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「ハルハル達おひさ~!」
「いや、一週間ぶりだろ。久しぶりってほどでもねえ」
あっという間に週末が訪れ、俺と神津は待ち合わせのヘリポートに来ていた。といっても、そこは颯佐の家の所有地である為、待ち合わせというか呼び出されたというか。まあその表し方はどうでもいいのだが、颯佐は「久しぶりって挨拶みたいなもんだよ」とよく分からないことをいって、にへらっと笑っていた。その隣には、仕事着なのか、茶色のスーツに、くすんだ水色のシャツを着た高嶺がおり、仕事終わりなのかと、それとも以下から仕事なのかと疑いたくなるような格好をしていた。
「高嶺、お前その格好……」
「何だよ、明智。別に俺が何着ていたって良いだろうが」
「仕事着だろ、それ」
そういえば、高嶺は否定するわけでもなく「ああ」と短く答えたが、その後に「言いたくはねえが」と口ごもりながらしゃべり出した。
「ここに来る途中パトが何台も出動しててな、また呼び出し喰らって家もどんの面倒だからっつうことで」
と、ひらひらと手を振った。
それはまた、物騒で。と思いつつ、あまり考えないようにした。こういってはいけないが、日常茶飯事である。
「つか、それ言うなら明智だって同じような格好してんじゃねえか。喪服かよそれ」
高嶺は自分の格好を突っ込まれたことを根に持っているのか、俺の服を指さして悪態をつく。
俺は、今日も懲りずに黒スーツに身を包んでいた。
仕事着でもあるが、日常的に着ているというか、服が無い為もあるが、黒が落ち着くっていうのもあった。勿論、父親の数少ない遺品であるこれを着ていることは、父親への敬意だったり、悼む気持ちもある。
生前、目標にしながらもあまり喋れなかった父親にいろんな景色を見せてやりたいという気持ちも含まれているが。
俺は高嶺に喪服と言われ、全くその通りだと一人笑っていると、高嶺は苛立ったように「何笑ってんだよ」と胸倉を掴む勢いで身体を乗り出したため、俺は両手を挙げて降参の意を示す。
「お前の言うとおりだよ。これは喪服だ。それに、これを着ていることに馴染んじまってな」
「そ、そうかよ……何か悪いこと聞いた気がする」
と、高嶺は珍しく謝った。
そういえば、高嶺も俺の父親が俺が警察学校卒業時に死んだことを知っている為、あまり酷いことは言えないと思ったのだろう。死人には口なしだが、亡くなった人のことを悪く言うのは違う気がすると、さすがにわきまえているらしい。
そんな風に、早々に空気を悪くしてしまったため、俺は申し訳ない気持ちで颯佐と神津を見た。楽しみにしていたこの二人に何だか悪い気がしたのだ。
だが、二人は気にする様子はなく、颯佐はポンと手を叩いて「じゃあ、早速乗ろうよ」と、後ろで存在感を放っていた白を基調としたボディに青い線が入ったようなヘリコプターを指さした。
「あっ、勿論運転はオレで、じいちゃんの許可も取ってるから問題ナッシング~今日は貸し切りだよ」
と、颯佐は可愛らしくウインクをする。
日曜日だというのに、貸し切りでいいのかと颯佐の家の経営の事を考えたが、颯佐が言うなら乗せてもらう身の俺たちが口出しするのは間違っている気がして、オレはお言葉に甘えて、ヘリコプターに乗せてもらうことにした。
颯佐が先に乗り込み、その隣に高嶺。俺たちは後部座席に座ることになったのだが、一回で上手く登れず、俺が手こずっていると神津がスッと手を伸した。
「ほら、春ちゃん捕まって」
「お、おう。ありがとな」
グッと上に引っ張られ、何とかヘリに乗り込むことが出来た。それを高嶺にちゃかされたが、俺は無視を決め込みもう一度神津に感謝をのべる。
