊されずにすんだの。」
「見つかったらまた壊されちゃうかも。袋に入れてそれだけはおうちにもってっちゃいなよ。」
「うん。」
秘密基地には家にあったガラクタや道で拾ったガラス片、公園になっていた木のみなど、いつもの木の下に来るまでに見つけたなんてことないものもしまっておいている。ガラクタの山からいい感じの袋を取り出して楽器を包んだ。そして私は言った。
「今日はもう帰ろうか。」
みんな黙って頷いた。
「明日も、休もう、、、。」
いつも通りここへ来てももう音楽はできない。楽器もない。ここにまた来る理由がわからなくなってしまった。私はとぼとぼと家に向かった。
家に着くとお母さんが玄関の前で警察と何か話していた。ついさっきされたことを思い出し急いで家の裏にバレないように回り込み、窓から自分の部屋に入った。ベッドの下に楽器を隠しお母さんと警察の話に聞き耳を立てた。
「我々は新たに設置された芸術取締当局だ。現在戦争が負け続きなのは知っているよな?芸術を、特に音楽を厳しく取り締まり国民に仕事に集中させるための大統領クライスの政策だ。悪いがこの家にある音楽に関わるもの全て出してもらう。楽器、楽譜、音楽について書かれた歴史書もだ。抵抗するようなら牢にぶちこむぞ。」
「うちはそのような物を買うお金はありません。よそを当たっていただけますか?」
仕事に集中させるために音楽を禁止するらしい。私はお母さんに音楽をやっていたことを言っていない。もちろん楽器を持っていることだって知らないはずだ。お母さんはそれを知らずに当局を追い出してしまった。私は犯罪者になってしまった。音楽がある日々はとても楽しかった。私の唯一没頭できるもの。涙が溢れそうになった。その時お母さんが私を呼んだ。
「レネ、さっきの話、聞いていたかもしれないけど、音楽が禁止になってしまったの。私たちは下級階層の人間だから当局にはとても逆らえないわ。レネはいい子だからわかってくれるわよね?」
溢れそうになった涙を我慢しながら私は喉の奥から無理やり引っ張り出してきた言葉を言った。
「わかったよ。お母さん。」
芸術取締当局ができてから15年後。音楽はすっかり街から消えてしまった。そもそも音楽という言葉を知らない若者増えてきた。子供の頃、子守唄を聴かせたり、教会でのパイプオルガンの演奏、それに合わせたコラールなどの讃美歌、一度は耳にするような文化もなくなってしまった。街では多くの工場ができ、軍需品や製糸工場で軍人向けの衣類などの大量生産が行われている。朝から晩まで休みなく。大人になり私も毎日休みなく働くようになった。当時5歳の私には辛かった音楽の禁止は、結局今思えばどうってことないのかもしれない。だって、音楽をやっていられる時間なんて私にはないから。