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離婚します 第三部

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離婚します 第三部

33 - 第33話 ニシちゃんと貴君(15)

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2024年12月02日

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◻︎結論は?


「じゃあさ、結論は?私のこと好き?」


じっと貴の目を見る。


「好きだよ、こんなに好きだったなんてこの前あんな場面に出くわすまで、思いもしなかった」

「じゃあ、どうして連絡してくれなかったの?」

「どうしていいかわからなくて、なんて言えばいいのか、好きだから相手の男を殴ったなんて言ったら、軽蔑されるんじゃないかと思ったり。またキモいと思われる行動をしてしまうんじゃないかと…そしたら、完璧に嫌われてしまうんじゃないかとか、考えちゃって。今日帰ってこなかったら、明日には連絡するつもりだった、キモいとか言われてもいいからと覚悟してた、でも、帰ってきてくれた」


ぎゅっと、さっきまでより強く抱きしめられた。


「く、くるしぃー、ちょっ!離して」

「ごめん、また、やっちゃった、多分こういうとこ俺のダメなとこなんだよ、嫌いになるだろ?」

「どうして嫌いになるのよ!勘違いしてるのね、貴さんは」

「勘違い?」

「私は、そんなふうに感情を出してくれないから、私のことには興味がないのかと思ってた。家出しても連絡もしてくれないし。普通はさぁ、心配して連絡しまくるもんじゃないの?って言っても貴さんなりの理由があったと今わかったから、そこは許すことにした」


さて、ここからは私が考えてることを話さないといけない。


「えーとね、私はこの家出の間に私なりに自分のこれからを考えたの。私は貴さんのことが好き、離婚なんかしたくない。さっきの話を聞いたらもっと好きになった。でもね、それだけじゃこの先、人生がつまらなくなる気がしたんだ。貴さんの奥さんで樹のお母さん、真島家の嫁という肩書きだけだと、どこにも私がいないのよ、わかる?」


「ん?ん?どういうこと?」

「〇〇のなになに、じゃなくて、私[真島裕美]という人物が見えなくなってるでしょ?それってさぁ、私の人生じゃない気がする。もちろんそれも含めての私の人生なんだけど。〇〇あっての私って、〇〇がなくなったら誰でもいいってことになりそう」

「ちょっと難しいな」


真剣な目をする貴。


____今のこの人は私の話をちゃんと聞いている、それがとてもうれしい


「男の人にはわからないかなぁ?女ほど人生での肩書きが変わることないもんね。とにかく、私なりの生き方みたいなものが欲しくなったってこと。実はね、昨日見た映画の影響もあるんだ」


私は昨日見た映画のストーリーを話した。


「結論から言うと、バリバリのキャリアウーマンまではいかなくても、好きなことをしっかりやりたい、ついでにいい女にもなりたいってことなんだ」

「それで?この離婚届の意味は?」

「私がやりたいことをやるためにも、家事や家のことを手伝って欲しいんだ。それに私が好きなことに没頭したら貴さんのことをちゃんとしてあげられなくなるかもしれないから、そういうことが嫌になったら、その離婚届を出してもいいよっていうこと」


しげしげと離婚届を見ていた貴。

そしておもむろにボールペンで必要なところを書き始めた。


「わかった。それはお互いに、そういうことにしておこう。なにか問題が起こったらこの離婚届を出して、きちんと話し合おう。俺もちゃんと話すように頑張るから」

「話し合いで解決するための、お守りだね。真剣に話し合うための小道具!」

「普通の夫婦なら、これ、最終兵器《リーサルウェポン》なんだろうけどね」


目を見合わせて、笑った。



「で?裕美のやりたいことって、もう決まってるの?」

「うん、ほら、これ!」


私はテーブルに揃えてあった営農関係の書類を見せた。


「ん?これ?」

「そう!侑斗君に色々教えてもらって、農業を会社形式にする方法はだいぶ理解できたんだ。だから次は、もっと土地を広げるために近所の耕作放棄してある土地を借り上げたり、耕作機械も買いたいし。何より何を作っていくか?も大事。会社員として農家さんを雇ってみんなで安定した仕事にしたいんだよね?難しいのはわかってるけど、やってみたいの。そしていつかこの土地のブランド野菜とか作りたい」


