「何なんだよこれ…一体何なんだよぉ!」
いぬいぬことまんじゅうの視界に飛び込んできたのは、凄惨な光景だった。
床には散らばるように倒れた無数の白衣の医者、患者衣に身を包んだ人々の遺体。
彼らの身体はひどく損壊され、乾いた血が赤黒い痕を床と壁に染みつかせている。
何人もの腕が折れ曲がり、眼窩は黒い空洞となって虚ろにこちらを見つめているかのようだった。
「おかしい…おかしいよこんなッ、こんなの人の死に方じゃない。」
二人は不自然な死の気配に、背筋を凍らせる。
その目線の先には、廊下の奥、血の海の中に一際異形の存在が横たわっていた。
それは、かろうじて人の形を留めているが、明らかに人間ではなかった。
巨大な骨のように露出した腕、裂けた口、うねるかのように捻じ曲がった足。肌は青白く、ところどころが膿のようにただれ、悪臭が漂っている。何よりも、その目。
真っ黒に沈んだ瞳が、いぬいぬことまんじゅうを睨みつけるようにして、静かに輝いていた。
「ッ――逃げなきゃ!」
まんじゅうが声を震わせる。
「あぁ…行こう…ここを離れないと!」
いぬいぬこが震える声でまんじゅうに告げると、二人は静かに震える体を無理やり動かしその場を離れようとした。
けれども、怪物の瞳がまだ自分たちに追っているような気がしてならなかった。
廊下を抜け二人はかつては看護師達が勤務していたであろうカウンターにたどり着いた。
壁のフロアマップから、今いるのが3階の第2病棟エリアであり、このカウンターが建物の東側であることがわかった。
「ここから出るにはまず一階を目指さないとだけど…」
そう言いながらいぬいぬこは自身のすぐ後ろの下へ続く東側階段に目を向ける。
下へ降りられるはずの階段は崩落した瓦礫によって埋まってしまっていた。
「降りるには反対の西側階段に向かわないといけないが…」
西側階段に行くには廊下を通り病棟を横断しなくてはならないが、廊下には異形が鎮座している。
「まじかよ…」絶望するまんじゅう。
「窓から飛び降りるか?」
冗談交じりにそう言ういぬいぬこだが、ここは3階。とても飛び降りて無事でいられる高さではない。
「あの化け物をどうにかしないとか…」
そう呟いたその時。
「うわぁぁぁぁぁあッ!!‼️」西側から二人のものではない複数の悲鳴が響く。
「何ッ――」
「まさか俺達以外にも人が!?」
まんじゅうといぬいぬこは慌てて悲鳴が聞こえた方向へ走り出した。
しかし、遅かった。二人が現場についた頃にはもう3人が異形によって無惨にも食いちぎられていた。
そして、残る一人も今に捕食されようとしていた…
「駄目だっ…駄目だぁぁぁぁぁぁあ!」