初夜があまりうまくいかなかったrpちゃん 続いたらいいな〜
「ぅ、ん゛…ん」
恐怖やら違和感やら、頭の中に黒い靄が渦巻いて、ぎゅっと枕を握りしめた。頭の頂点から指の先に至るまで冷えきっている。冷や汗だって止まらない。後孔の異物感がどう頑張ってみても気持ち悪くて、らっだぁの指を押し返してしまう。何度も大丈夫と声をかける目の前の彼の表情がだんだんと曇っていくのを見た。
事は夕食後のらっだぁの発言から始まった。俺たち二人は恋人になっておよそ半年、同居を始めてからは一ヶ月が経とうとしていた。お互い成人していて、彼に至っては三十を迎えている。となれば、一線を越えるためには十分すぎる時間だ。
しかしその中で俺たちが経験したことといえば、人気のない帰り道で手を繋ぐだとか、触れ合う程度のキスだとか。今時のませた学生は皆味わったことのあるようなかわいらしいものばかりだった。元々遠方に住んでいたのだ、進展が遅くても仕方ない。数ヶ月前までは電話口に聴こえる相手の寝息が何よりの幸せだったのだから。それが今では抱き合いながら眠ることだって出来る。これ以上何を望んだらいいのかわからないほどに、俺は今の生活で満たされていた。
だが、どうやら彼は違ったようだった。
「セックスって、興味ある?」
口篭りながら言われたその言葉に俺は耳を疑った。それはまあ、らっだぁは経験豊富ではないにしろ初めてではないだろうし、物足りなくなる時だってあるだろうけれど。俺は深いキスだってまだ知らないのに。それに、男同士のセックスについてもピンと来なかった。後ろを使う以外の知識が何もない。というか、そもそも。
「えっ…と、ど、どっち?」
「ぺいんと次第だけど、俺は、抱きたい、ぺいんとのこと」
真っ直ぐ俺を見据えるその目は、見たことの無い色をしていた。そんな顔で言われて、嫌だなんて答えられる人間がこの世のどこにいるって言うんだ。
少し悩んだけれど、せっかく話してくれたんだ。前に進むとすれば今なのかもしれない、と思い、彼の誘いを受け入れた。先程まで強ばった表情をしていた彼はその瞬間全身の筋肉が緩んだのか、心底安堵した表情を見せた。そのまま優しく抱きとめられ、その心地良さに目を瞑る。
「俺、がんばるから」
その声はなんだか、いつもよりも柔らかく聞こえた。
いきなり事に及ぶのは精神的にも負担が大きいため、また後日にしておこうという話になり、俺たちは数日ほど空白の期間を設けた。その間はなんとなくいつもよりよそよそしい雰囲気が漂い、セックスがどういうものであるかを改めて自覚することになった。
彼から、「ぺいんとは何も気にしなくていい」と言われているのだが、何も知らずに迎えていい気分になれるとは思えなかったので、ざっくりでも調べてみることにした。俺の履歴は人様に見せられないようなものになっている。配信に映ったらどうなってしまうんだろうか、なんて呑気なことを考えた。
なんとなく調べてみて分かったことは、受け手側は腸内を洗浄する必要がある事、たとえ男性同士でもコンドームの使用が必須である事と、初めてでは快感を拾いづらい、という事。最後の項目はまあ、そりゃそうだよなという感じではあったのだが、それが漠然とした不安の種となっているのもまた事実であった。
彼は優しいなんて月並みな言葉で表すには有り余るほどで、今の今まで沢山の、それでいて大きな愛情をかけてもらったという自覚がある。俺が快楽を享受出来なかった時、きっと彼は自分が上手く出来なかったからだ、と思うのだろう。もちろんそれは長所で、彼のそういったところに惹かれている面もあるけれど、悲しむ顔は見たくないのだ。恋人というのはそういう関係の事を言うのだろう。とにかく、当日らっだぁを不安にさせないように、自分も当日きちんと楽しめるように。今日から「準備」とやらをしてみることにした。
ここで冒頭に返る。結論から言うと、俺たちの初夜は失敗に終わった。準備の段階では小指の先までが限界だったのだが、らっだぁの協力もありなんとか二本指を飲み込むことには成功した。この時点で正直俺は怖くてめちゃくちゃ泣いたし、らっだぁのこともめちゃくちゃ怖がらせた。しかし問題はそこからで、今度は指が全く動かない、更に俺の中は彼の指を押し返す一方。身体よりも気持ちの方が辛くて、どうにか力を抜こうと思えば思うほど上手くいかなかった。ここで心底絶望した。夢にも出そうなほど。
