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数秒の沈黙が残った後、僕は携帯を手に取って2階の窓から飛び出ていく。
「こっちだよ、来いよっ…さとるくん…!!」
「…さと…し?」
「キヒヒ…キヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」
何とか家から出ることに成功した。
…少し足は痛むけど。
さとるくんはちゃんと着いてきているだろうか?
後ろを振り返ると、暗闇の奥から、さとるくんは不気味な笑い声を上げながら、四足歩行で追いかけてきていた。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「…っ、早い!?」
てか、さとるくんってほんとにあんなのかよ!?
思いつきで走っているものの、ここからどうすればいい…!?さとるくんをどうやって倒せば…
…いや、無謀な考えだ。
みこがどこかに逃げ切るだけの時間をまずは稼ぐ。
「…っ、こっちだよ!」
僕は角を何度も曲がったり、障害物の多い場所をできるだけ通る。
さとるくんは僕の後ろをついてくるため、それらに阻まれており、中々追いつけずにいた。
よし…ここをまた曲がって次はーー
「ギヒ…ギヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」
「……なんでここに!?」
角を曲がった先には、さとるくんが僕に余裕を見せつけように待っていた。
「…まさか、跳んだのか…」
あの、障害物を一気に跳んでここまで…驚くべき身体能力だ。
方向を変えてもう一度走り出すが、距離が一気に縮まってしまった。
「くっそ…どうしようどうしよう…」
思考を巡らすが、一向に良い策は思いつかない。
ぐっ…ここまでなのか…!
もう息も続かない…運動不足が体をたたってる…
………カンカンカンカン
走り抜けていると、何か音が聞こえてきた。
この音は…踏切?
…これしかない。
僕はその音のする方向に最後の力を振り絞って駆け抜けていく。
そして、目の前には閉まりかけている踏切が近づいてきていた。
そして…
「間に合………ったぁ!!」
踏切を何とか渡り切って、さとるくんとはレールを挟んだ位置に着いた。
…いやいや、何安心してんだ、僕!?
さとるくんならこの程度、飛び越えられるだろ…くっ、逃げよう!
そう思っていたのだが…
「ギヒ…グウウウウウウウ…」
さとるくんは踏切を飛び越えずにただ、こちらを威嚇するような声を出している。
「なんで…。」
ふと、視線を横に向けると、そこにはお供え物が置かれたお地蔵さんが佇んでいた。
まじか…こういうのって本当に効果あるのかよ。
僕は少し安心して、再度さとるくんの方に目を向ける。
…ん?あのさとるくんの奥側にいる桃色の髪の女の子は…
「…みこ?」
な、なんでここに…まさか心配して探しに来たのか?
「ギィ…?」
僕の様子に気づいたのか、さとるくんは後ろを見る。
まずい、!
「みこ、逃げろ!!」
そう言ったが、その声はみこには届かない。
「ギヒ…ギハハハハハハハ!!!」
さとるくんは体をみこの方に向けて走り出そうとしている。
くそ…どうにかしてこっちに意識を向けさせないと…ああ、やばい…
「…おい、お地蔵さんに何もできない弱虫さとるくん!!こっちに来てみろよ!!!」
「ギヒヒ……。」
「おら、どうした!?でかい体はでかいだけかよ!?僕は女子よりも身長が低い男子高校生だぞ!?」
「ギヒ…。」
「は!…所詮は人も殺せない”雑魚怪異”かよ!?」
「…………。」
あ、やばい。言いすぎた。
「ギヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!?!??」
「ひいいぃ!?」
さとるくんは一直線に僕の方に向かってきた。
後もう少しでその長い手が僕に届きそうになるが、視線はその奥にいく。
サトシ、ニゲテ、!!
みこが何かを叫んでいるようだ。でもなんて言ったんだろうな…。
…ごめん、みこ…。
死を覚悟して僕は目を閉じた。
「ギヒひひひひヒヒーーーギヒャッ
だが、僕にその手が届くことはなかった。
カンカンカン………
踏切は音を止めてゆっくりと上がっていく。
「…幽霊って電車に轢かれるんだ…。」
僕は力無くそう呟いた。
「ばか!!何で1人で無茶するの!?