全員が乗り込んだところで、颯佐は操縦桿を握った。
その瞬間、ふわっと体が浮く感覚に襲われ、思わず俺は窓の外を見てしまう。
「うお! すげえ!」
俺は感動し、つい声に出してしまう。
その様子を見て、神津はクスクスと笑っていたが、そんなことが気にならないぐらいに感動していた。空の上から見る景色というのは息をのむぐらい絶景で、人はおろか建物すらミニチュアに見えてしまう。ここが、大半が山に囲まれた場所にあるため、見えるのは山ばかりだったが、遠くを見れば俺たちが住んでいるマンションも見え、テンションが上がってしまう。
「ユキユキはどう? 楽しんでくれてる?」
「うん、とっても」
「いや、お前ずっと明智の方見てんだろ」
と、横から口を挟まれたが、神津は颯佐の言葉にだけ反応し、高嶺の言葉には何も返さなかった。高嶺が小さく舌打ちをしたのが聞え、いつもの事かと思いつつも、高嶺も高嶺で神津の事をあまり好いていないのではないかと思ってしまった。別に今はそんなことどうでもいいが。
それにしても、プロペラ音が凄いなと当たり前といったら当たり前の事を思ってしまい、燃料切れや、機体の不備で落ちないか縁起でもない心配をしていれば、それに気づいた颯佐が「落ちないよ、心配しないで」といってくれた。心でも読んだのかと驚いたが、よく考えれば顔に出てたかもしれないと思い、俺は苦笑いを浮かべてしまった。
「それに、この機体には最新の技術が搭載されていてね、GPSとか、レーダー、あと、何よりすごいのは自動制御機能がついているんだよ。だから、安心安全に飛ばせるってわけ」
「いや、よく分かんねえけど凄えな」
「それは、分かってないって言うんだよ。ハルハル」
そういう颯佐はまんざらでもないといった感じに笑っていた。
初のフライトと言うこともあって過度に心配しすぎていたと、友人を信頼していないわけではないが、何だか申し訳なく思った。それでも、颯佐は嫌な顔せずに鼻歌交じりでヘリを操縦するものだから、彼の楽観的な性格というか何事も気にしないマイペースな性格が羨ましくも思う。
「それに、オレは父さんみたいに誰かに恨まれてないし……」
ぼそりと颯佐が何かを呟いたが、俺は聞き取れず聞き返そうとすれば、高嶺がいきなり後ろを向いて睨んできたため少し萎縮してしまった。まるで、聞くなとでも言うようなその態度に、俺は違和感を覚える。高嶺は隣にいたわけだし何を言ったか聞えているんだろうと思い、俺はそんな人殺しみたいな目で見られたら何も言えないと、隣の神津を見た。
神津は、そんなこと気にも留める様子なく窓の外の景色を眺めていた。楽しみにしていたというだけあって、神津の顔はいつも以上に緩んでおり、彼の三つ編みが心なしか揺れているようだった。
(すげえ、気になる)
俺は、目の前で揺れる三つ編みが気になって仕方なく手を伸ばそうとした瞬間「ああ!」と颯佐が大きな声を上げたため、肩を大きく上下に動かし、その場で固まってしまった。
「な、何だよ、颯佐。大きな声出して」
「い、いやあ……あー、面倒くさいことになったなあと思って」
と、颯佐は本気で面倒な事になったと言わんばかりに、下を見るよう俺たちを促した。
一体何があるのかと思えば、先ほど俺たちがいたヘリポート近くにパトカーが何台か入ってくるのが見え、先頭を走っていた、否追われていた車から二人の人間が出てきた。
「何だあれ……ここからじゃ、よく見えねえ」
パトカーに追いかけられていた車がヘリポート近くで止め、車から誰かが出てきたのは見えたが、それ以上俺の目では情報をすくえずにいた。如何せん、地上と上空では少し距離がありすぎる。