「すごいな、そんなこと考えてたんだ」

「うん、だけど、ここまで考えることができたのはお義父さんやお義母さんの理解があるからだよ。農地も資金も援助してくれるって言うし、働く人も紹介してくれるって。ね、楽しそうでしょ?」

「そんなこと考えてもみなかったよ」


ガチャッとドアが開いた。


「少しは考えなさいよ!この、おたんこむすこ!」


いつのまにか、お義母さんがやってきた。


「おたんこ?」

「おたんこなす!の息子バージョンよ。まったく、結婚して樹が生まれてもあんただけはずっとそのままだもんね。好き勝手なことばかりして、農業も継いでくれる気はないみたいだし」

「あ、それは、ごめん、これからはできるときはやるから」

「いいよ、もう。裕美ちゃんとなんとかやってくから、あんたは好き勝手なことしてたらいいのよ、そして、俺の居場所がなーいとか言って、部屋の隅っこでうずくまってなさい!」


ぷぷっと笑えた。


自分の居場所かぁ。

居場所だけだったらここにちゃんとあるんだよね。

でも、それだけじゃなくて、自分にしかできないことをやりたくなった。


____お母さん、私、あれもこれも欲張りなのかな?



「あ、そうそう!もしもあんた達が離婚することになったら、貴!あんたが家を出て行きなさいね」

「なんで、俺?」

「だって、あんたが一番役立たずだから」

「役立たずってひどいな、オヤジは?役立たずじゃないのかよ」

「えー、知らないんだ、お義父さんね、営農の事務的なことを手伝ってくれてるんだよ。あれでも書類を読み込んで理解するのは得意だからね」


そういえばお義父さんは市役所勤めをしたことがあると言っていた。

お義母さんと貴の会話がなんだか楽しい。


「ほんとだ、このままだと貴さんだけが役立たずだ」

「ちょい待って、俺も手伝うよ、なにやればいい?」

「それは自分で考えてよね、そうしないと続かないから」

「わかりました、考えます」


私はこれからのことを考えて、ワクワクしてきた。

貴の眼差しをしっかりと感じることができるようになって、ちゃんと私のことを考えてくれるようになった気がした。





「あらぁ?随分綺麗にしてるじゃない?このシンク」


お義母さんが感嘆の声をあげている。


「ですよね?私も驚いたんですよ、私より綺麗にしてあるから。これ、貴さんでしょ?」

「あー、それね、いろんなことをあれこれ考えて、考え過ぎてどうしていいかわからなくなって、気がついたら掃除しまくってた。そしたら、いくらか気が晴れた。世の奥様方がストレス解消に鍋を磨くっていうのがわかった気がしたよ。

それに綺麗にしてあれば、裕美が帰って来た時気分いいかな?とかも思った」


貴は、少し照れ臭そうに頭をかいている。


「ぐちゃぐちゃになってるんじゃないかって思ってたけど、綺麗になってたからびっくり。でも、こんなにできるんだから、これからもたまにはやってよね?」

「うん、わかった。じつはさぁ、部品磨くのと同じ感覚だったんだよね、金属モノを磨くのってもともと好きなことかもしれない」

「意外な特技ね。そうだ、それならさ、耕作機械のメンテもお願いね!」

「そうだね、それならできそうだし、楽しそうだ」


「よかったわね、貴、本物の役立たずにならなくて。さて、ここのビールもらうわよ、裕美ちゃん」


そう言って冷蔵庫から3本の缶ビールを出してきた。


「乾杯しましょ?」

「乾杯ですか?」

「そ、裕美ちゃん、おかえりなさい!それから、頑張って!かんぱーい!」

「「かんぱーい」」


ぷはぁーっと3人同時だった。


「これからは、できるだけ話して理解しあえるようにしましょうね」

「はい、そうですね。貴さんもね」

「うん、今夜色々話せてよかった、スッキリしたよ」


明日からの予定を立て直した。

それから、あのご夫婦にもメッセージを送った。

私の話を聞いてくれた岡田さんご夫妻。


『話を聞いてもらって、ありがとうございました。なんとか夫婦として立て直すことにしました』


_____あのご夫婦もきっと今頃、家族での再出発を計画しているところだろうなぁ


あとは署名捺印するだけの離婚届を、そっとしまった。


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