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これは、一年生の時、「桃時」、「兎白」たちが、付き合うまでの話である。

桃時「…………どうすれば良いかしら」

???「どったの?桃時ちゃん。なんか雰囲気辛そうだけど」

桃時「雨花……」


桃時に、話しかけたのは「雨花」である。


桃時「いや、別に……」

雨花「言いたくないなら言わなくて良いけど、別に冷やかしたりしないよ」


桃時は、雨花をみつめる。雨花の目は相変わらず真っ暗な闇のような目をしているが、真っ直ぐ桃時をみている。


桃時「じゃあ言うけど……その……兎白……って……好きなタイプとか……あるのかしら」

雨花「兎白くん?うーん恋愛話したことないから分かんないなぁ。桃時ちゃん、兎白くんのこと好きなんだね!」

桃時「ばっ……!……っそうよ!好きよ!尋常じゃないくらいね!」

雨花「いやそこまで聴いてないけど、そっか!兎白くんのどういうところが好きなの?」

桃時「え?!……その……友達想いなところとか、天然なところとか、努力家なところとか、それから……」


「「誰にでも分け隔てなく……接する……ところ……とか」」


雨花「…………」


それは

桃時ちゃんにとっては

悲しい長所だね


桃時「兎白って長い付き合いになるけど、こんなにアタシそのものを受け止めてくれる人って初めてなの。だから好きになったんだと想う。だから、兎白くんのこと諦めたくない。唯一好きになれた、出逢えた男の子だから、兎白が一番大切だから……!」


桃時は、目をつぶって顔を赤める。


雨花「あはは!純愛だなぁ。じゃあまずは異性としてみてもらえるようにしないとだから……お弁当でも作ってあげたら?」

桃時「でも、お弁当なんていつどうやって作るの?」

雨花「兎白くん、剣道部でしょ?部活が終わったらお腹空いてるはず。そこに桃時ちゃんがお弁当を用意して持っていったら喜んでくれるんじゃない?」

桃時「そうね、やってみるわ!でも一つ問題がある」

雨花「なぁに?」

桃時「アタシ料理したことない」

雨花「…………一緒にやろう。それしかない」


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「お前一年生なのに俺たち二年生より剣道上手いなぁ」「俺達も追い抜かされないよう頑張らねぇとな」「お前には参っちゃうよ」「こういう時に応援してくれる彼女とか欲しいな〜」


「そういえば、兎白、お前彼女いないのか?」

兎白「いませんよ。でも……」


《はぁ?何でそんな仲間はずれしなくちゃいけないの?あんたこの常闇女の唯一の友達なんでしょ?アタシも仲良くしたいわ》


何の見返りも何の策略もなく

そして同情でもなく

純粋に仲良くされたのは

あれが初めてだ

雨花はどちらかと言うと

心配の方が勝る

だから「そういう目」でみれない

しかし

桃時は……


兎白「すみません。やっぱり何でもないです」

「そうか?よし。最後のウォーミングアップだ。やるぞ!」


「「おぉ!!」」


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「ふぅ!終わった!」「でも帰ったら宿題が待ってる……はぁ」「まぁまぁやるしかねぇよ」「そうだなぁ、あぁせめて可愛い彼女が応援しに来てくれたらなぁ」


