喉の渇きを覚えて目が覚めて、時計を見ると午前2時をちょっと過ぎたところだった。隣にはmfくんがお手本のように綺麗な寝相で横たわっている。しばらくその顔を幸せな気持ちで眺めてから俺はキッチンに水を取りに行くためにそっとベッドから降りた。
「…dn…?」
ドアノブに手をかけた時に名前を呼ばれて振り返ると、眠そうに目を擦りながらmfくんがこちらを見ていた。いつもとは違う幼いあどけない雰囲気に俺は庇護欲のようなものに駆られて彼の元に近づいた。可愛い可愛い俺の彼氏さん。
「…dnどっか行くの?」
「喉乾いたからキッチンで水飲んでくるね、mfくんもいる?」
「…そっか、俺はいらない…」
「すぐ戻ってくるからmfくん寝てていいよ」
そう言うとmfくんは俺を見つめた後小さく頷いた。その仕草にじわじわと笑顔になるのを止められない。あまりの愛らしさに思わず頭を撫でちゃいたいくらいだ。行ってきます、と彼に伝えてキッチンに向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、その場でコップ一杯飲み干し、俺はあの日のことを思い出していた。
俺の独りよがりな考えでmfくんから離れようとした日。それを彼は許さず俺を離さないでいてくれたこと。あんな風に無理やり身体を開かれたこと。
『mfくんは気付いてるのかな、あの日からずっと俺の気配に敏感になってること』
あの一件からmfくんには俺にしか分からないような変化があった。いつでも俺がどこにいて何をしているか無意識に確認するんだ。そして姿が見えないとたとえシェアハウス内でも俺のことを探しにきてくれる。あんなに知性的で冷静なmfくんをそうさせたのが俺だという事実がどうしようもなく嬉しい。じわじわ笑顔になって、きっと今俺はとても恐ろしい顔をしているんだと思う。あの日mfくんに噛まれた跡がジクジクと熱を持ちだして、俺は熱を逃すためにゆっくりと溜息を吐いた。痛々しかった傷は今や瘡蓋になり、自然に剥がれて綺麗さっぱり消え去るのをじっと待っている。
『まぁ、そんなの許さないけど。』
明日にでも愛し合って、お互いの肩口にある傷跡を上書きするようにmfくんにお願いしよう。彼は戸惑いながらも了承してくれるだろう。この傷跡はきっとお互いを縛りつける呪いになってくれるんだ。
『可哀想なmfくん、俺から逃げるラストチャンスだったのにね』
俺は空になったグラスをシンクに置いて、寝ずに俺を待っているだろう愛しい人の元に向かった。