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僕には幸せの4文字がなかった
家に当然親はいなくて、
学校では虐げられる毎日
どうしようも無かった
僕は抵抗なんてできない
彼らが発する言葉もゆらがない事実
みんなが僕を見ないのもゆらがない事実
先生も僕に話しかけないのもゆらがない事実
全部全部、事実
僕はそんな日々に慣れつつあった
慣れつつも辛いと思いながら
生きて学校へ足を運ぶ日々
とある雨が強い日の事だった
僕の傘は彼らに引き裂かれているので
母親が置いていったカッパを着る
カッパは異質だったみたいで、
周りから驚くほど拒絶される
なんでそんなの着てるの、
有り得ない、馬鹿じゃん
声が全て聞こえる
呆れる
雨風凌げるならなんでもいい
どうだっていいだろう、別に
僕が何をしていようが、
カッパを脱いで雨を振り払い、
手で持って教室へ向かう
黒色の文字に囲まれた机に
みんなからの冷たい視線
別にいい、慣れてしまえば、
もう何も感じなくなる
授業には全く聞く耳を持たず、
とにかく机の中にいる虫が
怖くて堪らないのできちんと座る
体育も体操服が破かれているので
忘れた、と適当に言い訳して
体育館の端っこに1人座った
雨と体育館の床が擦れる音が
僕の耳を占領して心地いい
授業中は誰にも踏まれない
彼らは運動に集中しているし、
僕は誰にもみられない
誰にも見られないのが、1番の娯楽だった
嬉しかった
彼らにもみんなにも見れない
誰も僕を冷たく見ない
母親にすら見放された僕を
誰も見ようとはしてこない
これ以上の娯楽はなかった
だけど、そんな娯楽は1時間で終わる
名残惜しさでしかないけど、
僕は帰ったらまた1人だ、と思って
放課後されることに臨む
放課後は、「いつもの場所」に行く
体育館裏
雨が降っていようと関係なく、
毎回放課後に体育館裏にあつまる
集まってされることは、
僕は1人で彼らに虐げられる
それだけ
一通り終われば彼らは帰っていく
その間僕は彼らにされることを
耐え抜けばいいだけの話
ただ、雨の日は地獄なだけ
雨は地面が湿って
泥になっている土をこれでもかと
僕にかけてくるからだ
それが今日当たった、
最近、梅雨の時期だからだろう
雨にも慣れなきゃと思いながら
僕は体育館裏に行った
彼らがいなかった
僕は驚いて場所を間違えたかと思い
その場から立ち去ろうとした
けれど、そこに立っていた1人の男の子
その男の子に見入ってしまった
まずここに人がいること自体珍しい、
ここは本当に人気がないのだし
体育館裏とは言え、掃除する人もいない
下手にごちゃごちゃ考えていると
その子に声をかけられた
「..んで、ここに、」
と言った。僕は少し黙って、
いつもここに来ないと怒られるから、
と小さく答えた
その男の子は何か言いたげだったが
ふーん、と適当に返事してきた
顔を上げて、男の子の方を見ると
僕は逃げ出したくなった
男の子は赤黒いハサミを持って
首に刺そうとしていた
僕は驚いて、なんとなく
手を離させた方がいいだろうと考え
すぐさま男の子の手をのけた
「なっ、なにしてるの、!?」
「..あんま大声出すな、
ここ穴場なんだよ」
「バレたら退学」
「たっ…!?」
「..大丈夫だよ、本気じゃねぇし」
「それよりお前は、」
「…えっ、なに、が..」
「怒られるってのは、いじめって事だろ、
服とかそれとか、見ればわかるし」
「….まぁ、いじめって言うのかな、あれ」
「いじめだろ、分からずは怖い、」
「…なんで、なんも言えねぇの」
「…知ってるのに言ったんだ、
なんでここに来たのか、って」
「ここ俺の穴場だったからな、
まぁ最近来れてなかったから来たら」
「..お前が色々されてるの、
ついつい見ちゃったし」
「止めなかったの悪いと思ってる、」
「えっ、いいよ、そんなの、…
僕結構それされるの慣れてるし」
「いじめ?自体、なれてるから」
「…ふーん」
会話が止まった
楽しく話せているつもりだったが、
続けることはやはり難しい
何を話したらいいのだろう…
戸惑う僕を他所に
男の子は口を開いた
「..俺、一応、先生らに言っといた」
「…え、」
「お前のクラスの担任じゃなく、
教頭とか、そのあたりに」