元々は私のせいなんだから私に全部任せれば良かったじゃん!!…うぅ…」
みこはすぐに駆け寄ってきて、涙目で僕に抱きついてきた。
「み、みこ…落ち着いて……ごめんね。」
「…ううん、私のほうがごめん…こんなことになっちゃって…」
しばらくの間、2人で僕らは身を寄せ合っていた。
普通は男の子がこういうところで女の子を抱きしめるんだろうけど…
僕よりもみこの方が身長高いから僕が覆い被さられている。
「…ん?あいつ……」
ふと、線路の真ん中を見ると、上半身と下半身が真っ二つにされたさとるくんがこちらに顔を向けていた。
「ギ……ギヒ………。」
最後に力尽きたのか、さとるくんはその場で動かなくなる。
…死んだのか?いや、元々死んでるのかもだけど…
「…っ!?みこ、僕の後ろに…!」
「えっ…?」
突然、さとるくんが黒いモヤになった。
辺りは暗いため、また公衆電話の時が思い出される。
咄嗟にみこをお地蔵さんの方に誘導して、僕はそのモヤを見続けた。
しばらくそこにとどまった後、そのモヤはこちらに近づいてくる。
「…来るな!!来るなよ!!」
何度もそう言うが、モヤが止まることはない。
そして、僕の目の前にまでそれは来た。
「………。」
「…………。」
数秒の間、睨み合っているような状態が続く。
すると、その沈黙を破るようにどこからか音が鳴った。
ブーブー
「…携帯…お母さんからだ……、、っ!!」
視線をすぐにモヤの方に戻すが、僕とみこ、そしてお地蔵さん以外、何もいなかった。
まるでさっきまでの出来事が嘘であったかのように…
「…帰ろう、みこ。」
「…うん。」
僕はみことその場を離れた。去る際にお地蔵さんに軽く礼をする。
また今度、お礼参りにこよう…今はただ休みたい…
「んで、なんか遺言あるなら聞くぞ?」
あの後、僕はみこと、家に着いてゆっくり寝ようとしていた。
しかし、それを僕の”母”は許さなかった。
「夜中に女の子連れ回して何してんだごらぁ!!?」
「ひいいいいぃ…ごめんなさいごめんなさい……」
そう、僕の母”柊木 加奈”はバリバリの元ヤンである。
今は元の茶髪に戻っているが、昔は金髪でぶいぶい言わせていたそうだ。
正直、幽霊なんかよりもお母さんの方が怖ーー
「…あ?」
何でもありません、すみませんでした。
「はぁ…理由は聞かねえ、だけどな、聡。」
「は、はい…」
「もし、みこちゃんに悪いことしたら…
ぶっ殺すからな?」
僕は恐怖で震えることしかできなかった。
「お、お母様…聡くんは私の散歩に付き合っていただけなんです!!」
「…そうなの?」
「…へ、あ、うん!そうそう!」
ナイスみこ!!話合わせてくれて助かったー!
僕は思わず安心すると、体の力が抜けてその場にへたれこむ。
「はあ……」
その後、何とかお母さんを説得してご機嫌を直すことに成功した。
みこは迎えに来ていた車に乗せられて家に戻っていく。
さすが金持ち…車の豪華具合が違うな。
お母さんは何も聞かずにいてくれたが、僕の体を心配してくれていたのだろう。
その後はすぐにベッドに入り、息を止めるように眠ってしまった。
あれから、いつもの日常が戻ってきた。
お地蔵さんの場所にはお礼参りでお菓子等を置いて、平和に学校で過ごしている。
「聡、今日はこのオカルトよ!!」
「え、ええー…また僕もやるの?」
「当たり前でしょ、遠慮しないで頼ってって言ったのは聡だし。」
いやまあ言いましたけど…みこ1人であんなのに会ってほしくないし…。
あの日の出来事を僕たちは誰にも話していない。
でも好奇心というのは怖いもので…あんなことにあっても僕らはオカルト好きらしい。
でも、これが平和な日常…なのかもしれないな。
ブーブー
「…ん、電話?ごめん、みこ。ちょっと出てくる。」
「はーい、待ってるね。」
部室を出て、僕はガラケーを開いて画面を見る。
ーー非通7?!¥gf
「…なんだこれ。」
ピッ
「もしもし…?」
『よお、相棒。この前ぶりだな?』