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翌日の昼休み
隷は中庭の片隅、普段誰も近づかない静かな場所で指示された転入生を待った。
やがて指定された場所に一人の少年が現れた。
身長は隷よりもさらに小柄な145cm程度。
黒を基調とした学園の制服に、純白の九尾の狐の仮面を被っている。
仮面の下の表情は一切見えない。
「……お前が守葉狐か」隷は声をかけた。
少年は足を止め、仮面越しに隷を見つめた。
その仮面が冷たい、無機質な目線を感じさせた。
「……其方が生徒会長殿か。随分と、背丈は控えめなのだな」
守葉狐の声は隷とは違ったような、氷の破片のように鋭く冷たい。
「余計な口を利くな、仮面野郎。俺は氷室隷。今日からお前の世話係だ。馴れ合うつもりはない。俺の指示に従え。規律を破れば容赦しない」
守葉はゆっくりと首を傾げた。
「命令とは随分な物言いだ。して、その『規律』とやらで、俺の冷たさまで縛れるのか」
隷の瞳が一瞬細くなった。
この転入生は、自分の冷酷さをまるで鏡のように映し返してくる。
「縛れるさ。俺の『*厳格な躾*』は、お前の薄っぺらい冷たさとは格が違う。まずその仮面を外せ。規律に例外はない」
「それは無理な相談だ。俺の全てを封じ込めた呪いのような仮面だ。俺にはこれが必要なのだ」
守葉はそこで言葉を区切ったが、その過去のトラウマが理由だとは、決して隷に明かさなかった。
「ふん。勝手にトラウマでも何でも抱えていろ。だが、規律は規律だ」
隷が右手を軽く上げると彼の周囲の空間から微細な氷の粒子が立ち上り始めた。
氷結魔法。彼の得意とする魔法だ。
「仮面を外さないなら、お前の全身を氷漬けにする。俺の規律を守らない者には、それが相応しい末路だ」
守葉は動じなかった。
代わりに彼の足元から、黒く濁った霧のような魔力が立ち昇った。
「面白い。試してみるが良い。俺の闇の従者が、其方の冷たさを喰らい尽くす」
二人の間に、目に見えない強烈な魔力の衝突が起こった。
クロノス学園史上、最も冷たい二人の少年の戦いが、今、始まった。
「いいか、狐。これはお前を躾けるための、俺の最初の課題だ」
「望むところだ、氷狼。俺の*信念*は、其方の想像より遥かに深い」
彼らの周囲の空気は凍りつき、まるで二つの絶対零度の星が互いに引かれ合い、同時に反発し合っているかのようだった。