「な、なんで」
「…髪、伸びすぎて目隠れてんじゃん、」
「これで切ったら、….怖いか?」
あの赤黒いハサミを取りだした
見るにたえないハサミだったし、
それで僕の髪を切る、ってなったら
たまったものではない
「流石にこわい…」
「ふは、だろうな、冗談冗談」
「…あ、そういや名前、」
「流、俺は、流って言う」
「お前は?」
「…僕は、還」
「へー!いい名前、還ね、」
「じゃあ、また明日もここ居るから」
「あっ..ちょっ!?待っ…」
「….」
赤黒いハサミのこと、
聞きたかったのに…
見にくいあの色、なんなのか、
知りたかったのになぁ
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翌日
今日はかなり晴れていた
教室に入り、自分の席を見る前に
彼らの席を見て、驚愕した
机の上には花があった
花瓶が置いてあって、それで、
綺麗な花がいけてあった
あれは、僕も散々やられたから知っている
彼らは永久に学校に来なくなった
放課後、すぐに体育館裏へ行く
「おー、還、やっぱ来たか」
「っ流..、あの、今日…」
「知ってる知ってる、あいつら」
「流がやったの…!?」
あの赤黒いの、なんなんだろう
僕じゃ見た事が無い色だった
しかもハサミにこびりつくように
ついていたし、気になるし
匂いは残念ながら分からなかった
ハサミの匂いはなんとなく抵抗意識がある
赤黒いなにかについて考えて
ずっと頭を悩まされていくうちに
この前、彼らが僕をハサミで
腕を切ってきたことを思い出した
あの時、ハサミについていたあれは、
ちょっと黒が混ざった赤色、
という印象だったけど良く考えれば
それは「血」というものなんじゃないか
僕の中を「還」る、延々と「流」れる
生きている何か
「…腹立たしかっただけ」
「お前が望むものじゃないとは思う、
確かにお前はあいつらが嫌い」
「それは見ていればわかるし、
俺だって助けたいと思いながらだった」
「俺一人が出来ることって
これなんだなって、思った」
「思ったら行動しろってよく言うだろ?
それを悪いように使ったんが俺」
「…分かり合えたかもしれない未来を
俺が潰した、ほんとに、ごめん、」
「…ありがとう」
僕の心の底から出たのはこれだった
流にいってほしいのは、これじゃない
ごめん、なんかほしくない、
昨日出会ったばかりだけど、
多分きっと僕のことを気にかけていた
嬉しい、こんなに、優しく見て、
暖かく見てくれたのは初めて
1人になれば僕は誰にもみられない
だから、嬉しかったけど
見られた方が1番幸せだ
優しくて、暖かい目
たった1人、流は見てくれた
「…は、?ありがとうって..っ」
「ぼく、ずっと..ずっと、
無くなればいいって思ってた、」
「ずっと消えちゃえばいいって」
「もう二度と僕の前から
現れないで欲しいって思って..!」
「僕じゃきっとできなかった、
それをしてくれた…ありがとう..」
「流、ありがとう、」
「はじめての友達だよ…!」
もう痛いなんて思わない
嬉しい、ただただ、嬉しい
「…お前が望むならなんだっていいよ」
「じゃあ俺、!このハサミ、
凶器だからこれ持ってどっか行く」
「…え、流..!?」
「俺、退学してくる、」
「…え、やだ、なんで」
「お前が幸せなのは分かった、
けど俺は許されないことをした」
「だから今から退学してくる。
じゃなきゃ俺生きれないから」
「えっ、なんで」
淡い初恋だった
「…分かれよ、まじで、」
「俺だって後悔してんだよ、
このハサミを持ってたことを」
「…じゃあ、ありがとう」
淡くて儚い初恋だった
「初めての友達にしてくれて」
「昨日会ったばっかなのにな、
まわりからみればおかしな話だよ」
彼らが与えた痛みよりも
もっと痛い初恋だった
あの雨上がりの晴れのような
明るい日から大体1年ほど
流は少年院、という未成年だけの
刑務所に自首して入った
僕は、流が居なくなって
それに彼らも居なくなって
何かと面白くない日々を過ごした
彼らがいなくなって
ハッピーエンドだと言うのに、
流までいなくなってしまったのなら
もうつまらなくて仕方がない
それと体育館裏にも行けなくなった
放課後に行くようにしていたけど
いつの間にか立入禁止の看板があって、