剣道部の部員たちは項垂れている。兎白も帰る準備をしていた。その時……


???「ちょっと兎白いる?」

兎白「ん?桃時。どうしたんだ?」


格技場にやってきたのは、桃時だった。


桃時「あんたに渡すものがあんのよ」

兎白「渡すもの?」


周りがニヤニヤしながら桃時と兎白をみている。


兎白「場所移すか」

桃時「アタシは別にどこでも良いけど」

兎白「いや……何となく……」


「「桃時が俺のために用意してくれたものを他の奴らにみせるのは嫌だ」」


桃時「…………は!?」

兎白「どうしたんだ?行くぞ」

桃時「え、えぇ……」


それから、桃時と兎白は移動した。



桃時「はいこれ」

兎白「これは……お弁当か?」

桃時「そうよ。美味しくなかったら美味しくないって言ってくれれば良いから」

兎白「頂きます」


兎白はお弁当を食べる。


兎白「うん。美味い」

桃時「え?!本当に?気なんて使わなくて……」

兎白「気なんて使ってない。沢山努力したんだなって感じられる味だった」

桃時「そ、そう?また作ってあげても良いけど?」

兎白「あぁ、ぜひ頼む」

桃時「うふふっ、分かったわ」


それからも兎白が部活が終わる度に、学園の中庭にある大きな木の前でお弁当を桃時が渡して、兎白が食べるそんなことが何週間が続いた。


雨花「へぇ〜そうなんだ〜」

桃時「アタシが作ったご飯をいつも食べてくれるの!絶対美味しくないのに嫌な顔一つせず、食べてくれるのよ!なんであんなに優しいのかしら!…………」


アタシだけにあの優しさを

向けてくれたら良いのに


その気持ちを知ってか知らずか雨花は告げた。


雨花「わたしは恋愛についてど素人だからアドバイスはできないけど、桃時ちゃんのお弁当を美味しく食べてくれるのは、美味しいからじゃなくて、桃時ちゃんだからじゃないかな?だから、桃時ちゃんと一緒に食べてるんだろうし。だってー度持ち帰って食べることもできるでしょ?」

桃時「そ、そうなのかしら……」


《桃時が俺のために用意してくれたものを他の奴らにみせるのは嫌だ》


桃時「…………」


兎白はアタシのこと

どう想ってくれてるのかしら


数日後


雨花「へぇ〜そうなんだ〜」

兎白「桃時が作るお弁当は、本当に美味しいんだ。なんというか温もりがあるというか、毎回持ってきてくれて本当に感謝している。どうしてあんなに優しいんだろうな。桃時は。…………」


俺だけにあの優しさを

向けてくれたら良いのに


雨花「…………あはっ」

兎白「どうしたんだ?」

雨花「いや、同じ顔してるなって想って」

兎白「同じ顔?」

雨花「いやぁ何でもない。桃時ちゃんと付き合いたいとか想わないの?」

兎白「でも、桃時は誰にでも優しいだろ?それを勘違いして告白するなんておこがましいというか……」


いやこんなの

ただの言い訳だ

本当は……


雨花「振られるが嫌なんじゃない?」

兎白「!」

雨花「あっ勘違いだったらごめんね。でも、兎白くん桃時ちゃんのこと好きなら伝えてみても良いんじゃないかな。桃時ちゃんがお弁当作ってる相手は兎白くんだけなんだし」

兎白「そ、そうなのか?」

雨花「伝えてみるのもありなんじゃない?気持ちってさ。伝えても分かって貰えないこともある不思議な存在なんだよね。でも、それでも、伝えるしかない。自分自身が諦めて疲れるまで、伝え続けるしかない。そうしないと自分の心意気はずっと渦巻いて底にあり続けるだけ。気持ちは決して理解されることは出来ないけど、それでも伝え続けなくちゃいけない」


「それに」


雨花「兎白くんの気持ちを桃時ちゃんが蔑ろにすると思う?」

兎白「……分かった。俺、伝えてみる」

雨花「うん。行ってらっしゃい」


兎白は決心したのだった。


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兎白「桃時」

桃時「兎白」


二人はいつもの中庭の木の前でそれぞれ想いを示す。


桃時・兎白「言いたいことがあるの・んだ!!」


桃時「えっとぉ……」

兎白「先、良いぞ」

桃時「ありがとう。その、アタシ……」


「「好きな人がいるの」」


兎白「…………え」

桃時「そ、その人に告白しようか迷ってるんだけど、どうやって告白するべきか迷ってて……どうすれば良いかしら?」

兎白「…………そうか」


兎白は押し黙る。そして……


兎白「俺には恋愛のことは分からない。でも……」


「「応援するよ」」


桃時「…………応援……するんだ」

兎白「え?」

桃時「……ううん!何でもないわ!ありがとう!」


桃時は走り去ってしまった。


兎白「…………」


《兎白くん桃時ちゃんのこと好きなら伝えてみても良いんじゃないかな。桃時ちゃんがお弁当作ってる相手は兎白くんだけなんだし》


兎白「…………っ!」


兎白は、桃時を追いかける。


追いかけると、靴箱で帰ろうとしていた桃時をみつけた。


兎白「待ってくれ!!桃時!!」

桃時「…………何?」


桃時は振り返らない。


兎白「俺は……俺は……!鈍感ですぐには気づけなかった!お前が俺の気持ちを確かめようとしたんだって!でも、でも!俺はそういうのは分からない!すまないが分からないんだ。でも、これだけは分かる。俺は……!」


