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「うむ。仕方ない! 皆、異論は無いな!」
偉そうに仁王立ちにしている部長を、副部長は早業で水着を脱がすとプールへ蹴り落とした。
どうやら俺と副部長を間違えて痴漢した事をまだ怒ってるらしい。
副部長はうつ伏せに浮かんだ部長と、部長の汚い桃を見下ろしながら、1年に手拍子をするように右手で合図する。
「はい、部長。背・泳・ぎ! せ!お!よ!ぎ!」
鬼だ。
水着も履いてない部長を背泳ぎさせようとしてる。
ホモじゃない俺は色々見たくない。
背泳ぎコールが響く中、突然右手を捕まれた。
「十夜!」
「……夏樹」
「俺はお前が好きなんだ。嫌わないでくれよ。お前も」
――お前も俺を好きだろ?
「は?」
何を夏樹は言ってるんだ。
「好きだから、眠ってくれてたんだろ。好きだから、ホモ部なのも知らないふり、してくれていたんだろ?」
「馬鹿な事を」
「ちゃんと認めろよ」
夏の暑い日差しと、蝉の声。
それと部長への背泳ぎコールが響く中。
夏樹の声と熱い眼差しだけが俺の心の中に浸透していく。
「それ以上言ったら殴る」
「殴れよ」
夏樹は一歩も引かなかった。
「友達に戻れなくてもいい」
「最初からお前は俺を友達なんて思ってなかったんだろ」
俺の冷たい言葉に、気まずげに夏樹が視線を反らした。
それは図星だと言ってるようなものだ。
「あのさ、その」
どう言えば伝わるか分からないが、
「うん」
「俺、巨乳が好きだし、女と付き合いたいし、ホモじゃねぇ」
「知ってる。それでもいい」
「あと寝てる時しかキスできないような情けない男も好きじゃない」
「分かった。ところ構わずキスするよ」
「するな。馬鹿」
全然分かってない夏樹の頭を容赦なく叩く。
でも、まぁ。
正面切ってキスできない夏樹に意地悪というか仕返しだけはしてやりたい。
「結局、痴漢が誰か分からないままなんだ」
それは、いつかバレてしまう嘘。
「だから犯人が見つかるまで、電車ではボディガード続けろよ」
「……それって俺の身体だけ目当てか」
「もしかしたらお前が犯人かもしれないしな」
フンッと睨むと夏樹は悲しげに目を揺らした。
いつかバレるとしても、バレた時は、俺も自分の気持ちに決着をつけなければいけない。
夏樹の人懐こい笑顔や、
不機嫌な時の三日月みたいな目付きや、
泳ぐときの真剣な顔、ピリピリした空気で人を近づけない様子とか、
――近づきたいって俺も練習していたんだ。
「あーあ。マジかぁ」
自覚はしたくないしやっぱ女が好きなんだけど。
この気持ちに名前をつけるとしたら、
今度はちゃんと俺が起きてる時にキスしたら、だ。
「取り合えず、込む前に帰るか」
なんか色々今日は疲れた。
「え、部長たちは?」
「ほっとけ」
嫌がらせが今日から止むんだから、ヨシとしよう。
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