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凪川 彩絵
#独占欲
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『晴永さん、戻って朝食を食べていらしたのでは遅刻してしまう時間になってしまいました。
すごく勝手だけど、晴永さんの朝食、会社で食べられるようにアレンジし直して持って出ています。
みんなに見つからずにこっそり晴永さんの席へ置くために、いつもよりちょっとだけ早めに家を出ます。
瑠璃香』
(……なんで手紙なんだ)
そう思ったけれど、慌ただしく瑠璃香を置いて出て行ったことを思い出して吐息が漏れる。
瑠璃香は気遣いの出来る女性だ。
どんな状況にあるのか分からない相手に対して、余計な連絡はしない。
そういう気遣いをする。
なんだか分からないが、すべてが後手に回っている気がした。
「くそっ」
晴永は舌打ちをすると、再び玄関へと向かった。
***
同じ頃。
瑠璃香は、会社の更衣室で小さな保温バッグをロッカーへしまい込んでいた。
中には、今朝の晴永の朝食をアレンジし直したものが入っている。
本当なら家で一緒に食べるはずだったものだし、せめてフロア内にある晴永のデスクへそっと置いておきたかったのに――――あの騒がしさのせいで、それもできなかった。
瑠璃香は小さく吐息を落として保温バッグを見つめる。
トーストはさすがにそのままでは難しかったから、スクランブルエッグととろけるチーズ、それに細く刻んだ野菜を一緒に挟んで、食べやすいようホットサンドにした。
忙しくても手軽に食べられるようにしてあれば、休憩室でコーヒーを片手に、パパッと食べることもできるだろう。
『――あとで食うからのけといてくれ』
慌ただしく出て行った晴永の言葉が、耳に残っていた。
家でしばらく待ってみたけれど、時間的に自宅でそのまま食べるのは無理だなと判断した。
仕事人間の晴永のことだ。
きっとあのままでは朝食抜きで行って、夕方帰宅後に食べるとか言いかねないと思った。
朝食抜きは身体に良くない。だからこんな風にして持ってきたのだ。
だが、昼食はともかく、朝食を渡すのはイレギュラーなこと。下手に他の社員――特に日下なんかに見られたら面倒なことになる。
だから、できれば誰もいないうちにこっそり晴永の机に忍ばせておきたかったのだが。
そう思って早めに出社したのに、いざ会社へ着いてみると、エントランスの前で足が止まってしまった。
見慣れない人たちが数人、会社前に集まっている。
スーツ姿だが、自社の社員らとはどこか雰囲気が違う。
手にメモ帳や機材を持っていたからだ。
その一団が、エントランスを抜けようとする社員らにやたらとマイクを向けている。
「今朝のニュースはご覧になられましたか? 少しだけでいいんです、こちらの発表について――」
その言葉に、瑠璃香の胸がざわつく。
(……今朝のニュース? 発表?)
何のことか分からない。
だが、ただならぬ空気だけは分かった。
(そういえば……)
晴永も、朝食の際、テレビを付けてから様子がおかしくならなかっただろうか?
そのことに気付いた瑠璃香は、妙に胸騒ぎを覚えてしまう。