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わたし、知ってますか?
僕は咄嗟に知りません、と言った
彼女みたいな人はそうですか、と
残念そうに俯いてしまった
僕は今すぐ立ち去りたかったが、
彼女みたいな人はまだ話し足りなさそう
彼女みたいな人は、「琴」と名乗った
彼女の名前は、もう昔過ぎて
記憶の中から逃げていった
いや、僕は僕自身で消した気がする
強く残るのは じゃあね の声だけだったし
それ以外あまり記憶にないし
消したのかな、消えちゃったのかな、
いや、深く考えるのはここまでにしよう
彼女みたいな…いや、「琴」は、
最近ここに引っ越してきたらしい
急遽引っ越したからまだ何もわからず
檻に放りこまれた感じ、と言われた
例が怖いしなんか彼女っぽい…
見た目の容姿で似すぎているのに
性格まで似てるとなれば思い込めば
もろ彼女になってしまう…
彼女に僕に声をかけた理由を聞いた
彼女は目に止まったから、と言った
僕はどっちかというと影は薄い
なんとなくだけど、誰かの目に止まっても
暗そうだから声かけないでおこう、
という感じなんだろうと勝手に思っていた
けど琴からしたらまた違うのだろうか
それはどのような世界で、
どのような視点なのだろう
知ってみたい
いや、でも、それを知ったところで
僕は琴の世界観に足を踏み入れていくだけで
それで…
彼女を忘れて
何考えてるの?
思わず変な声が出た
驚いて後ろに下がっちゃったし
琴はその姿を見て微笑んだ
面白いね、なんてからかわれて
僕は自我にかえることしか出来なかった
これは僕の悪い癖だった
すぐに考え込んで考えを否定して
結局僕は何も産み出せずで…、
誰にも見られないまま絶望する
これをすぐに辞めれたら
苦労なんかしないのに
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琴
目が合ったわけじゃないのに、
謎の吸引力を感じてしまった
体の中の臓器を抉られた気がした
昔出会った、夏祭りの日に出会った
花火が似合う男の子みたいだ
背中を見せられながら花火を浴びて
頭の中で焼き付いたあの表情
あの日見た、あの時の
あの時の、少年に
似ている気がしたんだ
いつか出会える、そんな希望のまま
毎日を生きていたけれど
もしかしたら、きっともしかしたら
あの日の彼みたいで
あの日に行ける気がした
コメント
2件
ぅぅわ凄く素敵!✨ えっどうしたらこんな素晴らしい物語が出来るのやら…… プロの小説家か何かかしら(੭ ᐕ))?