すると桃時が振り返って、兎白に向き直る。


桃時「好きよ!兎白!」

兎白「!」

桃時「ずるいことしてごめんなさい。言い訳だけどアタシは人に好かれたことがあんまりない。だからどうしても確かめたかった。ごめんなさい。だからアタシから言うわ。兎白。」


「「好きです。大好きです。だから……付き合って下さい」」


桃時も兎白も顔が梅干しのように真っ赤だ。そして……


兎白「こちらこそお願いします」


そう言った瞬間、兎白は桃時を抱き寄せた。


桃時「……ありがとう」


桃時は少し泣きながら、兎白にしがみついた。


雨花「良かったね。二人とも」


そんな二人をみ守りながら、ふすっと笑う人影が一人いた。


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「なぁみろよ」「え!めっちゃかっこいい」「あんな人いたっけ?」「いやあいつ……」


「「兎白じゃん」」


兎白「…………」


数週間前


雨花「兎白くん!桃時ちゃん!おめでとう!」

桃時「////……うん」

兎白「ありがとう。雨花」

雨花「ねぇ……兎白くん。兎白くんさぁ。隠してるけど顔面偏差値高いよね」

桃時「それはアタシも想ったわ」

兎白「……あまり悪目立ちはしたくない。それに……俺は……」


《お前はここに来んな!》《お前気持ち悪い》《お前なんて死ねば良い》《さっさと家に帰れ》


兎白は塞ぎ込む。


雨花「兎白くんは頑張ったんだね」

兎白「え」

雨花「確かに学校とか組織の中って、容姿や能力に横槍入れてくるけど、でも、その時は一旦休憩するの。休憩できないなら、とにかく譲らないこと。自分の感情、気持ちを他人に譲らないこと。ちゃんと自分のものは自分で動かすの。……そうしないと無思考の家畜になっちゃう。兎白くんは、今のやり方だと他人に自分の気持ちを譲ることになる。自分のしたいことを制限しながら生きていったら、心が壊れちゃう。だから、兎白くん、どうかもう譲るのはやめてほしい。どうかな?」

桃時「兎白はもう充分頑張ったのよ」

兎白「……ぐずっ…………うん」


兎白は、背中を桃時にさすられ、頭を雨花に撫でられた。


そして現在


兎白「(みんなこっちをみてるなぁ。容姿だけでこんなんじゃ成績が……)」


学年末テスト成績発表


「え!一位になってるのって……」「まさかあいつ?」「めっちゃ地味じゃなかったけ?」「あいつだあいつ……」


兎白は一位になっている自分の名前をみて、焦りと嬉しさが混ざり合い、汗が止まらなくなっていた。


兎白「(や、やっぱり……)」


「なぁお前……」


兎白「(やめてくれ……もう……)」


兎白は固く目を瞑る。しかし、


「お前すげぇんだな!!」

兎白「え」

「兎白くん!めちゃくちゃ頭良いんだね!」

「こんなにしかもかっこいいなんて知らなかったぜ」

「瞳の色も綺麗だな」

「前々から話しかけようとは想ってたんだけど、お前いつも話しかけづらかったから俺ら話しかけられなかったけど、今のお前も良いな!」

兎白「……そ、そうか?」

「「うん!」」


兎白は生徒たちに囲まれている。


桃時「もう何なのよ。ずっと空気みたいに兎白のこと扱ってたくせに……しかも女まで……ふん!」

雨花「でも兎白くん。楽しそうだよ!少し戸惑ってるけど……あはっ!」

桃時「ふん!……うふふっ」


兎白の周りには、人が集っている。それを怒りながらも笑う桃時と、微笑む雨花がいた。

そんな二人の髪を軽い風が少し揺らした。

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