そこには流が置いていった鞄があった
あれの中身にあるノート、
今日持って帰る気だったのに。
と思って萎えながら帰ったのを覚えてる
そして僕は髪の毛を切った
うざったい前髪を眉毛上あたりに切って、
自分でもびっくりするほど上手くて
それから後ろもすっきりになるように
頑張ってちょこちょこ切って、
4時間くらいかかったのを覚えている
意外とすっきりしたかも、
そう思い首を左右に振った
これ女子が言ってた垢抜け、ってやつかな
よくわかんないけどその髪のまま
お風呂に入った
暖かい湯船が堪らなく心地いい
僕はよく長風呂をするようになった
流、今何してるかな
流石にお風呂とかには入らせて
もらってるよな、大浴場みたいな感じで
会いたいな
もし次会える時…いや、次会えたら
流と同じ感じの髪型にしてみよう
髪を切った翌日、学校へ行くと
みんな驚愕して冷たい目を失っていた
急に暖かい目になって、
でも流よりも冷たい目で
すごい、とか、かっこいい、とか
変に僕を急に褒めてくる
シャンプーとか洗剤の匂いとか
色んなの聞いてきて埒が明かない
めんどくさい時は大体
トイレに逃げて暇つぶしする
暇つぶし、とは言っても
トイレの個室に籠って待つだけだが
トイレはヤンキーの住処なのか
かなり人が群がってくる
スマホゲームの音がポチポチ聞こえて、
僕は反射的に変な声を出しかける
そろそろ僕も、スマホ欲しいなぁ。
何十年も経ったある日だった。
あれからとは言うものの、
髪を切る事に才能を感じていたが
僕は流と会うためにあの学校に
居なきゃいけないので、
苦手な勉強を頑張って先生に就任した。
母親に僕の夢を語ると快く応援して
あの時見放されていたのは
何処かと思ったがそんなのは関係ない。
全ては流に会うため。
流に会って、こう言うため
僕かっこよくなったでしょ。
僕はこんな顔してるんだよ。
笑顔で言ってやる。
輝いた未来も、全部、
流が彼らを殺めてくれたから。
「あ、還先生お疲れ様です」
「お疲れ様です、では」
職員室を出て、ごちゃごちゃ考える。
体育館裏、まだ立入禁止だけど
なんで立入禁止のままなんだろうな、
あ、でもこれ確認したの確か
3ヶ月前くらいだったし、
見てみるのもいいかもな。
立入禁止の看板、取れてるかも。
僕はあの日みたくうきうきしながら
体育館裏へと足を運んだ。
「…え」
そこには知っている背中があった
流だ。
何度も思ってきた人の背中。
流の背中を見間違えるはずない
流は僕の様子に気づいておらず、
懐かしい思い出に浸っているようだった
僕はイタズラ心が働いて、
流に声を変えて話しかけた
「…ちょっと、何してるんですか、」
「ここ立入禁止ですよ?」
「げっ!?あ、っごめんなさ…っ」
「っ..て、還」
「え、っ髪、!」
「へへ、どうよ、かっこいいでしょ」
「僕こんな顔してるんだよ」
「..いいじゃん、似合ってる、」
「でも流は変わらないね、
髪型変えてるかと思ってた」
「まさか、変えねぇよ」
「変えたらお前が迷うから、」
「….そう?、僕は流のこと、
顔で覚えてるから分かるけどね」
「髪型で顔は変わる、多分な」
「ふふ、….」
「…久しぶり」
「ん、久しぶり」
変だな、前が見えないことなんて、
あの時意外無かったのに
小さな頃しか前は滲まなかったのに
「いい歳した大人が何泣いてんだよ、」
「っだって久しぶり..」
「…俺も堪えてんだ、トドメ刺すなよ、」
「はは、流もかぁ」
「ずっと待ってたよ」
「おう、お迎え大成功」
めぐる思いは風にながされる
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還(めぐる)くんはかわいい系の男の子。
よく居るよね!!私結構すき!
流くんは「なかれ」くんです。
ミステリと言うなかれを思い出す!
あれ母親が見てたんですけど!
途中の3話見ちゃって!!
なんか見にくいんですよね!!
無駄話ごめんなさい!それでは!!!
4月何日かまで毎日投稿^^続きます…(汗)
コメント
1件
投稿ありがとうございます! 題名からして素晴らしい作品なのは最早明白… すごく好みな設定で、読んでて全く飽きが来ませんでした。 (最後の一言で見事心を撃ち抜かれたのは秘密…)