よくも、颯佐は見つけられたと感心する。
(ヘリの操縦者って、目がいいって聞くしな……)
免許を取る際にも視力の良さは必須条件だった気がするし……と、思い出しつつ、今はそれどころじゃないと、颯佐の方を見る。いつもは温厚な颯佐は少し苛立ったように「あー」、「う~ん」と頭を悩ませており、カッカッと、ハンドルに爪を立てていてた。
「ミオミオ、電話」
「マジか……いやあ~な予感がするなあ」
と、高嶺は颯佐に言われスマホを取り出せば、スピーカーにしていないのに彼のスマホ越しから後部座席にいる俺たちにも聞えるぐらい大きな怒声が聞えてきた。
高嶺は耳を押さえつつ、スマホを落とさないように右肩と耳で押さえ、何やらメモを取り出した。その様子からするに、下で起きている事件と、高嶺の電話の相手が繋がっていると言うことが分かった。事件だ。大方、上司に呼び出されたのであろう。
「はい、はい。分かりました。今すぐ向かいます」
そう丁寧に答え、スマホを切ると高嶺は「はあ~」と大きなため息をついた。それにつられて、隣で操縦しているため息をついた。その溜息はシンクロし、二人して肩を落とす。
一体どうしたのかと、不思議に思っていれば隣に座っていた神津が「人質」と言葉を発した。
「人質?」
「そうだよね?みお君。電話の相手は、多分君の上司で、今下で起っているのは、人質を取った犯人が逃亡手段にヘリコプターを用いろうとしている」
と、神津はすらすらと話した。
俺には、高嶺の携帯からは「おい、高嶺ー!今どこにいるんだ!?」という怒声しか聞えてこなかったが、神津の耳にはその後の会話も聞えていたようで下で起っている事件を把握しているらしい。多分、それだけで全てを理解したわけじゃないだろうが、洞察力と頭の回転は相変わらず速いなあと感心する。
(そういえば、絶対音感持ちで耳もすげえいいんだった)
神津の前で小言など言えば、全て拾われてしまうなと、俺は口をつぐんだ。そんなことを思っているうちに、今度は颯佐が口を開く。
「もう、せっかく人が気持ちよく飛んでるって言うのにさ。何?逃亡手段にヘリコプターって?オレに操縦しろって?嫌だね、嫌だ。あーもう、ほんと最悪」
颯佐は、苦労して作った作品を台無しにされて怒っている子供のようにぐちぐちと文句を言いつつ、「ミオミオ」と高嶺の名前を呼ぶ。
「どーせ、何やっても今日は報告書作成だよ。もう無理、最悪!ほんと、今日みたいなフライト日和滅多にないのに!」
「落ち着け、空。俺もきっと、同じだから、な?」
と、いつもとは逆に高嶺が颯佐を宥めて、ようやく彼は落ち着きを取り戻した。そんな様子を見て、神津と俺は顔を見合わせた。
(報告書……何か、俺たちも巻き込まれたな、これ)
「春ちゃんどうしたの?」
「いーや、何か厄日だなあと思って」
そういう俺の言葉の意味が理解できていないような神津は首を傾げる。
神津にも悪いし、確かに、せっかくの四人でのフライト中事件に巻き込まれるのは勘弁して欲しいし、犯人は許さねえと思った。それは、颯佐や高嶺と同じ気持ちだ。最も、颯佐の方が苛立っているのだろうが、神津がいるときにこんな訳の分からない事件に巻き込まれるのは腹が立つ。だが、起ってしまったものは仕方がないため、解決の手助けが出来るならしようとも思う。
「それで、颯佐どうなってんだよ。下は」
「何か、銀行強盗で、職員を人質にとって車で逃亡。そして、ヘリコプターを使って逃亡する予定らしくて、下ではその職員にナイフを突きつけて、警察を自分に近づけさせないようにしてるって。まあ、人質取られていたら、人質の安全優先だろうし警察も下手に手、出せないだろうね」