結局後ろは無理だと察して、お互いに前を擦って二人ともイッたところで今日は終わった。らっだぁは今二人分のあたたかいココアを淹れてくれている。寝室に取り残された俺はというと、布団を頭から被って自暴自棄になっている。みんなこんなことしてるの?本当に気持ちよくなれるの?らっだぁはまだ俺の事抱きたいって思ってるの?不安がとまらなくて、もうどうしたらいいのかよくわからなくなっていた。目が、回る。
「寝ちゃった?」
その声で意識が現実に引き戻される。被っていた布団を剥いで、彼のいる方を向いた。
「起きてる…よ」
よかった、と言いながら両手にマグカップを持った彼がゆっくりと近付いてくる。そのうち一つを俺に手渡し、一つはベッドボードに置いていた。一口飲むと、冷えた身体がじんわりとあたたまっていくのを感じた。
「急いじゃってごめん」
実際の時間では三十秒ほどだったが、体感では十分かそれより長く感じた静寂を破ったのはらっだぁだった。彼がうつむき加減で呟いた言葉は、心の芯までいやに響いて。なんだか更に悲しくなってしまい、俺はとうとう涙を零していた。彼は慌てつつも俺の手からマグカップを受け取り、もう一つのマグカップの横へと置いてくれている。今日だけで二度も困らせて、呆れてしまっても仕方ないのに、彼は嗚咽混じりの泣き声を聞きながら俺の頭に手を乗せてくれた。それでも俺の頭を撫でる手はいつもより弱々しく、怖かったよねと話すその声は少し震えがちに聞こえた。それが寂しくて、
「…ぎゅ、て、して」
と、思わず呟いた。途切れ途切れのお願いでも彼は優しく聞いてくれて、ふわりと抱き締められた。強ばっていた筋肉が解けて、少し軽くなったような気がした。らっだぁの体温はココアよりもあたたまる。彼も少し肩の力が抜けていくように見えて、それが嬉しかった。さっきよりもきつく彼の背中を抱いて、ぐっと近付いてみせた。
「こわかった、けど…」
辿々しく話す俺に優しく相槌を打ちながら、次の言葉を待ってくれている。
「おれも…らっだぁと、せ、くす…したい」
瞬間、この世の全ての時が止まったように思えた。外を走る車の音、この部屋の空調の音、秒針の音すら遥か遠くのもののように思えた。自分の言った言葉が脳内で反響して、やけに大きく聞こえる。彼は固まったままだ。同時に、自分はなんてことを言ってしまったんだと後悔の波に捕らえられた。頬から鼻先から耳から、どこもかしこも熱い。首から上が一気に紅潮する感覚を覚えた。すると、いつも間にか密着していた身体が離され、彼とばちりと目が合った。林檎色をした自分の顔が彼の瞳に映り、たまらなく恥ずかしい。どこかへ走り出したくなる程。
「あの、ん」
忘れて、と言いかけた口はらっだぁの唇によって塞がれていた。次の瞬間、俺の顎に伸びた手が口を割り、開いたそこに何か熱いものが入り込んでくる。それが舌だと気付く頃には俺の舌がそれに絡め取られていた。舌、上顎、歯、舌の裏に至るまで。浅い所、深い所、硬い所、柔らかい所、その全てを確かめるみたいにそれは動き回った。逃げ惑う俺の舌を懲りずに何度も捕まえて、また激しく愛撫される。苦しくなって、彼の服の裾を握ると、やっと口が離された。
「ふ、は…ァ、んん!」
酸素を取り込んだのも束の間、また唇を合わせた。上体を優しくベッドへと倒され、自然と彼の唾液を嚥下する形になる。自分のものと混ざったそれが溺れそうなほど流れてきて、頭が浮つく。口が、脳が。爛れそうなほど気持ちよくて、どうにかなりそうだった。口の端からくぐもった声がひっきりなしに零れ落ちて、それを拾い上げるみたいに何度もキスを落とされた。
やっとの思いで彼の舌先をちろちろと弱く撫でてみると、驚きながらもそれに応えるように絡んでくる。逃がさないとでも言うように、両手で顔を掴まれた。耳を塞ぐようにしたその手のせいで厭らしい水音が耳にこびりついて、ぼうっとする。意識が、ふらついて。
「ん…はあ、ッ!…は、ふ……」
唇が離れ、肩で息をする相手を見つめる形になった。彼は眉間にしわを寄せて悶々とした顔をしている。耳まで真っ赤なその姿も相まって、思わずかわいい、と呟いていた。あまり納得のいっていないような顔に変わった彼に上から抱きつかれる。
「一緒にがんばろうね、これから」
少しの沈黙の後、彼から放たれた。一緒に、という言葉に安堵した。
「…うん」
ちゃんと出来るようになるまでどれぐらいかかるのか分からない。結果的に身体の相性が合うかどうかも。それでも、他の誰でもない、らっだぁと初めての夜を迎えたいと思えた。
長ェ〜〜!ここまで見てくださった方ありがとうございます、そしてお疲れ様です 初えっちまで書きたいので多分続きます
コメント
2件
すごく好きです…🤦🏻♀️💕天才すぎます…🫶🏻💕💕💕