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⚠️こちらは第6話。第5話はがるぼさんのアカウントにて。
Side kym.
北斗がいなくなったその日、彼の夢を見た。
ああ、さよならを伝えに来てくれたのかな、って。
俺はもうこれからは用事のない、北斗が入院していた病院に来ている。きっと今日が最後になるだろう。
そしてドアをくぐり、あの桜の木の下へ。
少しガヤガヤとした空気。誰かのお見舞いに来ているのか、親の周りを子どもたちが走り回っている。
老夫婦がベンチに並んで座っている。
点滴スタンドを引きながら、女性が病棟からやってくる。
その中心に、桜がある。
花は散りゆき、多くが葉になっていた。
その木は夏を迎える準備を進めている。
季節は巡る。たとえここに、北斗がいなくたって。
空いているベンチに腰掛け、桜が満開だったときのことを想う。
北斗と交わす言葉すべてが愛おしかった。
彼と見る景色、聴く音、全部大切にしたくて。
それでも、やっぱり明日も北斗と笑えることが当たり前だと思ってしまっていた。
いつか行ってしまうことはわかっている。
でもその「いつか」が、遥か彼方に思えてしまう。
明日ありと思う心の仇桜。それが、俺らの間にあるなんて信じられなかった。
風が吹き、枝を揺らす。
薄紅色の花弁が舞う。
それは何かを祝福しているみたいだ。でも、何を?
「北斗。愛してるって、もう一回言ってほしかった」
うなずいてくれる人はいない。
でもそれでいいんだ。答えはわかってるから。
この胸のなかに、あるから。
『愛してる。大我』
右の頬を、一粒の涙が流れていった。Tシャツの首元に小さな染みをつくる。
手の甲で拭って、立ち上がった。
いつまでもくよくよしてちゃいられない。
俺も次の季節へ進まなきゃ。
病院を出るとき、着ているカーディガンの肩口に花びらが一枚載っているのに気づいた。
そうだ。
これは、旅立ちに寄り添う桜だ。
別れも出会いも、それぞれにささやかな彩りを。
もう一度振り返り、見慣れた玄関を目に焼き付ける。
さようなら、
また逢う日まで。
終わり