「今日は、銀行強盗か。ほんと、空、明智の言うとおり厄日過ぎて笑えてくるな」
「笑い事じゃないよ!」
颯佐はそう怒鳴ると、もう一度深いため息をついた。
先ほどよりも、ハンドルにぶつける爪の音が早くなっている気がする。
「帰ったら、報告書……」
「わーってるって。付合ってやるから、元気出せよ」
と、高嶺は颯佐を励ました。
そして、高嶺がこちらをちらりと見てにやっと笑ったため、俺はようやく全て理解できた。だが、正気か? とも久しぶりなため、思ってしまう。やると決めたら、やる性格の高嶺なので、止めることは出来ないが。
「ハルハル、ユキユキ、ほんっとうにごめん。こんなことになっちゃって……って、謝るのはオレじゃないか。あの銀行強盗を捕まえて縛り上げて、オレ達の前で土下座させるまで許せない。土下座したって許さないけど!」
颯佐はそう言うと、ハンドルを切って、降下を始める。いきなりぐわんと機体が揺れたため、俺は神津の方に倒れ込み、ギュッと彼に抱きしめられた。
「春ちゃん、これから一体何が始まるの?」
「あ、ああ……あー、こいつらのワンマンショー?」
俺は、どう表現すればいいのか分からずそう口にしたが、さすがの神津でも理解できないのかクエスチョンマークを沢山浮べていた。
これは、きっと俺も巻き込まれる。
「ミオミオ、もう少し下がったらお願いできる?」
「おうよ! 任せとけ!」
二人は、目配せしニヤリと口角を上げた。
先ほどまで怒っていた颯佐も、何処か楽しげで、犯人を懲らしめてやるぞーと言う気が伺え、きっと作戦は成功するだろうなと俺は思った。
そうして、地上との距離が縮まり、ようやく銀行強盗の顔が見え、犯人の男は自分の思い通りになっていると高笑いしていた。情報通り、ヘリコプターで逃げる算段だったらしい。だが、思い通りになるはずがない。
「じゃあ、ミオミオよろしく」
「おう、んじゃまあ、いってくるわ」
「え、え、み、みお君!?」
ガッとヘリコプターの扉を開けた高嶺に神津は信じられないと立ち上がったが、颯佐に「ユキユキは座ってて」と強く言われ、訳が分からない神津は口をパクパクと動かしていた。
距離が大分縮まったとは言え、まだ上空。そして、地面との距離はかなりある。だが、高嶺はそんなことを気にする様子もなく、勢いよくヘリコプターから飛び降りた。
「ちょ、ちょっと、ここまだ――!」
神津の制止など耳に入っていない、入っていたとしも聞く様子など微塵もない高嶺はヘリコプターから飛び降り、そのまま犯人の真上に落下し、犯人である男の顔に跳び蹴りを食らわせた。人質に囚われていた女性の従業員はその場に倒れ、這いつくばりながら犯人から距離を取ると、警察に無事保護された。
その間は僅か数秒といったところだろうか。
「え、ええ……」
「ざまあみろ!」
俺の隣で、口を開けたまま未だ何が起きたのか信じられないという神津は、目の前の光景を見て固まっている。
そんな神津とは対照的に、してやったりと、操縦席では颯佐が高笑いしていた。
温度差が激しくて火傷しそうだと思いつつも、さすが高嶺だと頭が上がらなかった。
「ちょっと、春ちゃん、ど、どういうこと?」
「高嶺にしか出来ない芸当だな。彼奴なら、この高さでも大丈夫だろって」
「い、いいい、いや! 骨折れるでしょ、普通。みお君って本当に人間? そうじゃなくても、あの犯人、死んでない?」
と、別に気にする必要もないだろうが、驚きすぎて犯人の心配までする神津に俺は笑えてきてしまった。
確かに、普通ならこの高さから落ちればただではすまないだろう。全身打撲か、最悪死ぬだろう。だが、高嶺なら出来ると思っていた。現に、二階から飛び降りても無傷な男で、馬鹿をやって三階から飛び降りて(まあ、下がクッションだったり、最後らへんに何かに捕まったりはしていたが)いた男な為、これぐらいでは骨など折れないだろうと思っていた。元より、骨は丈夫で、趣味がパルクールという男だ。そんな柔じゃない。
それを俺も颯佐も分かっているからこそ、頼りになるであろう高嶺に犯人逮捕にいかせたのだ。
勿論、操縦できるのは颯佐しかいないし、近付きすぎても人質まで傷つける可能性もある。また、そんなに近くまでヘリを寄せることは出来なかった。そこは、颯佐の操縦の腕の見せ所であった。遠すぎず、近すぎず。その微妙なラインで降下し、高嶺が飛び降りても大丈夫な範囲、そして高嶺がちょうど犯人に届く距離までヘリを動かしたのだ。
すこしでも遠ければ、人質がどうなるか分からないし、高ければ高嶺の身体が危ない。
やはり、颯佐は凄いと思う。
「颯佐も高嶺も相変わらず凄えな。ほんと、よく連携が取れてる」
「ふふ~ん。そりゃ勿論。言葉もいらない関係だから」
と、颯佐は誇らしげにいった。
何だか羨ましいと素直に思った。
高嶺と颯佐は醤油を取ってと言わずとも、取り合えるほどの関係で、颯佐の言うとおり言葉などいらない関係だ。それぐらい、以心伝心していれば……俺も神津もそうなら。と少し思ってしまったのだ。
それにしても、何故だろう。
事件を解決しているはずなのに、どこか違和感があった。胸騒ぎがした。
そうして、下を見てみれば、犯人はまだ確保されておらず、今度はナイフではなく、高嶺に向かって拳銃を突きつけていた。高嶺は、後ろに拳銃の存在を感じつつ両手を上げて片膝をついていた。先ほどのドロップキックを食らってもまだ意識があるのかと、犯人のしつこさと頑丈さに少しばかり感心しつつ、不味い状況なんじゃないかと思った。
高嶺は、犯人確保より人質の安全を優先したのだろう。その結果、犯人が隠し持っていた拳銃に気づかなかったというわけだ。
警察も、今度は高嶺が人質に取られ身動きが出来ないようだった。犯人は動くなー!と大声を張っている。
「颯佐」
「どーしよ、ハルハル。ミオミオが!」
と、颯佐は声を上げるが、どうもわざとらしく、今度は俺の番だとでも言わんばかりに俺に視線を送ってきた。ヘリを一定の距離で保ちつつ、開けっ放しの扉からは中に向かって風が吹き込んでくる。
「次は、俺だと?」
「だって、ハルハルにしか、頼めないじゃん。あ、そういえば、拳銃持ってる? 俺は今未所持」
と、颯佐は俺に確認してくる。
まあ、一応あるが、あまり使いたくはない。というより、警察がいる前であまり使いたくはない。
例え、警視庁から認められた拳銃所持者であってもだ。
だが、友人のピンチとあれば、使わない理由もない。
俺は、ため息をついた後、深く深呼吸をして、スーツの下に隠していたホルダーから拳銃を取りだした。これも、公安警察で会った、亡き父親の形見だ。
「春ちゃん、何てもの持ってるの?」
「俺は、警視庁から認められた拳銃所持者だからな。持ってても、銃刀法違反にはならねえよ」
「そ、そういう問題じゃなくて何を!?」
「なにをって、そりゃあ……」
慌てふためく神津を横に、俺はトリガーに指をかけ、標準を合わせる。揺れる機体の中、定まらない的。集中しようにも、プロペラの音がうるさく、久しぶりに握るそれは前よりも重量があるように感じた。気のせいだろうに。
「射的の腕は、ハルハルがトップだったもんね」
「ああ、鈍ってなければな」
そう颯佐の言葉に応えつつ、俺は犯人の持っている拳銃に向かって引き金を引いた。